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最愛の彼女のわたし(ドッペルゲンガー)は、キミと二度目の恋をする。  作者: 茉莉鵶
第1章 最愛の彼女のドッペルゲンガーとキミ
1/1

第1話 キミの最愛の彼女(わたし)はドッペルゲンガー

令和六年七月某日────


 “わたし”は、生まれながらのドッペルゲンガーで、俗にいうところの怪異だ。

 いつ生まれたかなどは、もう覚えていない。

 それくらいの悠久の時間を、わたしに与えられた能力である【写し身】をして、人間に成り済ますことで、生き永らえてきた。


 よく、ドッペルゲンガーに性別はあるのかと、聞かれるがそんなものはない。

 ただ、他の同族がどう感じているかは分からないが、わたし的に言えば性自認くらいはあると思っている。

 それは、人間の女性の【写し身】をした時の方が、何となくだがしっくりくるからだ。

 人間の性自認だって何となくが多いと聞くので、ドッペルゲンガーだって、何となくで良いと思っている。


 だから、わたしの性自認は女性だと思うことにした。

 なので、自分のことを呼ぶ時は、“わたし”と言うように心がけているし、写し身する対象だって、人間の女性限定にしている。

 それに、わたしは他のドッペルゲンガーと違って、人間の【写し身】はするけれど、もう一つの能力の【取り込み】をして、人間を取り込んでその姿や記憶まで同化し、その本人に成り代わろうとは思ったことはない。

 いや、先程まではなかったが正しい。


 ある頃から、わたしは他の同族から譲り受けた、スマートフォン(以降、スマホ)なる文明の利器を使い始めた。

 暫くすると、ソーシャルネットワークサービス(以降、SNS)という、不特定多数の人間たちと交流が出来る仕組みに触れ、徐々にわたしはそれを理解していった。

 そして、わたしはInstant Callee(以降、インスカ)というSNSのサービスに出会ったとことが、今の生業を始めるキッカケとなった。


 インスカ上へのメッセージを投稿する際、ハッシュタグ(以降、#)を入れる事が出来、そのタグをインスカ上で検索する事で、索引の代わりとなる。

 そこで、わたしは“#おねがいあいたい”というタグで、もう一度会いたい人の願いを募り、そこから問題なさそうな内容を選び、叶えることを生業として始めた。

 それこそ、はじめのうちは殆どと言って良いほど、反応はなかった。

 でも、一人、二人と、その会いたいという願いを叶えていくうちに、噂が広がりSNS上の都市伝説とまで呼ばれるようになっていた。

 流石にそこまでくると、冷やかしや嫌がらせと言った、悪意のある投稿が増え始め、投稿内容の真偽の見極めにも、慎重に成らざるを得なくなってしまった。


 それは、つい先程のことだった。

 わたしは、“#おねがいあいたい”の投稿から選んだ、一人の女性とダイレクトメッセージチャット(以降、DMチャット)でやり取りをし、こちらが指定した都内の喫茶店で、初めてお互い顔を合わせた。

 元来、ドッペルゲンガーは無貌の怪異である。そんな姿で都内を歩けば、瞬く間にSNSで拡散されてしまい、大騒ぎになり他の同族に迷惑をかけてしまう。


 その為、現在のわたしの姿は、大昔にドッペルゲンガーと知った上で、親身になって世話を焼いてくれた恩人の女性の【写し身】をしている。彼女は自分のことを、“おさき”だと、わたしには言っていた。

 ただ、“おさき”は本名だったのか、偽名だったのかは、数百年も経った今となっては、知る術もない。

 しかし、駿河国の駿府の出だと言っており、戦禍を逃れて流れて来たと、言っていたのは記憶に残っている。

 そんな“おさき”は、当時の女性にしては、目鼻立ちがハッキリしており、背こそ低かったが、世が世なら男装が似合いそうな程、女丈夫で美しかった。

 わたしは、そんな彼女の今際の際には立ち会っており、その時に『わたしの姿を使ってくれ』と言われている。なので、わたしは“おさき”に無断では、【写し身】を使ってはいないことは言っておく。


 話を戻すが、わたしは“おさき”の【写し身】を基本に、髪型をショートヘアにし、パンツスーツ姿の出立ちで、テーブル席に女性と向かい合うように、腰掛けた。

 願いを叶えにきた女性は、息つく間もなく、わたしの目の前へと、自分のスマホの画面を黙って差し出してきた。

 スマホの画面に見えたのは、メモ帳アプリに打たれた『ドッペルゲンガーさんで、間違いありませんか?』という文字だった。


 とりあえず、わたしは騒ぎも争い事も起こすのは嫌いなので、女性に軽く頷いてみせた。

 すると、女性はとても嬉しそうな表情で、わたしに向かって『今すぐ、わたしを取り込んで下さい。それがわたしの願いです。』と静かに呟いた。


 実をいうと、いつもわたしが願いを叶える際に、指定する喫茶店は、ドッペルゲンガーが店主に成り代わって営業している。それ故に、万一店内で問題が起きた場合は、わたしの口から言わなくても想像はつくだろう。

 ただ、それは最悪なケースの場合であり、わたしも願いを叶える人間には、細心の注意を払ってきたつもりだった。唯一、この女性のケースを除いては。


 人間を【取り込む】などわたしの信条に反しており、あからさまに困惑した表情を、目の前の女性に見せた。

 すると、女性はわたしに対して自分の身の上話をし始めたのだ。

 

 わたしを困惑させた女性の名前は、成岡(なるおか)澄夏(すみか)と言った。

 齢は二十五歳で、“おさき”と同じ駿河国の駿府の生まれだという。それは冗談で、澄夏さんが言ったのは、静岡市葵区の生まれという事だった。

 その話を聞いたわたしは、何かの縁を感じずにはいられなかった。

 澄夏さんとは目線の高さこそ、“おさき”の【写し身】のわたしと変わらないが、それ以外は真逆の容姿をしている。

 肌は白くて髪もロングヘアで、顔立ちも目が大きく小顔で童顔な美人で、非の打ち所がない。


 そんな澄夏さんが、ドッペルゲンガーのわたしに取り込まれたい理由は、三つあった。

 一つ目は、実は数年前より不治の病を患っており、余命幾許もない身体で、あと一ヶ月程の命だった。その事実を、自分の近しい人間たちにすら、未だに伝えることが出来ていないのだと言った。

 二つ目は、最愛の恋人と同棲生活をおくっているが、前述の通りで伝えられておらず、残して逝くことが何より心残りで心配のようだった。

 三つ目は、ドッペルゲンガーに取り込まれれば、本人の身体や記憶は同化され、ほぼ本人として生き続けることができるのだと、言っていた。

 ただ、それはドッペルゲンガーが本人に成り代わることを意味しており、わたしはそれでも【取り込み】を望むのかを、澄夏さんに問い糺した。


 しかし、澄夏さんの決意は固く、わたしの言葉で揺らぐことはなかった。

 逆に、わたしに対して澄夏さんは、『わたしは不治の病に負けて、もう生きられない。だから、あなたにわたしの人生をあげる。』と、始めた。

 そして、最後に『わたしの最愛の恋人が死ぬまで、あなたが代わりに愛すると誓って。』と、加えて。


 澄夏さんの固い意思を、感じ取ったわたしは『澄夏さんの最愛の恋人が死ぬまで、愛すると誓います。』と返すと、最初で最後と決めた【取り込み】を、発動させたのだった。

 わたしの身体へと、徐々に取り込まれていった澄夏さんの表情は、最後の最後まで穏やかな笑みを浮かべたままだった。

 やがて【取り込み】が終わると、わたしの身体が“おさき”から澄夏さんに代わったのを感じた。

 すると、澄夏さんの記憶が、わたしと同化する為に流れ込み始めたのだが、その最中に衝撃的な事実を知ることになった。


 どうやら、澄香さんと同棲している最愛の恋人とは、幼少期からの幼馴染で同級生だった、同性の女性のことだったのだ。

 全く予想もしていない展開に、わたしは一人でテーブル席に腰掛け、澄夏さんの記憶とのにらめっこが続いたのは言うまでもない。

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