1にカロリー、2にカロリー
次々と頼んだ料理が運ばれてきて、すっかりテーブルの上は料理で一杯。美味しそうな匂いに年甲斐もなくお腹が鳴りそう。まぁ、沢山運動したんだし、仕方が無いわよね。テーブルの真ん中には私の希望で追加された梨がくし切りの状態で盛られている。デザート気分だったので最後でも良かったのだけれど、この世界の食事は最初から全ての料理を一度に並べるのが定番らしいのよ。
これだけ肉料理が並ぶのならやっぱりまずはサラダを食べないとね。野菜を先に胃に収めれば肉の脂の吸収率を下げてくれるから。カロリーを気にする方はお試しあれ。
(あ、そうだ。ヴィーの分は……)
目が見えないのなら誰かが小皿によそってあげた方が良いかもしれない。そう思って料理から顔を上げれば、何故か目の前に切られた二つの梨が。
「え?」
「どうぞ」
「……」
えーと。どういう事なのかしら、これ。
今の状況を解説すると、私の向かいに座っているアスとヴィーは梨を刺したフォークを握っている。そしてどういう訳か、それを私に向かって差し出しているのだ。まるで二人同時に“あーん”をしているかのように。
「あの……?」
親切なのか冗談なのか判断つかない。明るくおしゃべりなアスならともかく、口数の少ない盲目のヴィーまでとはこれいかに?
困った私が助けを求めようとアラドを見上げる。そして更に驚いた。アラドは二人の行動に度肝を抜かれた、と言わんばかりに驚愕に目を見開き絶句していたから。顔の濃い彼がそんな表情をしていると、いやに迫力があって私も絶句してしまった。けれど彼も驚いているという事は、これは冗談なんだわ。
「……お二人とも、私は自分で食べられるから大丈夫ですよ?」
なんとか笑みを浮かべてやんわりと“あーん”をお断りする。差しさわりの無い言葉で誤魔化すのは社会人の常套句だ。
「そう? 遠慮しなくていいのに」
「……」
二人はフォークを引っ込めると、刺した梨を自分の口に放り込んだ。私はさり気なくサラダを取り分け、ヴィーの前に置く。
「ヴィーさん。サラダ、ここに置きますね」
目の見えない彼にも分かるようにワザと置く時に音を立てる。本当は食器の音を立てるのは良くないけどね。別に相手は取引先のお客様じゃないからお行儀なんて気にしない。すると彼は口元に笑みを見せた。
「……ありがとうございます。チヒロ」
あぁ、やっぱり良い声してるわ。声フェチの私としては中々の高評価ね。
「あ、ずりぃ! チヒロ、俺も!」
「はいはい」
結局皆の分を取り分けた。会社の飲み会みたいな気分よ。それにしても、こうして話をしてみるとアスは結構子供っぽい発言が多いみたい。もしかしたら予想よりも更に若いのかもしれないわ。
そう言えば、アラド。この人いつまで固まっている気なのかしら。