せめて女であって欲しかった
紅の国の王子様はどうやら先日の騒ぎの知らせを受け、わざわざお見舞いとして訪問しているらしい。同じ護国に属する為か随分仲が良いみたい。
そんな訳で、ナキアス・ナルヴィとアラドは紅の国の殿下を迎えるべく席を外している。最初はこの部屋から離れる事に良い顔しなかった二人だったけど、いくらなんでも他国の王族がワザワザ訪問しているのに顔を見せないなんてあり得ない。だから私が半場強制的に追い出したのだ。
……って、なんで私が彼らの外交にまで気を使わなきゃならないのよ。
(やっぱり、大事になってるのねぇ)
ナキアスとナルヴィが竜化したまま森に引きこもった件は護国の王族へそれぞれ連絡がいっていたらしい。自国の恥は隠すものだと思っていたけれど、どうやら護国の間にそういう考え方はないみたい。ま、元を返せば皆竜なのだし。仲間意識の方が強いようね。
そんな事を考えつつ明日から始める事になった仕事の資料へ目を通そうとした時、外からドアが開かれた。
(まさか……)
「チヒロ~! 待った?」
「お待たせ、チヒロ」
「ちょ……何やってんのよ、貴方達!! まだ全然時間経ってないじゃない!」
まさか本当に挨拶だけして帰ってきちゃったんじゃないでしょうね!!? 王族といったら外交が最たる仕事でしょう!? 相手に失礼な事してどうするのよ!!
「大丈夫大丈夫」
「だ、大丈夫って何が……」
言いながら私に抱きついてくるナキアス。ナルヴィが横から私の頭を撫でている。そして二人の向こう側、扉からもう一人室内に入ってくる人影があった。
「安心して。だってこっちに連れて来たから」
そんなナルヴィの言葉と共に姿を現したのはスレンダーな美女。鮮やかな赤毛に黒の国民とは違う小麦色の肌をしている。瞳もルビーのような澄んだ赤色で、思わず言葉を失ってしまった。もしかして、紅の国の人? 服も上等なものを着ているけれど、レビエント殿下の侍女さんかしら?
挨拶もそこそこにお客様を放置してきたのかと思いきや、二人が大丈夫といっているのはお客様ごとこちらに移動してきたから大丈夫、って事みたい。いや、それちっとも大丈夫じゃないじゃない。しかしこの人王子様の御付の人だけあって美人ねぇ。もうすぐ殿下もこちらに来るのかしら。ぼーっと見蕩れていると、スレンダー美女が口を開いた。
「やぁ、お邪魔します。貴方が両殿下の大切な人?」
「うん。チヒロだよ~」
「レビエントはこれ以上近付いちゃダメだからね」
ん? レビエントって、確か紅の国の王子様の名前じゃ……。
「やれやれ。相当な入れ込み様だね。まぁ、貴方のような美しい人じゃ、二人が夢中になるのも仕方が無いのかな?」
正統派美女にお世辞を言われるとむなしくなるのは何故かしら。しかもどうやら、スレンダー美女は王女様ではなく、王子様らしい。
男に負けてるって……、本気でへこむ。




