普通の顔をしたまま
前日の初勝利ではしゃぎ過ぎたのか、昼過ぎまで眠ってしまった。
あぁ……働きたくないです。
二人分の疲労で倦怠感たっぷりの体を引きずるように寝床を脱出し、出かける準備を済ませた。偉いね。
食堂に降りると、ルーナやヒナが既に椅子に座って待っていた。
「マスター、おはようございます」
「ま、マスター。おはようございます」
ヒナさんまでマスター呼びする気なのか?
「いや、別にマスターって呼ばなくてもいいんですよ? マックスとかマクスウェルさんとかでも」
「い、いえ! そんなわけには」
「マスター、少しいいですか?」
ルーナが厳しい視線を俺に向ける。何だよ、怖いな。
「あなたはこのギルドのマスター。つまり我々のマスターなんです。ミリアさんが特別扱いされるのは仕方ないとしても、他のメンバーにはマスター然とした態度で接してください」
「ああ、はい」
何だか、怒られてしまった。
「ま、マスター。私からも伺ってよろしいですか?」
「何でしょう?」
いや、何かな……俺、何かしましたかね?
「その、異常な不安感と言いますか……。あなたの怪我は肉体のレベルを超えていると説明すればいいのかな?」
信頼の代償の影響か?
「どうしてそんな風になってるのか、わからなくて」
これから回復を任せる人だ。俺はルーナに相談し、ミリアにバレないよう別室で信頼の代償について説明してもらった。
戻ってきたヒナは、顔を真っ青にして視線を泳がせていた。その後こちらをじっと見てくる。いや、そんなに見ても気の利いたことは言えないけどね。ごめんね。
急に何かを理解したように、ヒナは黙って俯いてしまった。顔を上げ、ヒナが何かを言いかけたその時、
「おっ待たせー! そろそろ行くわよ!」
元気よくミリアが食堂に入ってくる、疲れってものを知らないのかね。俺のせいか?
「何よ? キョトンとした顔して。昨日の依頼なんかで満足しちゃダメよ! ドンドン依頼をこなして私達が特別だってところ見せつけてやりましょう!」
「そうは言うがな、俺も疲労が溜まってるし。ヒナは救出されたばかりなんだぞ?」
「うっ……」
「あまり無理をして、特別扱いされる前に失敗なんてしたら笑いものじゃないか?」
ミリアは眉間に皺を寄せてこちらをじっと見ている。
「まあ、仕方ないわね。今日は草刈りでも探しましょう」
そう言って出口に向かって歩きはじめた。
宿屋のある通りから中央通りに向かう。通りを渡る路地に入った時、路地裏から視線を感じた。
「ルーナ」
「はい、警戒しておきます」
動きはじめのモーションも、動作音も感じなかった。ただ、視界の端でその男が揺れたように感じた。
視線をやると、既に男はそこにいなかった。
あのスカウトは厄介だな、俺の動きについてこようとした。
火力は想定通り、その負担はアイツが背負っている。
つけ込む隙はありそうだが、無理する必要はねえな。
まったく、元気なやつだ。アイツもなんだか普通の顔してやがるし……。
「……違うな。
あれは“普通”の顔をしたまま、線を越えてる」




