黒炎の余波
「ベルナップの軍は編隊を組んで前進してきます」
クリスからの報告を受け、俺はミリアを見る。
ミリアは小さく頷き、丘の前へ歩き出した。
「ミリア、十分に惹きつけてから撃てよ」
そう言うとミリアは振り返りもせずに、
「わかってるわよ! そんなの!」
いつも通りの声でそう言って、手を振ってみせた。
その様子を見ていたクリスが、慌ててミリアの元へ走ろうとした。
その肩を掴むと、クリスは半開きの口を震わせながらゆっくり振り向く。
「え……え? 止めないと……ミリアさんが」
「大丈夫だから、そこで見てろ」
乾いた音と共に、ミリアの足元に矢が突き立った。
「ミリアさん! 危ない!」
クリスが叫んだ後、ミリアの頭上から矢の雨が降った。
少し間を置いて、クリスが震えた声を漏らす。
「嘘……何で……当たってないの?」
その背後で――
俺のアヴェンジスケールが静かに赤く光っていた。
「いくわよマックス! インフェルノ・ノード」
ミリアが魔法を放った瞬間。
リライアンスで肩代わりした疲労感に、俺は足から崩れそうになる。
いや、気を失わないだけマシか。
丘の向こうが、直視できないほど眩しく光る。
次の瞬間、轟音が大地を震わせた。
爆風が吹き荒れ、木々が大きく揺れた。
俺はミリアの隣に立ち、丘の上から平原を見下ろした。
街道は平原ごと抉り取られ、土煙を上げていた。
「これが、爆裂魔法の威力なのか」
俺の質問に、ミリアはとんでもない答えを返してきた。
「まだ範囲は広げられるはずよ」
「国ごと吹き飛ばす気かよ……」
土煙が少しずつ薄くなっていく。
慌てて撤退しはじめる兵達の姿が見えてきた。
悲鳴や叫ぶ声が聞こえる。
「な、何が起きたんだ!?」
「こんなこと……人間にできるわけない!」
半狂乱になり、隊列も保てず散り散りに下がっていく。
「よし、このままダガタへ向かう」
俺とミリアが振り返ると、クリスが真っ青な顔で震えていた。
「クリス、行くぞ」
「は……はい」
クリスは震えながら、自分の馬の方へ歩いていった。
ジェラルド、ルーサー、ガイの三人も、真っ青な顔をしていた。
「では、ダガタへ」
エギルの号令で、それぞれが前進し始めた。
「うえ……なんだこれ、すげえな」
ザックの声で馬車の窓を覗くと、ベルナップ軍の残骸が広がっていた。
生きている者はいないだろう。
そう思いながら外を見ていると、クリスが何かを見つけた。
「マスター、ベルナップの長男ジル・ベルナップと次男のロルフ・ベルナップです」
下半身が潰れてなくなったジルが、肩から上だけのロルフを抱きしめて絶命していた。
「ジルが出てきているということは、ベルナップ本人はダガタにいると思われます」
「そうか逃げた兵は?」
「百名足らずかと」
俺たちの軍勢は、ダガタへ向かって街道を進んでいた。
「ねえ? 作戦はどうするの?」
ミリアが急に作戦とか言い出すから、少し驚いてしまった。
「ああ、俺とザックが出るよ。ミリアは後方待機な」
「爆裂魔法使ったのよ? アンタ大丈夫?」
こいつなりに心配してくれてるんだな。
「ああ、進軍は問題ないさ」
そう言うとエギルが頷いた。
「進軍は問題ないでしょう……しかし」
話すべきか、葛藤しているのが顔に出ている。
「……少し殺し過ぎましたね」
眉毛が下がった困ったような顔で、エギルが微笑んで見せた。
西の平原には、まだ黒い煙が立ち上っていた。




