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おいしい話にご用心

(明日はやっと王都ね)


 お風呂上りで濡れた髪を拭きながら、私は窓の外を眺めていた。元の世界に比べれば驚くほど少ない夜の明り。その代わり沢山の星がはっきり見える。


(王都に着いたらまずしばらく泊まる安い宿を探して、それから仕事。王都っていうからには他よりも求人が多いことを願うわ。その為にわざわざ此処まで来たんだし)


 行商の人達とは王都の手前で別れる事になっている。そこからは辻馬車が出ていると言うから、それに乗って行く予定だ。


(アス達も悪い人じゃないんでしょうけど、イマイチ信用ならないのよねぇ)


 だから仕事を紹介して貰おうという計画は今の所保留にしている。どうにも彼らの行動には不可解な点が多い。それに深く踏み込もうとするよりは、面倒事は避けて通りたい。だからあえて触れずにいる。


 コンコンッ


 控えめなノックの音に私は首を傾げた。もう深夜に近い時間なのに。訪ねてくる心当たりなんて限られているけれど、こんな時間に一体何の用かしら。

 開けたドアの前に立っていたのはアスだった。うん、予想通りね。


「こんばんは。チヒロ」

「どうしたの、こんな時間に?」

「うん。ちょっと話をしたいと思って。中に入っても良い?」

「……。どうぞ」

 

 ちょっと警戒しつつ、彼を招き入れる。まさか彼みたいな若者がアラサー女に夜這いを仕掛けるなんてことは無いでしょうけど、それにしたって夜中に女性の部屋に入るのだから警戒されるのは当然でしょう。


「そこ座って」

「うん。ありがとう」


 先ほどまで私が座っていた窓際の丸椅子を勧め、空いた椅子の無い私はベッドの上に座る。彼も就寝前だからか、綿のシャツ一枚とカーゴパンツとラフな格好だった。


「それで、話って?」

「うん。チヒロは王都に着いた後どうするのかなっと思って。実家が王都にあるの?」

「いいえ。王都へは仕事を探しにきたの」


 王都と言えば首都と同じ。人の集まる場所に仕事を求めてやってくる人など珍しくも無い筈。そう思って素直に答えれば、彼は目を輝かせた。


「成る程! 仕事ね〜。なら俺が紹介しようか?」

「……あら、本当に? 因みにどんな仕事なの?」


 多少返事までに間が空いてしまった。だってこんなに早く仕事が見つかるなんて話が上手すぎる。それに彼の言葉は不安を覚える程調子が軽い。私はもう若くはないのだから体力の使う仕事は避けたいし、かと言ってまだまだこの世界の知識を十分には知らない身。違う世界の人間、とはバレずにやっていかなくてはならない。だから出来る仕事は結構限られている。単純作業のルーチンワークかミスグレイのような食事処が無難よね。

 私が見返すと、アスはにっこりと笑った。


「全然難しい仕事じゃないよ。俺達の実家に着いたら教えるね」


 あら? その笑顔に安心どころか益々不安になるのは何故なのかしら。

 

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