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それを人は誘拐と呼ぶ

「きゃっ!!」


 突然の突風。体ごと持っていかれそうな強風に思わず私は両目をつぶった。あれ、そもそもなんで室内なのに風なんか……


(え? え?)


 ふわっと浮く体。何? もしかして本当に風に煽られて……? バンッと何かが乱暴に開く音がしたと思ったら、私はいつの間にか硬い物の上に臥せっていた。先程のような強風ではないけれど、私の髪は今も風に煽られている。


「んっ、まぶし……」


 瞼の向こう側が明るくなって恐る恐る目を開ける。すると目の間には黒くて艶々とした何かの塊。いや、私はその塊の上に居た。よくよく見ればそれは美しい鱗に覆われた竜の背中。私が伏せていた場所の両側から左右に大きく伸びた翼がゆっくりと上下している。前方には長い首と鱗が変形したような黒々とした角。竜の顔はこの位置からは見えない。後ろを振り返れば長い尻尾が揺れる向こう側に少しずつ遠ざかる王城が見えた。


「……もしかして、ナキアス?」

『ごめん』


 どうやらレビエント殿下との会話の途中で突然竜になったナキアスが私を乗せて窓から飛び立ったみたい。竜化したナキアスでは私を背中に乗せることはできないから、恐らくナルヴィも共犯なんでしょう。此処に居ないという事は、彼は部屋に残ったのかしら。


「ねぇ、今私、大切な話を……」

『だって!!』


 体の奥を震わせながらナキアスが叫ぶから、彼の背中に居る私にもその振動が伝わってくる。


『だって……、もし、もしもアカリが帰る方法を知っていたら、チヒロはいなくなるんだろう?』

「えぇ。そうね」

『俺はヤダ』

「約束が違うわ。共に居るのは故郷に帰るまでと言った筈よ」

『帰らなければいいじゃないか! そうしたらずっと一緒に居られる』


(納得した訳じゃなかったのね……)


 そう簡単に二人が引き下がると思ってはいなかったけれど。まさか邪魔までするなんて。


「ナキアス。貴方達が邪魔をするなら、私は二人の傍には居られないわ」

『…………』

「どうしてか、分かるわよね?」

『……分かってる』


 私の目的は故郷へ帰ること。それはあの日、はっきりと告げた事実。


『だって、だってこんなの早すぎる』


 そうね。少しでも私と長く、そう願ってくれる貴方達にとっては早すぎる展開かもしれない。


「もしも彼女が私と全く同じ境遇なら、帰る方法は知らない可能性の方が高いと思うわ。それにね、ナキアス。“アカリ”ってね、女性の名前なの。その人がどんな人が知らないけれど、もしも女性が一人この世界で心細い思いをしているのなら、私は彼女に会わなくちゃ。一人じゃないこと教えなきゃ行けないと思うのよ」

『……アカリなら知ってる』

「え?」

『夏節祭で会ったよ。まだ成人前の女の子だった』

「そう……」


 なら尚更会って話をしたい。成人前ならまだ学生でしょう。家族と離され寂しい思いをしているかもしれない。


『チヒロ。アカリに会いに行ってもいい。でも、必ず俺達の所に帰ってきて』

「えぇ。分かってる。貴方達に別れも告げずに居なくなったりはしないわ。約束する」


 だからもう誘拐まがいな事はやめて頂戴。ホント心臓に悪いわ、この双子。

  

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