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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

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帰還、次へ

「ジェラルド、任せたぞ」


「はっ、必ずやご期待に応えてみせます」


 見送りに来たジェラルドに託して、俺たちはダガタを後にした。


 ノアは戦後の処理で大忙しの様子で、見送りに来られないのを残念がっていたらしい。


「ノアは、しっかり働いてくれそうだな」


 そう呟いた俺の手を、ミリアがギュッと握った。


 ダガタからリライアまでは、道中、困るようなことはなかった。


 ただ、爆裂魔法の跡地を通り過ぎる時、死体の発掘作業が行われており、ミリアの顔が曇っていた。

 ミリアが俺の視線に気づき、そっと目を逸らしたので、思わず抱き寄せた。


「おいおい、あんまりイチャイチャすんなよ」


 なんてザックは冷やかしてみるけど、ミリアを元気にしてやろうという気持ちが伝わってくる。


「い、イチャイチャなんてしてないわよ!」


 ほら、ミリアも乗せられて元気な声を出せた。

 こういう時、本当にありがたいと思う。


 平原を超え、丘を登るとリライアが見えてくる。

 数日しか離れてなかったのに、不思議と久しぶりに戻ってきた気がした。


 城門の前まで来ると門兵が敬礼して、門が開いていく。


 馬車が中に入ると、兵士たちが出迎えた。

 その光景を見て、ここが本当に俺の城になったのだと実感した。


 馬車を降りて、城の中へ歩いていくとレオンが待っていた。


「お帰りなさいませ! ルーナちゃんとミリアさん」


「あなたの主人はマスターですよ?」


 ルーナが説教しているのを、ミリアが笑いながら見ている。


「わかってるよー! マスター、お帰りなさい」


 その、急に声色変えるのは落ち着かないな……。

 悪いやつではないんだけど……。


「あ、ああ。戻ったよ」


 挨拶をして、レオンの横を通り過ぎた時、視界の端にレオンに耳打ちをするザックが見えた。


 あのバカ……やってくれたな……。


 知らないふりをして急いで部屋に行こうとした俺の後ろから、レオンの声が追いかけてきた。


「マスター! ちょっと待てええい!」


 ああ……やっぱり。

 振り返るとレオンが、本で読んだオーガみたいな顔で立っていた。


「マスター、あんたミリアさんに手を出したらしいな」


 後ろでザックが笑ってるが、レオンの顔は真剣そのものだ……。

 おい、ミリア。なんでお前まで面白そうにしてるんだよ!


「聞いてんのか? マスター」


「いや、誤解があるぞ」


 誤解を解こうとする俺の言葉は届かないらしく、レオンは俯いてしまった。


 肩を震わせて、黙ってしまったレオンになんと声をかければいいのか迷っていると、


「…………う」


 う?


「うう……」


 うう?


「うーらーやーまーしーいー!」


 それは、魂の咆哮だった。


「なんで? どうやって? あんなキレイなお嬢さんを落としたの? 教えてよ、マジで! どうやったらそうなるんだよ! お願いします! 教えてくださいよマスタァァ!」


 何を言ってるのかよくわからないが、うらやましいって気持ちだけは伝わった。


 俺の肩を掴んで前後に揺すりながらガンガン詰め寄ってくる。誰か、助けて……。


 その時、鈍い音がしてレオンは頭を抱えてうずくまった。


「いい加減にしてください!」


 ルーナがナイフの柄で、レオンの頭を殴ったらしい。


「マスター相手に無礼ですよ? それに、マスターとミリアさんは昔からの仲間なんです」


 殴られたレオンはうずくまったままだ。


「幼馴染なら、仲が良くて当然です。私だっ……」


 わたしだ?

 一瞬だけ、ルーナの声が引っ掛かった。


「いえ、何でもありません。とにかく、マスターに無礼をしてはダメなんです」


「うう……わ、わかったよルーナちゃん」


 ルーナのおかげで、何とかレオンの脅威は去った。いや、ほんとに。


 城内に入り、そのまま守護者の間へ足を向けた。

 守護者の間とは、王が居なくなった玉座の間の名を改めたものだ。


「守護者マクスウェル様のお戻りです」


 文官の一人が声を上げると、みんな敬礼をして迎えてくれた。


「頭を上げてくれ」


 玉座に座る。視線だけで、一人ずつを見ていく。


「ダガタ攻略は成った。俺たちは次の戦いに備えなければならない」


 全員が頷き、同意するのを待った。


「ルーサー、東側の情勢はどうだ?」


「はい、ハモンズの軍に動きは見られません。今回の戦いを見て、こちらの戦力に警戒しているようです」


 ……やはりな、西の平原に使いを寄越していたんだ。爆裂魔法の威力を恐ろしく思ったに違いない。


「そうか、ご苦労だった」


 ルーサーは深く頭を下げて下がった。


「ガイ、サントバールの動きは?」


「はっ、現在会議中。会議が終わり次第、遣いをよこすかと」


 ……サントバールの冒険者は、できるだけ引き込みたいな。


「わかった、ご苦労だった」


 ガイが下がったのを見てから、続けた。


「俺たちは十一ある貴族領の一つを落としたに過ぎない。まだまだ脅威は残るし、ベルナップ領が落ちたことで貴族領は結託して攻め込もうとするだろう」


 一同の反応はそれぞれ、頷いたり、じっと話を聞いていたり。


「明日、新たな作戦会議を行う。各自、準備しておけ」


「はっ」


「この後はゆっくり休んでくれ、以上」


 俺は立ち上がり、守護者の間を後にする。

 振り返らなくても、ミリアがついてきているのがわかった。


「うう……疲れた」


 弱音を吐きながらベッドに横になる。


 前とは違い、この部屋からあの甘ったるい匂いは消えていた。


「王って大変ねー」


 隣にミリアも横になる。


「いや、お前は横にいるだけだろ?」


「何よ? 横にいてほしくないの?」


 ミリアがムッとした顔でこちらを睨んだ。


「いえ、いてほしいです」


「でしょ? 贅沢言わないの」


 守護者って……一体、何なんだろうな。


「ねえ、これからどうするつもり?」


「ああ、明日になれば決まるよ」


 ミリアが、何か言いたげに不服そうな顔をする。


「今日は決まらないの?」


「決まんねー」


 そう、決まらない。

 エギルとも話し合っている――判断は間違っていない。


 明日、あいつらがどう動くか。それ次第だ。

 静かな夜は、長くは続かない――

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