凱旋パレード
軍議の後、ロウル領へ向かう予定を相談するため、エギルを呼び止めた。
「エギル、次の予定なんだが……」
隣でまだ不服そうな顔をしているミリアが、その様子を見ている。
「マスター、次の予定を覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、サントバールに寄ってからロウル領だろ?」
エギルは目を閉じて、静かに首を横に振った。
「次の予定は、パレードですよ」
おお……そういえば、それが最善だと言っていたかもしれない。
「パレード!」
振り向くと、ミリアが目を輝かせて立っていた。
「ええ、ミリアさんにはマスターの隣に座っていただきますね」
「そんな準備もしてたのか?」
エギルは深く頷くと、俺たちを城の裏へと連れて行った。
「これは……」
「はい、パレード用に用意した特製の馬車です」
幌のない、豪華な作りの馬車が並んでいた。
「これは……少し恥ずかしいな」
「いえいえ、これも重要なお役目ですよ」
頭を掻いていると、ミリアが目の前に乗り出してきた。
「そうよ! みんなのためよ。素敵じゃない!」
そう言って笑った。
まじか……守護者って大変だな。
◇ ◇ ◇
「ベネディクト、ベネディクトはいるか?」
父上が呼んでいる声が聞こえた。
用件については、ある程度察しがついていた。
「はい、父上。ここにおります」
「ベネディクト、大変なことになったぞ」
ロウル領の前領主だった父は、私に領地を譲ってからも、こうして助言をしてくれる。
「サントバールが動きましたか?」
「うむ、エドマンドのやつめ、リライアンスに寝返りおったわ」
エドマンドがリライアンスについたか……これはなかなかの展開だ。
「リライアンスとは、それ程のものなのでしょうか」
「あのエドマンドがつくのだ。相当だと考えていい」
そこについては父と同意見だった。
エドマンドとは時々交流があったが、いつも頼りにしていた。
父とも意見が合い、ロウルまで顔を出しに来ることも多かった。
何より、サントバールを本当に大切にしている男だ。
そのエドマンドがついたとなると……。
「身の振り方も考えないといけませんね」
「うむ、ウィングゲートから遣いは来たか?」
「いえ、それはまだ」
父上は黙って頷いた。
サントバールがついたのだ。ウィングゲートは早めに手を打ってくるだろう。
今回は何を要求されるのか、不安は募る一方だった。
◇ ◇ ◇
ガラハムとミュラーが作った白銀の鎧に着替え、幌のない豪華な馬車に乗せられた。
なかなかいい椅子だ。座り心地は悪くない。
ドレスを着せられたミリアが乗り込んできて、隣に座る。
いや、これじゃあ婚約パレードみたいじゃないか……。
そんなことを考えていると、ミリアが話しかけてきた。
「その鎧、名前あるの?」
「いや? 名前とかはついてなかったよ」
名前? 鎧に名前か。確かにいい品だしな。
「へえ、じゃあ守護者の鎧って呼びましょうよ」
「おお、いい名前だな」
そんな話をしていると、パレードの最前列にいる鼓笛部隊が音を鳴らしながら街へと出ていった。
順番に騎馬隊や馬車が出ていく。
エギルやザックも馬車に乗せられていて、思わず笑ってしまった。
俺たちの馬車はクリスが馬で先導する。
左右にガイとルーサーがつき、後ろからレオンが馬で並んだ。
城門をくぐり街に出た時、俺は目を疑った。
街の人々が街頭に立ち、俺たちに手を振っている。
不思議そうな顔をしていると、クリスが下がってきた。
「皆、新しい統治者の登場に喜んでいます。レグナート五世は……お世辞にも良い統治者とは言えませんでしたから」
そう言って、少し寂しそうな笑顔を見せた。
「皆に手を振ってあげてください。喜んでくれますよ」
そう言い残すと、先導に戻っていく。
「クリス様ー!」
街頭から声援が上がると、クリスが笑顔で応えた。
「クリス、さすがに慣れてるわね」
隣でミリアが感心していると――
「魔女様ー!」
「ミリア様ー!」
ミリアは声援に目を大きく開いて驚いていたが、やがてクリスの言葉を思い出したのか、手を振りはじめた。
ミリアに手を振られて喜ぶ人々を見て、嬉しくなる。
まあ、こいつは黙っていれば美人だもんな。
ミリアの横顔をぼーっと見ていると、街頭から声が聞こえてきた。
「守護者様ー!」
「守護者マクスウェル様ー!」
少し驚いて、ついきょろきょろしてしまった俺を見て、ミリアが笑う。
先導しているクリスが振り向いて、俺に頷いて見せたので、街の人々に向かって手を振り返した。
街を一周して、パレードは城へと戻っていく。
城門で前が混雑した時、街頭に立っていた人々の噂話が聞こえてきた。
「ミリア様、おキレイね。守護者様ともお似合いだわ」
「やっぱりお二人はご結婚されてるのかしら」
ああ、女性はその手の話が好きだよな。
ちらっとミリアに目をやったが、その話は聞こえていなかったらしく、子供たちに手を振ることに夢中になっていた。
そうだな……ミリアにその気があれば……。
少しだけそんなことを考えたけど、ミリアの無邪気な笑顔を見ていたら、なんだか顔が熱くなった気がして、考えるのをやめた。
城に戻って馬車を降りる時、いつもの癖でミリアに手を差し出した。
ギュッと握り返してきたミリアを馬車から降ろし、歩き始めた時、ミリアが袖を引っ張った。
「マックス、その……」
「ん? どうしたんだ?」
振り返ると、ミリアは少し唇を尖らせ、どこか思い詰めたような顔をしていた。
「ちょっと気になることがあって……」
「うん、何だ?」
こいつがこんな表情をするのも珍しいな……。
「私たち、ちゃんとパートナーに見えるかしら?」
そうか……パートナーに見えるか……?
パートナー!?




