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ひっくり返されるリバーシの駒のような人生

 イブとクリスマス当日のガラディナー営業を終えて、最後の客を送り出した。このまま休みに入るから、掃除をして終わりだ。

 サイラスはジュードに忙しかった分として、ボーナスをくれた。それはレストランが休みで働けない日の分に少し色が付いたくらいだったが、期待していなかったのでありがたかった。明日、アパートに戻る前に日用品や食材の買い物をして、クリストファーにクリスマスプレゼントも買おう。翌日が楽しみなんて、今までの人生では無かったことだ。


 朝目覚めたら、浮き立つ気持ちで支度をしてレストランの空き部屋を出た。ロザリーもサイラスもまだ眠っている様だった。それでもいつもよりゆっくりな時間でマルシェの朝市にはギリギリ。数日分の食材を買って、路面電車(トラム)に乗ってアパートに帰る途中で何店舗か覗く。このくらいならいいかなと、ウールの手袋を包んでもらう。休みに入ったら来るって言っていたけど今日かな? 明日かな?


「元気そうだね」

 声をかけられて振り向くと、そこにいたのはローガン・ミュラー。ハイスクールの寮で同室だった一つ上の同級生。


「なんで、ここに?」

「懐かしいなぁ、ジュード。学校からの書類を届けに来たんだ」



「そこに掛けて」

 数日帰っていないアパートの部屋の窓を開けて、風を通す。セントラルヒーティングの暖房はすぐには暖かくならない。

「部屋が暖まるまで、そのままコートを着ていて」

 ジュードは一つしかない椅子を客に勧めて、お茶の用意をした。

 ローガンは何もない部屋を見渡して、いろいろ察した様だった。

「一人暮らし、慣れたかい?」

「まぁね。ここ数日は仕事先のレストランに泊まり込みだったんだ。あれ? 僕がいない間に訪ねてくれてた?」

「何回かね」

「あー……申し訳なかったね。大事な話だった?」

 窓を閉めて、少しすると、ラジエーターからのほんのりした熱が部屋を温めはじめた。

 ジュードは二人分のコートをコート掛けにかけた。テーブルも椅子もベッドもコート掛けも、備え付けのものだ。


「僕が、卒業後そのままハイスクールの事務員として働いてるのは知ってた?」

 ローガンには親族の伝手があった様だった。


「寮監のコール先生がクビになったんだ」

「は? どうして?」

「窃盗、いや、業務上横領。まだ確定じゃないけど」

「どう言うこと?」

「寮費の使い込みがバレて、調べているうちに君の家から君の一年分の学費と寮費を不当に詐取していたことがわかった」


 ジュードは混乱して、ベッドに座り込んだ。


「コール先生から、一年間の学費と寮費の半分で卒業を延ばして残りの半分でここを借りてやるって言われたんじゃない?」

 ローガンはゆっくりお茶を飲んでから言った。

「そんな制度無いんだ。君はもう卒業してる。卒業証書(ディプロマ)を持ってきた」

「なんでそんなことを……」

 ジュードの小さな呟きにローガンは答えた。

「奥さんの病気の治療費の為らしいよ」

 それから続けて言った。

「あと、ここは市がDV被害者なんかの為に借り上げてるシェルターなんだそうだ。無料だよ。君の代わりに先生が手続きしたらしい」

「……そうか。本当に僕は世間知らずなんだな」


 少し間をおいて、ローガンは言いにくそうに、言った。

「学校としては理由も同情できるものだし、先生の退職金で充分補填できる金額だし、事件にして評判を落としたくない。君の方でこれを受け取ってくれるなら、先生を懲戒解雇じゃなくて依願退職に出来るって言って持たされたんだ」


 差し出したのは、被害額分のハイスクール振り出しの小切手だった。





 

 



 

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