痛みを知る聖女
街に戻ると、俺たちはギルド本部に向かった。
門の前で慌てた様子の門番が、俺たちを必死に呼び止めた。
「おい、そいつは……?」
カスナッツの頭を掴んで、顔を無理矢理上げさせた。
「カスナッツじゃねぇか!」
「重罪人だ、開けてくれ」
門番はゴクリと唾を飲み込んで、門に手をかけて開いていく。建物の中に入ると受付のある広場に向かった。
受付嬢に戦利品を渡して、ことの顛末を説明した。
「それは本当ですか?」
驚いた受付嬢が救い出した女性の顔を覗き込む。
「はい、本当です」
周囲がざわつく、ヒソヒソと話す声が聞こえる。
「カスナッツがついに……」
「ざまぁねえな」
ほら、やっぱりな。お前嫌われてるぞカスナッツ。
しばらく待っていると受付嬢が奥から報酬を持って出てきた。
「ゴブリン退治の報酬、金貨五枚です」
「金貨一枚分を銀貨にしてもらえますか?」
ルーナが両替を願い出る、金銭感覚は皆無だから助かるね。
「わかりました、金貨四枚と銀貨百枚でお支払いします」
受付嬢が奥に両替しに行くとルーナが振り向いた。
「金貨だけだと、大き過ぎて使いづらいですから」
「ありがとう、助かるよ。俺もミリアも金のことはよく分からないんで」
そう言うとルーナは腕を組んで少し考えこんだ。
「ギルドが大きくなると経理も仲間に欲しいところです、私もそこまでお金の管理が出来るわけじゃありませんから」
なるほど、頭の隅にでも入れておこう。
受付嬢から報酬を受け取ると奥から屈強な兵士が出てきた。
「カスナッツ分の報酬は余罪が分かり次第、支払われます」
罪人を捕まえても報酬が出るのか。
兵士に連れて行かれるカスナッツが俺の方を見る。
「俺を捕まえたことを後悔するぜ、俺はある男に目をつけられてたんだ。今度はお前らが狙われる番だ。俺はお前らに助けられたと言っても過言ではないな」
そう言ってニヤけた顔でカスナッツは連れて行かれた。
「マスター、大丈夫です。カスナッツは死刑になるでしょう」
俺の正義感が罪人を助けたと言うことで苛まれないか心配してるのか? 別に俺は聖人ではないんだが。
「しかし、カスナッツは方々に自分はこの国最強だと吹聴していましたから、狙われてたのは本当かもしれませんね」
「なっ! じゃあ俺も狙われるのか?」
ルーナはふっと息を吐いて両手を広げて見せる。
「マスターなら平気でしょう」
「ねえ、もう終わった? お腹空いてきたわ」
お前は子供かよ、少しは金の心配くらいしろよ。
俺たちはひとまず宿に戻り、ささやかな宴会で初勝利を祝うことにした。
「あっあのっ!」
救い出した女性が突然立ち上がった。
「ど、どうしたんだ?」
「私も混ざって良かったんでしょうか?」
「いいと思います」
ルーナがそう言うと女性は何かを決心した顔をして続ける。
「よければ、私もみなさんのギルドに入れてもらえないでしょうか?」
「え? うちに入りたいの?」
ミリアが口をもごもごさせながらそう言った。
行儀悪いよ。飲み込んでからにしなさい。
「回復魔法が使えるんでしたっけ?」
「はい、えっとでも……」
「何か問題でも?」
女性の動きが止まり、少しの間沈黙があった。
「私には聖女と言うユニークスキルがあります」
またユニークスキルかよ……。
「それはどんな?」
「実際に見てもらった方が早いでしょう」
彼女が詠唱すると光が集まって、そして弾けた。
「なっ……!」
俺は思わず叫びそうになった声を飲み込んだ。
「どうしたのよ?」
「いや、俺の怪我が治ってるんだ」
不満そうな顔のミリアが首を傾げる。
「傷なんて、もうほとんど治ってたじゃない」
「まあ、そうなんだけど」
俺はルーナに目配せをして、彼女に怪我のことはミリアに隠してあったと伝えてもらった。
「私の回復魔法は、他の人に比べて回復量が多いのです」
多いなんてもんじゃない、あの傷が治ってるんだから。
「しかし、魔力消費が人の倍近いのです」
なるほど、いい事ばかりではないのか。
「あと、私のスキルは怪我をしている人の不安を私に伝えてしまうのです」
だから、俺が怪我していることに気づいた。いや、知っていたんだな。
「なので、つい回復魔法を使ってしまい、今回のように魔力が尽きてしまうのです。そのせいで、パーティーに参加してもすぐ外されてしまい……」
そこをカスナッツにつけ込まれたのか。
「何だかわかんないけど、困ってるから助けてほしいのね?」
いや、売り込んでるんだと思うんだが……。
「いいわよ! あなた、名前は?」
「ありがとうございます、ヒナです。よろしくお願いします」
だから、どっちがギルマスかわかんないな。まあいいけど。
顔を上げたヒナの目は、俺の中の恐怖を覗き込んでいた。
信頼の代償という行為はどんな不安を彼女に伝えたんだろう。
悪いな、これでもまだマシな方なんだ。
彼女が感じたであろう、底なしの苦痛。
それを隠して笑う俺を、彼女はどんな目で見ているのだろうか。
新しい仲間を迎えた宴の席。
賑やかなミリアの声を聞きながら、俺は冷え始めたスープを口に運んだ。




