秘密の共有者
暗闇が白んでいき、目を覚ました事を自覚した。体勢を変えようとすると、肩に痛みが走り、声が漏れそうになる。
「マスター、目が覚めましたか?」
声の主の方を振り返ると、ルーナが立っていた。
「ここは……?」
「サントバールのギルド本部近くの宿です」
「宿……屋?」
「そうです、あなたはギルド作成後に倒れてしまったのでここに運びました」
「そうか……迷惑かけた……」
「とんでもない! しかし、その……」
「ん? どうした?」
「傷を拝見しました……その傷で今まで起きてた方が不思議ですよ」
鎧を脱がされ、包帯が交換してあった。
「ルーナがしてくれたのか?」
「はい」
「そうか、ありがとう」
礼を言うと、ルーナの顔が少し柔らかくなった。
「ミリアは?」
「厄介な風邪をひかれているので、うつるといけないと説明して部屋に戻ってもらいました」
それを聞いて、力が抜ける。
「ミリアさんには、気付かれないようにされてますよね? どうして?」
「あいつが知ったら、落ち込むだろ?」
ルーナは少し悩んだようだが、意を決したように俺の目を真っ直ぐ見た。
「あなたは何者ですか? マスター」
「だから……」
「あなたの傷は深かった、なのに鎧は壊れていない。傷の状態もまるで生身で魔物の爪を受けたように酷かった」
なるほど、気付かれたか。
「鎧を脱いで戦うような馬鹿には見えませんし、どういう事でしょうか?」
俺は息を吐き出して、ルーナに信頼の代償をかけた。
「自分の手を思いっきりつねってみて」
ルーナは言われた通り、手をつねった。
「これは? 感覚はあるのに痛みがない……」
「ルーナ……そろそろ痛い……」
差し出した俺の手が赤くなっているのを見てルーナは言葉を失った。
ルーナが目を見開いて俺の手を見ている。
信じられないという気持ちと不安が伝わってくるようだ。まあ、そうだろうな。
「これは一体……」
「俺のユニークスキル、信頼の代償だ」
「信頼の代償……」
そう呟くとさらに顔を強張らせて続けた。
「まさか、その傷は」
「そうだ、俺が肩代わりしなければミリアはどうなっていたかわからない」
「そんな! あなたはミリアさんの代わりに死ぬつもりですか!?」
さらに続けようとするルーナの言葉を手で遮る。
「まだ死ぬつもりは無いよ、あいつは伝説のウォーロックになるんだから」
俯くルーナが赤くなった俺の手を取って何かを確かめるように強く握った。
「ミリアさんが大切だから……、ですか?」
「まあ、それも……ある」
「それも?」
言葉を探すように話す、ルーナに嘘はつけない。
「これは俺の意思なんだ、あいつが伝説のウォーロックになる姿を見たい」
ルーナは深く息を吐き出すと、俺の赤くなった手をそっと自分の額に当てた。
「……狂っています。ですが、その狂気ごと、私はあなたにお仕えしましょう」
「おい、だから仕えるとかは……」
「いいえ、これは私の意志です。あなたの『信頼』が尽き果てるその時まで、私があなたの影となり、盾となりましょう」
そう言われると返す言葉が見当たらない。
ルーナは一度、自分の胸元をきつく握りしめた。それから、決意を秘めた目で微笑む。
「私の秘密も教えないとフェアじゃないですね」
秘密?
確かにこれから仲間になるんだ、聞いておかないとな。
「私のことを見ててください」
そう言った後、ルーナは笑顔を見せて忽然と姿を消した。今目の前にいたはずなのに……。
「どこにいった?」
姿が見えないどころでは無い、音も存在すら感じない。
手を伸ばすと、何もないはずの空間で、吸い付くような柔らかいものに触れた。
「あの、そこは……」
鈴を転がすような声と同時に、目の前にルーナの姿がふわりと浮かび上がる。
あろう事か、俺の右腕は彼女の胸を正面から捉えていた。
「うわっ! す、すまん」
「いえ、わざとじゃないのはわかってますから……」
頬を真っ赤に染めて俯く彼女に、俺の鼓動が速くなる。この距離で見ると、彼女は驚くほど可憐だった。
「こ、これが私のユニークスキル。隠者です」
必死で平静を装うルーナ。いや、かわいいな。
「ちょっと待て、これはすごいスキルじゃないか?」
「ええ、悪用されると大変な事になります。ですから、マスターのような方に仕えるのが私にとって意味を成すのです」
いや、プレッシャーがすごいな……。
「……とにかく、二人だけの秘密だ。いいな?」
「はい、マスター。命に代えても」
そんな誓いと、少しの熱を孕んだ空気。
それをぶち破ったのは、遠慮のないドアの開閉音だった。
「ちょっと! いつまで寝てるのよマックス! お昼になっちゃう……って、あれ?」
飛び込んできたミリアが、固まった。
俺が寝ているベッドのすぐ隣。顔を真っ赤にして俯くルーナと、手を泳がせている俺。
「……アンタたち、何してたの?」
ミリアの背後に、彼女の超火力を象徴するような陽炎が立ち上っている気がした。いや、怖い。怖いよ。




