魔王と部下
「あっはははは! 全く、傑作ですね!」
城に戻った次の日、俺は部下のカミヤに昨日の出来事を話して聞かせた。ちなみに昨日俺を引き留めてたのもこいつだ。
「そんなに笑うな!」
「だって……この駄目魔王に惚れるとか……ふふふ……」
目尻にたまった涙を拭いながらカミヤは笑う。
「もう少し言い方ってのがあるだろ……」
「あ、失礼。だってこの役立たずのアホ馬鹿チキン駄目駄目魔王に惚れるとか……ですね」
「悪化してんじゃねえか!!」
こいつ……昨日俺が帰ってきた時は泣きながら抱きついてきたってのに……。
「自分も女ですが、魔王様に惚れるなんてことはあり得ません。全く……くくく」
カミヤは苦しそうにまだ笑っている。
こいつは栗色の髪をポニーテールにして、きれいな緑色で切れ長の瞳。はっきりとした性格で、上司の俺にもすぐ軽口を言う。まあ俺の一番の部下なんだがさらりと毒舌だ。
「そりゃお前にはもっと相応しい人がいるだろうよ。俺もお前には絶対惚れん」
「そう……ですね」
皮肉交じりに返すと、カミヤは何故か少し悲しそうに笑った。
「にしても昨日はほとんどの動力を使っちまったからな……」
「動力を変えれば良いのに。そのほうが効率的ですよ?」
「いや、魔王としてそれは譲れない」
やはり魔王にもプライドがある。
「変にずれた良い魔王ですね。全く、なんなら私を殺しますか? ある程度の動力は得られるでしょう?」
「殺せるわけねえだろ馬鹿。分かってて言うなんて趣味悪いぞ」
無造作にカミヤの頭を撫でていると遠くから誰かが走ってくる音がした。
「失礼いたします! 緊急事態です!」
バタン! と勢いよく扉が開いて門番が入ってくる。
「何事だ」
「それが……勇者と名乗る女が魔王様に会いに来たと……。こちらが追い返そうとしたところ、現在武力を行使して城に向ってきており、既に何名かが負傷しております!」
「もう来たのか……!」
正直、あれで諦めてくれるとは思っていなかったが、想像以上に来るのが早い。
「俺が迎え撃つ」
「なりません!! 早急にお逃げください!」
門番は慌てたように俺を引きとめる。
「お前たちでは止めれん、それにあいつは俺の命を狙っているからな。この戦いは避けられん。逃げるのも癪だしな」
「昨日は逃げてきたくせに」
カミヤの呟きを無視して言葉を続ける。
「倉庫に動力を結晶化させてストックしてあっただろう。いくつか持ってきてくれ」
カミヤにそう命じると、彼女はあからさまに溜息をついた。
「はいはい、どうせ止めても行くんでしょう。全く……少しはこっちのことも考えて下さいよ」
ぶつぶつ言いながらカミヤは倉庫に向かおうとしてピタリと足を止め、振り向いた。
「ところで、魔王様は勇者を殺すおつもりですか?」
「うーん……正直、俺を殺すのを諦めてくれるんら殺そうとは思わないかなぁー」
「やはり貴方は魔王に向いてませんね」
カミヤは優しげに微笑むと、倉庫へ走って行った。
今回は部下ちゃんがいっぱい(?)登場です。