別荘で起こること
ジュードにはもう発情期が来なかった。
おそらくその時期になると思われた、夏の初めにはなんの兆候もなかった。
そのまま、夏を超えて、秋になっても一切気配が無かった。
ルイスミス先生はストレスと言った。栄養的にも環境的にも、ずいぶん回復・改善したのに、クリストファーの死のショックから抜け出せないのかも知れない。いや、結婚ではなくて子供を産むだけの存在になれという事のショックか?
気分を変えたら体調に良いかもとか、お前達、もう少し仲良くなれとか言われて、ジェームズと一緒にサファード家の別荘に行くことになった。ジェームズはどうしてもエリザベスを置いていけないと言って、三人で。三人とか、どう考えてもジェームズと仲良くなれるはずがない。いや、良いけど。
別荘は少し北の山の中腹にあった。
入り口ゲートから、車でしばらく入った場所だった。別荘までシダーの緑とブラックオークと楓の紅葉が入り混じった並木が続いていた。大きなステーションワゴンに三人と使用人を数人、山盛りの荷物も乗せて大きな別荘に着いた。
狩猟のシーズンだ。広い別荘の敷地内に森も湖もあった。
意外な事にジェームズは狩猟が趣味だった。小回りの効くダッチトラックが置いてあって、朝、別荘の管理人と荷台には猟犬を数頭載せて出掛けて、夕方戻る。ウサギや鹿が獲れる。季節的に七面鳥を獲ってきてとエリザベスに言われていた。感謝祭が近い。
ジュードとエリザベスは別荘でゆっくりしたり、森には入らないよう言われていたので、別荘の周りや湖の周りの開けたあたりを散策したりしていた。
朝から晩まで一緒で、エリザベスから小さい頃のジェームズとエリザベスの話とかを聞いたり、遅成りのエルダーベリーやローズヒップを採って、ジャムにしたり、森の際でナッツを拾って来てケーキを焼いたりした。ジュードはジェームズとではなく、エリザベスと仲良くなってる。
このまま、発情期のないダメΩでも、何回か性交渉があれば妊娠するのかも知れないが、お互いにそんな気が全くないならその可能性もない。いつか、追い出されたら、家には帰らずにどこかでひっそり暮らしたい。あの海の街に戻るのも良いかも。
平和過ぎる日々が過ぎて行った。
いつものように朝ジェームズが出かけてから、一緒にお茶をしていると、エリザベスが言った
「ねぇ……」
「何?」
「私、妊娠したかも知れない」
「おめでとう、エリザベス」
「うん、ありがとう。でもね、子供のことも、ジュードのことも少し心配」
「子供が心配なら、一度診察を受けなよ、街でも。ルイスミス先生でも。僕のことは気にしないで。僕にも、きっとジェームズにもそんな気がないから」
「ごめんなさい、あなたの時間を潰して、酷い目に合わせてるわよね」
「……エリザベスのせいではないよ。もうどうなってもいいって気がしていてね」
ジュードはクリストファーの話をした。サファード家の人には話せなかったけど。エリザベスに子供が生まれたら、どうせこのまま追い出されるだろうし。
何にも言わずにポロポロ泣いたエリザベスがジュードの手を握った。
「大好きな人が亡くなるなんて辛過ぎるわ……」
「うん……」
「ジュード、エイブリー公国に行って彼のお墓参りして来なさいよ。一方的な話だけなんて、納得できないし、気持ちのやり場がないじゃないの」
……エリザベスの意外な言葉にびっくりした。こんなに活動的な子だったのか。
「そうだね。君たちの赤ちゃんの顔を見たら、行く事にしようかな」
この日、空は晴れていたけれど、なんだか変に暖かい風が吹いていた。
日暮前に、犬達が帰ってきた。いつもは帰りも一緒にダッチトラックに乗ってくるのに。
そして、すっかり暗くなってから、見かけない車がやって来た。




