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君を見つけたこの奇跡

「お二人してどういうおつもりなんですか!!」


 夕食を終え、チヒロと別れて宿屋の部屋に入った途端アラドが大声を上げる。やめろよな。お前の声、図体に比例してデカイし部屋に響くんだよ。アラドの部屋は俺達の隣。そんでもって更にその横がチヒロの部屋。下手したら筒抜けだぞ。

 アラドの言いたいことは分かるが、俺はワザとトボけてみせた。


「どういうって?」

「先程の食事のことです! いきなり初めて会った女性にあんな……」

「どこの馬の骨とも知れないのにって?」


 皮肉めいてそう言えば、アラドは言葉の勢いを緩めて頷く。


「……そうです」

「愚問だな。アラド。お前なら良く分かっているだろう。そうだと直感したら出自も身分も俺達には関係ないことぐらい」

「……」


 ほら否定できない。こいつだって血族の血を濃く引いているのだ。俺達の行動の意味が理解できない訳が無い。けれど理解出来ても納得は出来ないのか、アラドは更に口を開いた。


「ですが、今回はあまりにも……」

「アラド」


 それまで黙って俺達の言葉を聞いていたヴィーが初めて口を挟む。アラドの名前を呼んだその声は抑揚が無いので冷たく聞こえた。それだけでアラドは身を竦ませる。ヴィーの本気が伝わったからだ。

 それでもしばらく俺達の様子を窺っていたが、ようやく諦めたのか頭を下げた。


「……過ぎた口をききました。申し訳ございません」

「いや、いいさ。お前のそういう所に助けられてきたのも事実なんだから。だが、覚えておけ。今回は譲らない」

「承知致しました」


 それだけ言うと硬い表情でアラドは部屋を出て行った。どこまでも真面目で忠義を尽くす男だ。ここまで言ったからには、こそこそチヒロの事を嗅ぎ回ったりはしないだろう。

 アラドが心配するのは分かる。あいつの家は代々ウチの実家に仕えてきた。だからアラドは俺達の従者であり護衛であり幼馴染だ。真剣に俺達の身を、そしてこれからを案じてくれているのは間違いない。けれどもう俺達は出会ってしまった。チヒロ、という存在に。例えチヒロが犯罪者だろうと、俺達は止まらない。誰であろうと止める事なんて出来っこない。


「“下”から帰国したのは正解だったな、ヴィー」

「まさかこんな奇跡が起こるなんてね、アス」


 俺達は互いの顔を見て微笑む。頭の中に居るのは同じ人物。艶やかな黒髪を顎のラインで切りそろえ、象牙色の首筋が色っぽい女性。目尻は少し上がり気味で、意思の強さを感じさせる。何よりも魅力的なのは、あの目。まるでどこまでも闇が広がる夜空のような、吸い込まれそうな程美しい黒い瞳。それを思い出しただけで思わず笑みが深くなる。

 母国への帰路は楽しいものになりそうだ。

 

 


 

【少し前、翠の国】


「カノ――――――ン!!!」

「あれ? リアスくん。お勉強はもういいの?」

「……何をやっているんですか。リード兄上」

「やぁ、リアス。今日の授業は終わったのかい?」

「……何をやっているんですか。リード兄上」

「ん? カノンさんとお茶してる」

「~~~~~~!! さっさと出て行け―――――!!!」


 真っ赤な顔で弟王子に怒鳴られ、第一王子リードは「はいはい。じゃあね、カノンさん」と言って出て行った。リアスは兄王子が出て行くまで目を吊り上げて見送り、最後にバタンッとカノンに与えられた客室のドアを閉める。


「俺が居ない間に油断も隙もない」

「リアスくん。何も追い出さなくても……」


 ただ一緒にお茶を飲んでいただけなのに。けれどリアスに譲るつもりは無いようだ。


「ただでさえ、あの二人の滞在中はカノンに近づけなかったんだ! これ以上邪魔されてたまるか!!」


 そう言ってソファに座っていたカノンの膝に座り、正面から抱きついてくる。こんな可愛い事をされてはカノンとしてもこれ以上文句が言えない。仕方なく、抱っこされているような姿勢で自分にしがみついている婚約者の頭を優しく撫でた。


「リアスくん」

「なんだ」

「一緒にお茶する?」

「……後で」

「後で?」

「今はカノンにくっついてたい」

「~~~~~~!!(か、かかかか可愛い~~!!)」

 

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