両手に花ならぬ竜?
目が覚めた私は分厚いカーテンの隙間から零れ出る白い光を見つめ、朝が来てしまったことを悟る。そして深々と溜息を吐いた。昨日の内に城を出るつもりだったのに、ナキアスとナルヴィのお陰で頓挫してしまったからだ。
そしてその原因となった二人といえば……、今私の隣で気持ちの良い寝息を立てている。因みに私から見て左がナキアス、右がナルヴィ。あぁ、どうでもいいわよね、そんなこと。
(……どうして他の人には見分けが付かないのかしら)
正直、本気で疑問に思う。目を閉じた寝顔でも私には判別が付くくらいなのに。
(ん?)
体を起こそうとした私は、すぐさまそれが不可能な事に気がついた。私の腰をナキアスが抱き、そして右足にナルヴィの足が絡みついていたのだ。
(このエロガキ共!!)
昨夜の攻防を思い出して頭が痛くなる。あ、先に言っておくけど何もなかったわよ? 本当よ?
二人の見事な連係プレーで服を脱がされそうになったけど(実際半分以上脱がされたけど……)何とか途中でそれを留めた。まぁ、昨夜一晩逃げずに共寝するのが交換条件だった訳だけど……。
私は二人を起こさないよう静かに拘束から抜け出してベッドを降りた。
今まで付き合ってきた男性は何人かいる。私もいい歳だ。当然結婚を考えた事もあれば、酒の勢いで流されて付き合ってもいない男性とベッドを共にした経験もある。それでも、そういう時は大抵割り切れる関係だったから楽だった。
けれどこの二人の場合そうはいかない。大人の関係だからと割り切れるような間柄じゃない。二人は本気で婚姻を求めているのだから。けれど一瞬だけ、このまま流されても良いかと思ったのも確かだ。
(絆されたのかしら……)
二人の気の毒な境遇を聞いたから? 今までにない程熱心に求められたから?
(多分、両方ね)
なら、今出来る事は一つだけ。二人が目を覚まさない内に姿を消す事だ。
(荷物は諦めるしかないわ。背に腹は変えられない)
二人が目覚めてしまえば絶対に逃げられなくなるのは目に見えている。時間との勝負だ。
昨夜乱されたままの服をさっと整えて寝室のドアノブを回そうとしたけれど、内側から鍵が掛かっていた。コレ、恐らくナルヴィの仕業だわ。
(用意周到……)
城の誰が来ても邪魔が出来ないように彼が鍵をかけたみたいね。音がしないようそっと回すだけの鍵を開け、扉の隙間に身を滑り込ませる。まるで泥棒にでもなった気分だわ。
客室を出た私はすぐに息を飲んだ。部屋の前の廊下にアラドが立っていたのだ。
「おはようござます、チヒロ様」
「……おはよう」
「お荷物はこちらです」
そう言って彼が手渡してくれたのは確かに私のバックパック。てっきり止められるかと思っていたからその行動は意外だった。
「行っていいのね?」
「えぇ。いくら王族でも無理強いすることは出来ませんから」
「そう。ありがとう」
ならば、と遠慮なく荷物を受け取り歩き出す。
仕方ないじゃない。最初から無理だったのよ。あぁ、私、一体誰に言い訳しているのかしら。




