新しい生活
教会のバザーに出したハーブの小物達がずいぶん評判になった。
ラベンダーやローズマリーやカモミール、ミントやレモングラス。個別やブレンドで作った香り袋やハーブティのセットが市販品より「リラックス」「安眠」「気持ちがスッキリする」とかで、ひっきりなしに問い合わせが来るので、最初は雑貨屋に置いてもらった。それでも追いつかないので、ちゃんと工房を作って販売することになった。
本格的に商品として出すために、香り袋にはこの街で見られる鳥や動物の刺繍を入れた。ハーブティの紙タグにも印刷した。ハーブ入りクリームもメーカーと提携してクリームを卸してもらって、ハーブを入れて工房のマークである鳥や動物達の型を押した缶に入れて売り出すことにした。
近くの空き家を手に入れて、ジュードの工房『L’éternité』がスタートした。
年の近い主婦五人を雇って手伝ってもらう。部屋ごとに工程を分けて作業をしてもらい、ジュードは各部屋を見回る。そうしている間に、いろんな話が聞けるようになった。
「え? なんて言った?」
一番年上のマリアンの話に思わず力が入った。
「うちの人、もう十年も愛人がいるんですよ」
「十年って……それでいいの?」
「いいも何も、別れたら一人で子供達を食べさせていけないですからね。それが分かってるから、私を馬鹿にしてるんですよ」
確かに、高等教育を受けて学校の先生になるか、公務員になるかじゃないと、女性が一人で子どもを育てられるような賃金は貰えない。
マリアンには商品の出荷作業を頼んでいた。数字に強いので、その後工房から出資して経理の勉強もしてもらい、資格を取ってもらった。二年経った今は会計士の資格を取って、離婚して、会計事務所を立ち上げている。
十八歳の時にずいぶん年上のご主人と結婚したジェーン。子供三人と、ご主人の年老いた両親の面倒を見ていた。決まった時間に工房に来るのが難しいというので、ハーブ畑の管理と収穫したハーブの乾燥と収納管理等を任せている。空いた時間でやってもらう。
しばらくすると、工房に子供と義両親を連れてきて、さらにそこに同僚の子供達、孤児院の子供達を纏めて面倒見るようになった。おかげで工房は働きやすいと大好評だ。工房の横に大きなホールを建てて、近隣の子どもや老人を預かるようになった。職員を補充し、今や施設長。人を使うのが上手く、自分の時間も確保している。好きだからずっとやるわと言って、ハーブ畑と収穫したハーブの乾燥もやってくれている。いつも彼女から、ハーブのいい匂いがする。
ジュードは彼女に介護のライフハック的な事を教え、彼女はジュードに子育てのライフハックを教えてくれる。使う時はないんだけど。
ジュードと同い年のサマンサは子供がいない。おとなしい性格で、香り袋の刺繍をやってもらっている。コツコツ真面目に仕事をする人だ。
ある日、顔を腫らしてやってきた。服で良く見えないけど、手や足にもあざがある。ご主人が度々、お酒を飲んで暴れるとかで、飲まなければいい人とか言っていた。だめだ。飲まない日がほぼないなら、良くない人だよ。良く考えて。お互いに今後を考えてもらう為に、ジュードの家で一緒に暮らすことにした。ジュードにとっても一人暮らしより夜間の不安がなくてありがたい。
結局、一人になったご主人が冬に酔っ払って外で寝て凍死してしまった。サマンサはそのまま、ジュードの家に一緒にいる。
「サマンサ、ごめんねぇ……、旦那さんに会わないままになっちゃって」
「ジュードのせいじゃないですよ。遅かれ早かれ、そうなる運命だったと思います。きっとあの人、お酒を飲んでる自分が嫌でお酒飲むみたいなことになってて。弱い人でしたね……」
お互いに必要無くなるまで、一緒に暮らすことにした。気の合う女友達同士(ジュードはΩだけど)一緒に暮らすの最高。
創業時のメンバー以外ともいろんな話をした。
その中で、ジュードの気づいたことは見た目幸せそうでも、皆それぞれ何か抱えてるんだなぁと。不幸の中にいたから、周りが見えなくて自分だけ不幸な気がしていた。悩んでいたら自分も助けてもらいたいし、誰かの悩みの解決になるようなことが出来るなら、手伝って生きていきたい。
自分だけが不幸なわけではなかった。




