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差し込む光の眩しさで、目を覚ました。
吐息が触れそうな距離にミリアのくちびるがあり、驚いた。
心地よい寝息を感じて、思わず見惚れていた。
「マスター、ザックさんが到着しま……した」
ルーナの動きが、ぴたりと止まった。
顔を真っ赤にして、手に持っていた書類を落とす。
「いや、これは……」
「申し訳ございませんでした!」
慌てて書類を拾うと、走り去ってしまった。
余計な誤解を与えてしまったな……。
ルーナは真面目だから、変に気を遣いそうだ。
ルーナが走り去る音に驚いて、ミリアが起きる。
「何? もう朝なの?」
「ザックが戻ったらしい、王座の間に行くぞ」
俺たちは衣服を整え、王座の間に向かった。
扉を開けて驚いた。
死体は片付けられ、血痕も綺麗に拭き取られている。
赤い絨毯も敷き直されている。
その中央を、ゆっくりと歩いた。
絨毯の両側にリライアンスのメンバーや文官代表、四人の指揮官が並んでいた。
王座に腰を下ろすと、隣にはミリアが立っていた。
「ザック、どうだった?」
「全部運んだ。キャッシュの遺体もな」
その言葉に、クリスの表情がわずかに曇った。
「エギル、キャッシュの葬儀を行いたい」
「かしこまりました、すぐに手配します」
「頼むよ」
俺がそう言うと、エギルは笑顔で頷いた。
「クリス、西地区の情勢はどうだ」
「はっ! レグナリスに面するベルナップ卿の街ダガタで、挙兵の動きがあります」
「そうか……」
予想以上に早いな。対策を打たないと。
「ベルナップ卿の兵の数は?」
「すぐに集められるのは千人程度かと」
「わかった」
頷くと、クリスが頭を下げた。
「ジェラルド、ベルナップが進軍してくる方向に広い土地はあるか?」
「はっ、レグナリスより少し西に平原がございます」
「そこは――周りからよく見えるか?」
「はっ……?」
意図がわからず、ジェラルドは一瞬言葉を詰まらせる。
「ええ、よく見える場所です」
「いいな。そこで叩く」
エギルは俺の意図を汲んだのか、微笑んでいる。
「お待ちください、平原では数に押し負けてしまいます。それに、こちらの戦略を他の領主に見せてしまうことになります」
「ジェラルドの心配はわかるが、それがいいのだよ」
ザックが思わず吹き出す。
今回の立役者――ミリアは、俺の横で不思議そうな顔をしていた。
「ガイ、サントバールはどうだ?」
「未だ静観、使いの者を派遣しました」
使いの者?
そんな指示は出していないが――。
「使いの者?」
「私が手紙を届けてもらうように、頼みました」
エギルがそう言ったので、俺は黙って頷いた。
……この男に任せておけば、まず間違いはない。
「ルーサー、東地区は?」
「まだ大きな動きはありません。ナイカリキンの動きも気になりますから、そう簡単には動かないでしょう」
なるほど、まずはベルナップか。
ああ、それと。
「新しい都市の名前を考えたいのだが」
「それならば、信都リライアというのはいかがですか?」
エギルが提案してきた。
信都リライアか、悪くない。
「いいな――今日より、この街は信都リライアとする」
「それでしたら、一度街のものにわかるように通知とパレードを開く方がよろしいかと」
パレード?
見せ物みたいで恥ずかしいが……。
「それが最善か?」
「最善です」
エギルは――どこか楽しげに、ニッコリと笑ってみせた。
その後、街の教会でキャッシュの葬儀を行った。
リライアンスのギルドメンバーだけに声をかけた。
ミリアとザックは俺と一緒に教会に入った。
メンバーが集まっていく中、扉が開き、カシムに支えられるようにしてリアが入ってきた。
足取りが重い。
体を引きずるようにして歩いてくる。
心はまだ後方に残っているような、虚ろな瞳。
肩が揺れている。
右に、左に。
静寂の中、彼女の足音だけが響いた。
誰もが様子を見守っていた。
棺の前に来ると、「ああっ」と声を漏らした。
リアはカシムの支えから身を離し、フラフラと前に出る。
棺の中で眠っているキャッシュを見て、リアの目から涙が溢れる。
「キャッシュ……ごめんなさい……」
リアは何度も謝罪を繰り返した。
「私を助けようとしたから……」
後半は声にならず、しゃくり上げている。
「ご……めんなさい……」
言葉にならない嗚咽が漏れるだけだ。
泣き崩れるリアを支えながら、カシムが静かに後ろに下がった。
最後の別れを、邪魔しないように。
葬儀が終わっても、その場から動けなくなったリアに、ミリアが話しかける。
「リア……辛かったわね」
「はい……私のせいで……」
「あなたのせいじゃないわ、私たちも戻ってくるのが遅かった。他のみんなもきっと助けたかったはず」
「でも、私……」
「いい? リライアンスをやめないで」
「私は、誰も助けられない……」
「あなたにはヒールがあるでしょ? 私にはないわ」
「でも……」
「あなたはきっと多くの人がケガをした時、そのヒールで癒せるでしょ? それは私にはできない」
「ミリアさん……?」
「これからは、きっとそんなことも起こるわ。その時あなたは、人を助けられる」
「ミリアさん……」
リアの声が震えている。
「だから、キャッシュの為にも……前に進むの」
教会の空気が、静かに変わった。
ミリアの大粒の涙を瞳に映したリアの目から、また新しい涙がこぼれた。
「オイラ、アイザックの兄貴みたいになるんだ!」
その元気な笑顔を、もうみることは出来ない。




