いつから三人だと思ってた?
「みなさん気をつけてください、囲まれてます」
ルーナが声を落として身構えるように合図する。
「入り口近くまで引きつけて、少数撃破していきましょう」
「え? 小鬼でしょ?」
ミリアが不思議そうにルーナの方を見てから、俺の袖を引っ張った。
「マックス、頼むわよ」
「へいへい」
これじゃどっちがギルマスか分からないだろうけど、ウチはコレでいいんです!……などと考えながら小屋を出ていく。
「待ってください!」
ルーナが止める声がするが、まあ見てもらう方が早いだろう。
外へ出るとゴブリンが一斉に飛びかかってきた。俺は手に持った盾で、次々とゴブリンを弾き飛ばしていく。
「集めたぞー」
ゴブリンを盾で殴りながら一箇所に集めた。
「しゃがみなさい!」
ミリアの声に合わせてその場に伏せると、俺の上を巨大な火の玉が飛んでいった。火の玉はゴブリンの塊に触れると燃え上がり、ゴブリンたちを文字通り蒸発させてしまった。
「今のは……炎の上級魔法ですか?」
ルーナが唖然とした顔でミリアに尋ねる。
「え? ファイアボールよ?」
「そんな! そんな威力のファイアボールなんてありませんよ!?」
その気持ちわかるぜ……こいつの魔法は威力高過ぎて苦労したからな。
「そんなこと言われても、上級魔法なんて習ってないもの」
「しかし……」
信じられないと言う顔のルーナの肩を叩いて、落ち着かせようとした。
「いや、マスターもですよ? あんな簡単にゴブリンを弾き飛ばすなんて!」
え? そうなの?
「あ、あのっ……」
膝を抱えていた女性が立ち上がり、こちらを見ている。
「助けていただき、ありがとうございました」
「いや、依頼をしに来たついでだから。気にしなくていいよ」
「でも……」
まずはこの人を街まで連れて帰らないといけない。
「依頼も達成したし、戻ろうか」
「そうですね、では」
ルーナがそう言うと、ゴブリンの耳を剥いで袋に詰め出した。
「アンタ、何してんの?」
「こうして体の一部を持って帰らないと依頼達成にならないのです」
「げー」
ミリアが両手で喉を押さえながら、気持ち悪いと言うジェスチャーをする。
「それなら……仕方ないな」
気持ち悪いけどルーナを手伝い、耳を剥いでいく。
「ほとんど炭だけど平気か?」
「まあ形は残ってますし、大丈夫ですよ」
耳を袋に詰め、街道に出ると、向こうから冒険者のパーティーが歩いてくるのが見えた。人を嫌な気分にさせるような下卑た笑い声、柄の悪そうな歩き方。こいつらは……。
「マズイですね、カスナッツ一味です」
見覚えのある背の高い男、カスナッツがいた。
「おいおい、生きてたのかよ」
「カスナッツさん、バレるとこですぜ」
不穏な会話が飛び交う。
「ひっ……」
救い出した女性がカスナッツ一味を見て悲鳴を上げる。体が震えているのがわかる。
「……やれ。新入りの死体からは、いい小銭が出るんだよ。無駄死ににはならねぇ。俺の財布を肥やしてくれるんだからな!」
カスナッツがそう言うと、男達が飛びかかって来る。最初の一撃を盾で防ぐが、体が思うように動かない。
「マスター、どうされました?」
「魔力消費の倦怠感がリライアンスで俺にきてるんだよ」
ルーナと小声で話す。ミリアが「ファイアボール」一発でゴブリンを蒸発させた代償。それは本来、術者が気絶してもおかしくないほどの泥のような疲労感となって、いま俺の四肢を縛り付けていた。
それでも何とか飛びかかって来た連中を退けると、カスナッツが剣を抜いた。重い一撃を盾で防ぐ。だが、カスナッツがニヤけて言った。
「お前ら、三人纏めて消し炭になれ!」
背後でカスナッツ側のメイジが、巨大な火球を完成させていた。逃げ遅れた女性が悲鳴を上げる。だが、俺は笑った。
「いつから俺たちが、三人に見えてたんだ?」
「あ?」
カスナッツの顔が歪み、振り返った。その時、詠唱を終えようとしていたメイジの喉笛を、虚空から現れたルーナの短剣が切り裂いていた。
「なに! いつの間に!」
驚いて固まるカスナッツ。その隙を、俺が見逃すはずがない。倦怠感を気合でねじ伏せ、盾を捨ててカスナッツの後頭部に拳を振り下ろす。
「がっ……!」
崩れ落ちたカスナッツを抱きかかえると、ルーナが残りの連中を瞬く間に縛り付けていた。
「そいつらは置いて行こう、こいつに証言させればいい」
退屈そうにしていたミリアが口を開く。
「もういいわね? 行くわよ」
俺たちは街に向かって歩き始めた。




