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お客様は突然に

 ソファの真ん中に座った私の左からはクッキー、右からはマドレーヌが差し出されている。どちらからも美味しそうな香りがするけれど、私はそれらの誘惑を無視して目の間に置かれたティーカップを口に運んだ。喉を潤し、対面に座ったアラドを見る。


「この二人の事は気にしないでいいから話を続けて」

「……はい」


 多少引きつった顔でアラドが頷く。それも仕方ないわよね。自分が使えるべき主の動向を無視しろと言われたのだから。

 けれど当の本人達はそんな言葉も耳に入っていないのか、私の両サイドを陣取って楽しそうに先程から『あーん』を続けている。バカね。それが求愛行動だと知った私が応じるわけ無いでしょう。

 私は確かに元の世界に帰るまでの間彼らの傍に居ると約束した。けれど、求婚はきっぱりと断っている。だから体を許しても求愛は受け取らない。私なりのけじめだ。


「では……チヒロ様のご希望通り、財務の仕事をご用意致しました。お席は主に地方税の計上と管理を行っている部署です」

「無理矢理用意したわけじゃないわよね?」

「えぇ、勿論。常に忙しい部署ですから。同部署の者達は皆喜んでおりましたよ」

「そう。なら良かった」


 アラドには今後の私の身の振り方について相談してあった。『伴侶』ではないのだから、王族の庇護からは自立した生活がしたい、と。そのために必要なのが仕事と住まい。けれどどちらも彼らと距離を置き過ぎるのはダメだという条件付。離れ過ぎればナキアスとナルヴィが何をやらかすか分からないと私もアラドも学んだからだ。

 だから王城内の仕事に就かせてもらう事にした。双子は自分達の秘書にと熱望していたけれど、勿論私が却下した。まったく公私混同甚だしいわ。

 私が経理事務の経験がある事を話してあったので、アラドは財務の席を用意してくれた。かと言って私はいつまで此処に居るか分からないあくまでよそ者。当然重要機密に触れるような中枢の仕事からは外されるべき。色々と我侭を言った結果、以前役場でやっていたような地方税の管理に当てられた。色々条件つけたわりに的確な配役。アラドってできる男だわ。


「お部屋は今まで通り、この客間をお使いください」

「…………仕方ないわね」


 仕事が決まったとなれば次は住まい。これが難題だった。

 城に住むのは絶対に避けたい。だから城で働く人達の寮に住まわせてもらえないかアラドに訊いてみたのだけれど、部屋は移動できないと言われてしまったのよね。何故なら私が寮に住もうが城下街に住もうが、ナキアスとナルヴィは人目を気にせず訪ねてきてしまうから。流石に両殿下が部屋に通っている所を人に見られるのは不味い。ヘタに街に噂が広がりでもしたら、それこそ婚姻から逃げられなくなる。それよりはこのまま客間を借りる方がマシだろうと判断したの。


「失礼致します」


 ノックと共に顔を見せたのは小柄な侍女さんだった。彼女は入口に立ったままはっきりとした口調で二人の王子に告げる。


「紅の国第一王子レビエント殿下がいらっしゃいました」

 

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