ダガタ攻略のあとで
「失礼しました!」
そう言うと静かにドアを閉めてルーナは出て行ってしまった。
まあ、ベッドの上で抱き合って眠る男女を見れば、自然な反応かもしれない。
いや、待て……そうじゃない。
このまま誤解されると、いろいろやりにくいことが出てきたりするんじゃないだろうか?
ルーナの誤解を解くべきなのではないだろうか?
俺は、そんなことを考えていた。
「ミリア、起きてくれ」
俺にしがみつくミリアの肩を揺らす。
「もうちょっと寝かせてよ……マックス」
「いや、ダメだ。一回起きてくれ」
ミリアの肩を揺らしていると、ゆっくり目を開けた。
「ふぁれ? マックス? 何で私のベッドに?」
「逆だろ」
「……え?」
寝ぼけてるな……。
「お前がこっちに来たんだろ?」
「そうだっけ?」
俺の胸にしがみついている状況をようやく理解したのか、ミリアは真っ赤になって固まってしまった。
「まったく……何でこんなことに」
小さくぼやきながら、部屋を出る。
後ろでは、まだ顔を真っ赤にしたミリアが固まっていた。
……数秒遅れて、ベッドに顔を埋める音が聞こえた。
変な誤解が広まって、ザックに冷やかされるとか勘弁してほしい。
そう思いながら、俺は足早に広間へ向かった。
広間に入ると、ルーナを見つけた。
「ルーナ、部屋で見たこと……誰にも言ってないよね?」
「は、はいっ。言ってません……よ?」
「マックス!」
振り向くとザックが近づいて来た。
ニヤニヤしながら、俺の肩に手を回して耳元に顔を近づける。
「ミリアとやってたらしいな」
「は?」
「さっき、ミリアに聞いたら顔真っ赤だったぞ」
「いや、誤解だ」
「やっと一線超えたかよ? 色男。随分我慢したんじゃねえのか?」
ザック本人は小さな声で喋っている気かも知れないが、ルーナの反応で声の大きさがよくわかる。
「ルーナ?」
「はいっ!」
どうも様子がおかしい……。
立ち去ろうとしたルーナに声をかけると、肩がビクッと跳ね上がった。
「誰に喋ったのかな?」
「いえっ……ザックさんだけです」
「本当に?」
ルーナに顔を近づけていく。
「は、はい! お二人が寝てるのを見てびっくりして慌てて走ってるところに声をかけられて」
なるほど……そりゃ、話してしまうのも仕方ないか。
「いや、別に話したことは責めてないよ。ただ余計な苦労はしたくないだけだ」
俺がそう言うと、ルーナは少し安心したのか胸を撫で下ろした。
「あ」
「はい?」
「レオンにだけは内緒にしててね」
「あー……それは、はい」
何とか言いたいこともわかってくれたようだ。
……とはいえ。
……絶対、面倒なことになるぞ。
ベルナップの館。広間には、重い空気をまとったベルナップ側の関係者が、続々と集まってきていた。
……空気を切り替えるように、俺は一歩前に出た。
さっきまでの空気を引きずるわけにはいかない。
「さて、今後のダガタについてだが」
俺が話し始めると、一同は身構えるように俺の方へ向き直った。
「ジェラルド、君に任せたい」
レグナリス防衛をレグナートから任されていた、ジェラルドを指名した。
「私ですか? リライアンスのメンバーではなく?」
「そうだ。ダガタは今後、防衛の要所になる。だから君に任せたいんだが……だめか?」
その言葉にジェラルドは背筋を正して応えた。
「いえ、ありがたき幸せにございます」
ジェラルドの返事に、リライアンスのメンバーも満足そうに頷いた。
「副官にノア・ベルナップを指名する」
これはエギルからの助言を受けて決めていた。
「お待ちください。私ですか?」
「そうだ、不服か?」
不服かと聞かれ、ノアは慌てて背筋を伸ばした。
「いえ、敗戦者の身内を副官になど、誰が納得するのかと……」
ノアに近づいて耳打ちする。
「これはエギルが決めたんだ。今回の戦いは戦死者を出しすぎた。お前が副官を務めれば、民も安心できるだろう?」
それを聞いてノアの顔色が変わった。
「なんと……民のためですか」
少し俯いたノアだったが、顔を上げたその表情は決意に満ちていた。
「謹んでお受けいたします」
「ダガタの運営はこの二人に任せる。リライアンスは信都リライアへ戻る。いいな?」
「はっ!」
号令に応えるリライアンス兵たちの声が響いた。
こうして――ダガタ攻略は、幕を下ろした。
多くの犠牲と、いくつかの火種を残したまま。




