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ドラマより平穏を求む

 

「はい、やり直し」

「えぇ! また?」

「仕方ないでしょう。間違ってるんだから。単純な計算ミスよ」


 私は訂正箇所に丸をつけて、肩を落とす同僚にその書類を突き返した。


 ここは小さな町役場。そこで私は財務処理の仕事を手伝っている。要は国へ納める為の税の管理。小さな町だからそれ程量はないし、元々会社では経理部に所属していたからこういう仕事は得意なの。何より、此処の人達は書類の不備が多くて……。特に計算が苦手な人が多いみたい。だから有り難い事に暗算が得意な私はここで重宝されている。


 結局、王城を抜け出した私はあの後城下を離れた。せっかく仕事を探す為に訪れた街だったけれど、彼らにすぐ見つかってしまうような危険を避ける為だ。

 そんな訳で城下から丸一日馬車で南東へ下ったこの町に落ち着いた。まぁ、権力を振りかざして本気で探されたら直ぐに見つかってしまうでしょうけど。それでも今の所そんな様子は無い。町の人達に聞いても城の人が探しに来た様子はないし、指名手配の情報も上がってこない。


(すんなり諦めたのかしらね)


 当人達を見る限りはそう簡単に諦めそうになかったけれど、私の姿が見えなくなったら意外に冷静になったのかもしれない。それはそれで寂し……いやいや! 何言ってるの!! 逃げ回らなくて良いのだから、平和でいい事だわ。

 と、せっかくそう思っていた所だったのに……


「チヒロ様!!」


 役所に飛び込んできたのはこの町の人間ではない大男。癖の強い天パに見覚えのある濃い顔つきが、焦った顔で私の名前を呼んだ。


「え? ……もしかして、アラド?」


 それは旅用のマントを着たアラドだった。久しぶりに見る顔に、私は当然嫌な予感を覚える。


「今すぐ私と共に来てください!!」


 彼の焦り様を見れば何か異常な事態が起こったのだと分かる。けれど私は迷うことなくきっぱりと告げた。


「嫌よ」


 当然でしょう。行けばあの二人の餌食だわ。

 そんな言葉も想定内だったのか、アラドは驚きもせず私の方に近寄って来る。その迫力に私は慌てて後ずさり。だからその濃い顔怖いんだって!!

 けれどアラドは軽々と役所のカウンターを乗り越えてきた。


「今度ばかりは貴方の意見を聞いている暇はありません」

「ちょっと、今更何を……、きゃっ!!」


 気づけば荷物のようにアラドは私を肩に抱えていた。ちょっとちょっと!! これって誘拐じゃないの!?

 助けを求めて同僚達を見ても突然の出来事に皆ポカーンとした顔で私達を見送るだけ。まぁ、そうりゃそうよね。何よりアラドは王子達に使える従者。町役場の人間が逆らえるような相手ではない。


 そんなこんなで私の平穏な生活はたったの二週間弱で終わりを告げた。

 

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