暗闇に囚われて
両親が帰ってしまうと、僕には屋敷の奥の部屋が与えられた。三階の突き当たり西側の部屋だった。つまり、外には出られない。
部屋の中にベッドルームと小さなリビング、バスルーム。子供時代に与えられていた部屋より大きかったが、庭にすら出られない。
メイドが交代で二人。通いで早朝から夕方までの一人と、泊まり込みで夕方から夜までの一人。要は監視だ。
メイドたちはまだ若く、手際の悪さもあって自分の仕事で精一杯だった。泊まり込みのメイドの方は日中は学校に行っているらしい。メイドルームは隣にあった。壁にメイドを呼ぶ為に、呼び鈴が鳴らせる紐が付いていた。鳴らした事はないけれど。
数日経った夜、ジェームズ・サファードが現れた。
「君と仲良くするつもりはないから。私たちの結婚後に君が発情期になったら来る。それまでゆっくりしてくれ」
「君たちの邪魔をするつもりはないんだ。僕を放り出してくれてもいい」
「両家で話は決まっている。もう止められない。αの子供も必要だ」
「エリザベスはそれでいいの?」
「嫌に決まってるだろう!! 私だって嫌だ。元々言い出したのはマイヤー家なんだからな」
「あ……、ごめんなさい、何も知らなくて」
「呑気なものだな。Ωなんて、どうせ頭の中は夜の相手の事だけなんだろう!」
ジェームズはそこまで言ってしまってから、自分の下品な物言いに腹を立てて、
「くそ! 全く!」
と言って出ていった。
いよいよ、一人きりだった。
朝から晩まで誰とも話すこともない。昼のメイドも夜のメイドも若くて、恥ずかしいのか、Ωが嫌なのか何か声をかけても一言二言答えるだけだ。
何もない、窓も開かない部屋でゆっくりするとか、無理だ。まるで監獄みたいだな。
何もしていないと、クリストファーのことが頭から離れなくなる。なんで死んじゃったの? 迎えに来て……。
新年のパーティで踊った歌をぽつりぽつり歌い出す。幸せは一瞬で通り過ぎる。幸せな時には無くすのを怖れて泣いているんじゃなく、幸せを満喫しよう。次があれば。
身体がだるい。息をしているのも、外の光も全部が辛い。
丸一日食事を取らなくなって、暗い部屋で寝たまま動けなくなった。知らないうちに涙が流れ出して、止まらない。死んじゃうかな? 死んだらクリストファーに会えるかな? もう、この世に居たくない……。
二日目に、医者が呼ばれた。
「う〜ん、熱はない。目も開かないの? 全身だるい? あ〜そりゃ、そうだよね。ここに来てどれくらい?」
最後の質問はメイドにしていた。ジュードは一言も答えなかった。医者の声さえうるさい。
「よし、わかった。彼のことは、ミスター・サファードに言えばいいの? ミスター・ジェームズに?」
ジェームズが呼ばれて、ジュードの部屋に来た。権威に怯まない先生で、ジェームズに怒り出した。
「こんなところに閉じ込められたら、誰だって具合が悪くなるでしょう!? あなた方は、一人の人間を殺す気ですか? 気鬱で死んじゃう人だっているんですよ。自分がされたらどう思うか考えないんですか? Ωは第二性なだけで、奴隷じゃないんですからね! 現代にこんなことがあるなんて、人権蹂躙だ。許しがたい!」
ジェームズはエリザベスとのことで、のこのこやって来たジュードに腹を立てていたので、ジュードの気持ちに思い至っていなかった。言われて、やっと気が付いたのだった。
「あ……、そう……ですよね。そう……、改善します。彼は治りますか?」
「ちゃんと人並みに対応したら、治るんじゃないですか? 元々、元気だったんでしょう? 彼はどういう立場なの?」
「……僕の……愛……恋人……」
子供を産ませるだけの愛人とは、さすがに言えないようだった。父のミスター・サファードならきっとそう言ったかも。ジュードを買ったも同然なんだから。
「どんなに好きな恋人でも、もうちょっと自由にさせなさい。嫌われちゃうよ。あれ? そういえば、結婚式の招待状をいただいていたけど、彼ではないよね?確か」
そこまで言われて、誤魔化しきれなくなったジェームズがやっと本当のことを言った。
「いくら、ミスター・サファードでも、それは許しがたい。」




