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無理なものは無理

 正妃!? 冗談じゃない!

 ちょっとでも双子に同情しかけた私だったけれど、やっぱり今すぐ此処を出て行くべきだわ。立ち上がった私に、アラドは冷静な顔をしていた。先ほどのように慌てて追いかけるような素振りは見せない。ちょっと不気味ね。

 いぶかしむ私に気づいたのか、アラドはゆっくりと言葉を紡いだ。


「竜は一度心に決めた相手を変えることはありません」

「竜……?」


 あ、そうか。護国の王子って事はあの二人、竜なんだ。

 驚くべき事に、この世界には地球には居なかった竜という生き物が存在している。翠の国でお世話になっていた時、翠の王族が竜の姿で黒の国から帰国するのをミスグレイの人達と一緒に私も見物したのだ。なんでも護国の名前の由来は『竜が守護する国』。護国の民の先祖は竜で、その血を最も濃く引いているのが各国の王族。血の濃い人々は竜の姿に変身する事も出来ると言うのだから驚きだ。

 えーっと、それでなんでしたっけ? 竜は決めた相手を変えないとか何とか……。


「……アラド。断っても私が罰せられる事は無いって言ったわよね?」

「罰はありません。断る事は可能です。ですが、お二人は永遠にあなたに求婚し続けるでしょう」

「何よそれ!! 断れないのと一緒じゃない!!」

「竜とはそういう生き物なのです」

「だからって、はいそうですか、って私が言うとでも思ったの!?」

「……いえ、思っておりません」

「大体ねぇ、あの二人が私に執着するのはたまたま私が二人を見分けられるからでしょう? 探せばそんなの他にも……」

「チヒロ様」


 意外に力強い声で遮られ、私はむっとして返事をした。


「……何よ」

「夕食の際、両殿下があなたにお食事を差し出したのを覚えていますか?」

「あぁ、梨やパプリカのこと?」

「そうです。あれは竜の本能的な求愛行動です」

「きゅうあいこうどう!?」


 ってことは……、二人は会った初日から私に決めていたって事? そんなの有り得なくない? けれどあくまでアラドは真面目な顔をしている。


「お分かりになりましたか?」

「急すぎる……。結婚って一生の問題でしょう? もっと相手を良く知ってからの方が良いんじゃないの?」

「えぇ。ですが、竜とはそういう生き物なのです」

「またその台詞……。ずるいわね、その言い訳」

「申し訳ございません」


 アラドが頭を下げる。自覚があるのだろう。けれど、私の意志は変わらない。地球に帰る。帰って今まで通り仕事して、仲間達とお酒を飲んで、女友達と買い物して、たまには両親の愚痴を聞いて……。そんな日常に戻るのよ。


「あなたに同情はするわ。けど、例え本当にあの二人が私以外の女性を選ばないにしても……」


 硬い表情の従者を正面から見返し、そしてきっぱりと告げた。


「私は二人の求婚を受けることは出来ないの」

 

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