勇者が来る
「今勇者はどこらへんだ?」
渡された動力を体内に取り込み、愛用の剣2本を鞘に納めて玄関に向かう。
「現在、城から16km程離れた所にいますがこちらに向かってくるスピードが異常です。もうすぐで、だいたい14km辺りに到達します」
カミヤは俺の横で左目だけを閉じながら勇者の様子を教えてくれる。彼女が今使っている術式はいわゆる『透視』と呼ばれるもので、遠くにある物体や人物を探し、見つけることができる。
俺も魔力の流れなどで、ある程度の位置は把握できる。しかし今は力の使用を抑えたいし、カミヤの方が透視能力は正確なので任せるに限る。
「仕掛けてあった対侵入者用のトラップは?」
「お構いなしに進んでいるようです。すべて破壊されていますね」
「だろうな、カミヤ、透視はもういいから俺に補助魔法と、玄関の扉に強固の魔法かけてくんねぇ?」
扉の前に着いたので、新たな指示を出す。
強固魔法というのは、対象の物質を頑丈にし、更にそれが扉や箱だと開きにくくする、という魔法だ。
生き物にはかけられず、魔法使用者の力量によって強度などがかなり変化する。
「扉に……ですか?」
「ああ、お前の強固魔法は俺でも壊すのに苦労するレベルだからな、扉が開かなければ諦めてくれるかもしんねーし」
「構いませんが多分すぐに破られますよ」
そう言いながら、カミヤは扉に強固魔法をかけるべく準備を始める。
「ありがとな。後、俺に補助魔法かけたら、お前は他の部下連れてどっかに避難してくれ」
「なっ!?」
俺のセリフに、カミヤは戦う気だったと言わんばかりにこちらを睨む。
「別にお前が弱いって言ってるんじゃない。魔界でナンバー2なんだしな。だけど今回の相手は勇者だ。俺は戦いながらお前たちを守れる自信はない」
「……分かりました」
俺の真剣さが通じたのか、カミヤは渋々ながらも引きさがってくれた。
「今回の補助魔法は最上級にしておきますからね、負けたら承知しません」
「最上級の補助魔法はかけてもらったことがないから楽しみだ」
補助魔法とは言葉の通り魔法対象者を補助する魔法だ。夜目が効くようになるものや、魔法攻撃力を上昇させるものなど種類は無数にあるが、カミヤは大抵筋力、魔力、体力の増強と、防御力関連の魔法などをかけてくれる。
「――ってカミヤ!? なんで抱きついてくるんだ!?」
「だ、黙ってください! これが一番効率がいいんです!!」
顔を真っ赤にしながら、俺にぎゅーっと抱きついてくるカミヤ。いつもと違うなんとも愛らしい姿を見ているせいか息が上手くできないし、胸がぎゅーっと締め付けられるような感じで……まさかこれは……
「カミヤ……締まってる……息が……! 恋と勘違いしちゃう程の酸素がな……い……」
自分でも何を言ってるか分からなくなってきた。
「恋と勘違いしてくれるならそれはそれで……じゃなくて!」
ごにょごにょと何かを言って、カミヤは慌てて俺から離れる。
「ったく……力入れすぎ……ってかお前……」
どことなく顔が赤いカミヤをじっと見つめる。
「なっ、なんですか!?」
「いや、あれだけ密着してもあまり当たってなかったっていうか……」
「……? なんのことです?」
「だからその……何と言うか……」
俺が口ごもっていると、カミヤは不機嫌そうにこう言った。
「まどろっこしいのは嫌いって知ってるでしょう? はっきり言ってくださいよ」
カミヤは普段とても察しがいいのに、なんでこういうのは鈍いんだろうか……
「怒らない?」
「怒りませんよ」
「本当に?」
「しつこいですね」
「じゃあ言うけど……」
しっかりカミヤの瞳を見て、俺は言葉をゆっくりと紡いだ。
「カミヤって胸ないよなぶっ!!」
思いっきり殴られた。
「魔王様のばーか!!」
カミヤはそのまま走り去っていった。
「なんか緊張感無くなったけど……あとは勇者を待つだけ、か……」
お久しぶりですの続編。
結局何一つ守れていない自分は馬鹿です……!!