ジェームズ・サファード
山手の大きな屋敷が連なる住宅街にサファード家はあった。
古くからの家柄で、大戦中も軍事物資関連で儲かっていたし、大戦後も業績を伸ばしていた。
ジュードの結婚もサファード家の人脈を狙ってのことだった。サファード家の長男、ジェームズ・サファードはαだった。Ωと夫婦になれば、子供はαの子が生まれる。国内の古くから続く家柄の家は大抵そうして血を繋いでいた。優秀な子孫の為に。
マイヤー家は新興なのでジュード以外の家族はβだった。先代がカレイド国に移住して来てすぐに家具商で成り上がった。父は二代目。長兄は3代目。次兄も経営に参加していた。家具商としては国内一の業績ではあったが、最近は家具だけでなく家電も取り扱う、庶民向けのチェーン店に押され気味だった。
兄達はそれぞれ「魅了」「カリスマ」の能力を授かっていた。それらはクリストファーの言ったように大き過ぎるもので、相反する反応で人を惹きつけもするし、反発も起きていた。マイヤー商会は今一発逆転の一手を求めていた。
「着きました」
運転手が屋敷の前の車寄せにリムジンを着けた。少し待って、ドアを開けたのは、サファード家の家令だった。
「ようこそいらっしゃいました。マイヤー様」
父母と一緒にジュードも車を降りた。エントランスの迫力。新しいものではない、圧倒されるような風格があった。
通された応接室はメインのものだろうか? 立派過ぎて気圧されるが、父は浮かれている。
「やあ、おいでいただいて、ありがとうございます」
サファード家の当主、夫人、ジェームズ・サファードが現れた。
金髪碧眼、涼しげな好青年であった。ジュードよりも、四、五歳年上だろうか。その後に一人の女性が続いていた。
両家の紹介と挨拶の後で、ジュードの父は、
「こちらの、美しいお嬢さんは? 妹さんですか?」
と聞いた。
金髪碧眼は同じだが、真っ直ぐな長い髪の彼女はそばかすもあって、どちらかというと素朴な印象だった。
「エリザベス・ファーロン。ジェームズの婚約者です」
まるで当然のように、サファード家当主は言った。
「ファーロン家とは旧知の中でして、二人は、六月に結婚が決まっております。エリザベスにはジェームズの嫁として、表で活躍してもらって、Ωのジュードさんには、是非αの跡取りを産んでもらいたいのです」
夕食をご一緒に。それまで、こちらの部屋でお寛ぎくださいとゲストルームに案内された。
案内のメイドが出ていくと、母が怒り出した。
「あなたは! 自分の子を、妾として差し出すおつもりですか?」
「いや、知らなかった。だが、今更、引き下がるわけにもいかん。ここなら、それでも世間一般より幸せに暮らせるんじゃないか?」
「さすがご自身でも妾をお持ちの方は違いますのね。日陰の身でも幸せと仰っていらっしゃるんでしょうね、その方は」
「いや、うん……」
ピリピリした空気のまま、時間を過ごした。
後継者を必ずαにしたいって、そんな風に考えるのおかしくないだろうか? α至上主義。Ωに価値はないし、権利も無いんだ……。
着替えて、メインダイニングで食事会となった。その席で、ジェームズとエリザベスの仲の良さを目の当たりにすることとなったが、父の言うようにもう引けない。母は途中で疲れが出まして……と退席した。
会食後、お酒を飲んで歓談している父達を後に、ジュードも下がらせて貰った。
部屋に戻ると、母は泣いていた。
「母様、僕はもう死んだも同然だから、良いんです」
「あなたにはひどい事をしました。夫の無関心が私をそうさせるのよって、見せてやりたかった。あなたの気持ちを考えたら、とんでもない母親だった」
初めて、母と一緒に眠った。母は、ずっとごめんなさい、ごめんなさいと言っていた。
夜更けに酔っ払って部屋に戻って来た父は、何も気が付かず、空いているベッドで横になった。
朝になって、二人は帰路に着いた。母は別れ際に、初めてジュードを抱きしめて、
「ごめんなさい、大好きよ。どうか、幸せになって」
と囁いた。幸せがここにあるとは思えなかったけれど。




