表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/54

前へ

 差し込む光の眩しさで、目を覚ました。

 吐息が触れそうな距離にミリアのくちびるがあり、驚いた。

 心地よい寝息を感じて、思わず見惚れていた。


「マスター、ザックさんが到着しま……した」


 ルーナの動きが、ぴたりと止まった。

 顔を真っ赤にして、手に持っていた書類を落とす。


「いや、これは……」


「申し訳ございませんでした!」


 慌てて書類を拾うと、走り去ってしまった。

 余計な誤解を与えてしまったな……。

 ルーナは真面目だから、変に気を遣いそうだ。


 ルーナが走り去る音に驚いて、ミリアが起きる。


「何? もう朝なの?」


「ザックが戻ったらしい、王座の間に行くぞ」


 俺たちは衣服を整え、王座の間に向かった。


 扉を開けて驚いた。

 死体は片付けられ、血痕も綺麗に拭き取られている。


 赤い絨毯も敷き直されている。

 その中央を、ゆっくりと歩いた。


 絨毯の両側にリライアンスのメンバーや文官代表、四人の指揮官が並んでいた。

 王座に腰を下ろすと、隣にはミリアが立っていた。


「ザック、どうだった?」


「全部運んだ。キャッシュの遺体もな」


 その言葉に、クリスの表情がわずかに曇った。


「エギル、キャッシュの葬儀を行いたい」


「かしこまりました、すぐに手配します」


「頼むよ」


 俺がそう言うと、エギルは笑顔で頷いた。


「クリス、西地区の情勢はどうだ」


「はっ! レグナリスに面するベルナップ卿の街ダガタで、挙兵の動きがあります」


「そうか……」


 予想以上に早いな。対策を打たないと。


「ベルナップ卿の兵の数は?」


「すぐに集められるのは千人程度かと」


「わかった」


 頷くと、クリスが頭を下げた。


「ジェラルド、ベルナップが進軍してくる方向に広い土地はあるか?」


「はっ、レグナリスより少し西に平原がございます」


「そこは――周りからよく見えるか?」


「はっ……?」


 意図がわからず、ジェラルドは一瞬言葉を詰まらせる。


「ええ、よく見える場所です」


「いいな。そこで叩く」


 エギルは俺の意図を汲んだのか、微笑んでいる。


「お待ちください、平原では数に押し負けてしまいます。それに、こちらの戦略を他の領主に見せてしまうことになります」


「ジェラルドの心配はわかるが、それがいいのだよ」


 ザックが思わず吹き出す。

 今回の立役者――ミリアは、俺の横で不思議そうな顔をしていた。


「ガイ、サントバールはどうだ?」


「未だ静観、使いの者を派遣しました」


 使いの者?

 そんな指示は出していないが――。


「使いの者?」


「私が手紙を届けてもらうように、頼みました」


 エギルがそう言ったので、俺は黙って頷いた。

 ……この男に任せておけば、まず間違いはない。


「ルーサー、東地区は?」


「まだ大きな動きはありません。ナイカリキンの動きも気になりますから、そう簡単には動かないでしょう」


 なるほど、まずはベルナップか。

 ああ、それと。


「新しい都市の名前を考えたいのだが」


「それならば、信都リライアというのはいかがですか?」


 エギルが提案してきた。

 信都リライアか、悪くない。


「いいな――今日より、この街は信都リライアとする」


「それでしたら、一度街のものにわかるように通知とパレードを開く方がよろしいかと」


 パレード?

 見せ物みたいで恥ずかしいが……。


「それが最善か?」


「最善です」


 エギルは――どこか楽しげに、ニッコリと笑ってみせた。


 その後、街の教会でキャッシュの葬儀を行った。

 リライアンスのギルドメンバーだけに声をかけた。

 ミリアとザックは俺と一緒に教会に入った。


 メンバーが集まっていく中、扉が開き、カシムに支えられるようにしてリアが入ってきた。


 足取りが重い。

 体を引きずるようにして歩いてくる。

 心はまだ後方に残っているような、虚ろな瞳。

 肩が揺れている。

 右に、左に。


 静寂の中、彼女の足音だけが響いた。

 誰もが様子を見守っていた。


 棺の前に来ると、「ああっ」と声を漏らした。

 リアはカシムの支えから身を離し、フラフラと前に出る。


 棺の中で眠っているキャッシュを見て、リアの目から涙が溢れる。


「キャッシュ……ごめんなさい……」


 リアは何度も謝罪を繰り返した。


「私を助けようとしたから……」


 後半は声にならず、しゃくり上げている。


「ご……めんなさい……」


 言葉にならない嗚咽が漏れるだけだ。


 泣き崩れるリアを支えながら、カシムが静かに後ろに下がった。


 最後の別れを、邪魔しないように。


 葬儀が終わっても、その場から動けなくなったリアに、ミリアが話しかける。


「リア……辛かったわね」


「はい……私のせいで……」


「あなたのせいじゃないわ、私たちも戻ってくるのが遅かった。他のみんなもきっと助けたかったはず」


「でも、私……」


「いい? リライアンスをやめないで」


「私は、誰も助けられない……」


「あなたにはヒールがあるでしょ? 私にはないわ」


「でも……」


「あなたはきっと多くの人がケガをした時、そのヒールで癒せるでしょ? それは私にはできない」


「ミリアさん……?」


「これからは、きっとそんなことも起こるわ。その時あなたは、人を助けられる」


「ミリアさん……」


 リアの声が震えている。


「だから、キャッシュの為にも……前に進むの」


 教会の空気が、静かに変わった。


 ミリアの大粒の涙を瞳に映したリアの目から、また新しい涙がこぼれた。


「オイラ、アイザックの兄貴みたいになるんだ!」

 その元気な笑顔を、もうみることは出来ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ