新国家、夜明け前に
「マスター、こちらです」
ルーナに導かれ、俺たちは城の奥深く――宝物庫へ足を踏み入れた。
今、ザックたちが城に残った兵士を大広間に集めている。
集まった兵士に国家樹立の宣言をしろと、まあそういうことだ。
少しでも国の代表に見えるように、鎧を着替えることになった。
「いいのがあるといいですね」
なぜかソフィアさんも嬉しそうについてきた。
宝物庫に並ぶ鎧は、どれもこれも金と宝石をこれでもかと貼り付けた悪趣味な代物で、正直着る気にはなれなかった。
飾られた鎧の間を歩いていると――
一つだけ、異質な鎧があった。
金でも宝石でもない。
静かに白銀の光を放つその鎧に、思わず足が止まる。
「これは……」
思わず見惚れていた。
白銀に輝く鎧の胸と背中には、翼を思わせる意匠が刻まれていた。
「あら、ガラハムの鎧じゃない! こんなところにあったのね」
「ガラハム?」
俺が聞き返すとルーナが俺の手を強く握った。
「これにしましょう!」
おお……目が本気だな。
どうやら選択の余地はなさそうだ。
「いいけど……ガラハムって?」
「伝説といわれた名工です」
なるほど……いい物だというのは見ただけでわかる。
「それはガラハムとミュラーが作った鎧なのよ」
ソフィアが嬉しそうに言った。
「ミュラーが? 何か魔法がかかってるのか?」
確かに、アヴェンジスケールが少し震えているように感じる。
「それは……」
それは?
「わかんない」
ソフィアが舌を出しておどけて見せた。
白銀の鎧を身に纏い、ルーナが選んだマントを羽織る。
大広間に入ると、兵士や文官たちのざわめきが広がった。
壇上に立つと、レオンが静かに近づいてきた。
「……全部で五百五十八名だ」
「思ったより多いな」
そう言うと、レオンは肩をすくめて下がった。
「――リライアンスのリーダー、マクスウェル・リライアンスだ」
俺が名乗ると兵士たちは黙った。
睨むもの、不安を抱えるもの。
壇上から多様な反応が見える。
「これより、この地は我らリライアンスが統治する。レグナート王国は本日でなくなった」
その一言で絶望や悲痛な声が、一部の兵士たちから漏れる。
「この国は――リライアンス守護主権国として生まれ変わる。今後もこの国のために働ける者だけがここに残れ! この場を去っても責めはしない」
ふるいにかけるつもりで言ったが、出て行ったのは百名にも満たなかった。
「……よく残ってくれた」
「これからはリライアンス守護主権国の一員として――この国をともに守ろう」
そう言うと、兵士たちが応える。
「隊長級の兵を集めてほしい。一度話をしておきたい」
「かしこまりました」
そう言ってルーナが兵士の元へ進む。
「エギルは財務やその他を確認するために文官を集めてくれ、まずはみんなの生活の安定から取り掛かるんだ」
「はい、マスター」
そう答えて、エギルは文官たちを集め始める。
「私は何をすればいい?」
「ミリアは、俺の隣にいてくれ」
ミリアが勝手に動くと、何をするかわからないからな……。
「おい、顔が赤いぞ? なんかあったのか?」
「うるさいわね! 何でもないわよ」
ザックとミリアがやり合ってるな……。
「そうだ、ザックに頼みたいんだが」
「あ? 何だ?」
「サントバールに戻って、ギルドホーム内のものを運んでくれないか? 向こうに残ってるメンバーと一緒に」
俺がそう言うと、ザックは後ろを向いて歩き始める。
片手をあげて、振り返りもせずに歩いていった。
「マスター、レグナートで指揮官をしていたという四名をお連れしました」
ルーナに連れられてきた四人は、わずかに間を置いてから名乗り始めた。
「レグナリス守護隊のジェラルドです」
背の高い、ブロンドの短髪がよく似合っている。緊張しているが、なかなかハンサムだな。
「サントバール守護隊のガイ」
かなり体格の良い男だ。
鋭い目が、俺を値踏みするように細められている。
……武で語るタイプか。
「東地区討伐隊ルーサーでございます」
物腰は柔らかいが、目の奥に光が宿っている。
……腹の底が読みにくい男だ。
「西地区討伐隊のクリスです」
女性の指揮官か。
長い髪を纏めて、目立たなくしているが美人だな。
「四人ともよく来てくれた。率直に答えてほしい、なぜ残った?」
俺の質問に四人は顔を見合わせた。
「それは……国がなくなったと言われても民はここにいますので」
ジェラルドがそう答えた。
「まあ、他に行くところもない……です」
なるほど、ガイは正直に答えたな。
「それに、リライアンスの戦力は統治者として相応しいと存じます」
ルーサーが讃える。
この男は、少し注意しておいた方がいいかもな。
「私は、レグナート王の非道な行いを止められなかった。今回の事で新しい道を得ました」
クリスは、迷いのない目で真っ直ぐ俺を見据えていた。
こういう目には弱いな。
「わかった、歓迎する。四人には軍部でしっかり働いてほしい」
「ハッ!」
四人は胸に手を当て、同時に深く頭を垂れた。
「ルーナ」
音もなく、空気が揺らぐ。
隠者で姿を消していたルーナが現れた。
「四人のことを調べておいてくれ」
「はい、マスター」
そう答えてルーナは姿を消した。
「さて、これから忙しくなるぞ。ミリア、今のうちに休んでおこう」
「そうね、私たちの部屋はどこかしら?」
「その辺でいいんじゃないか?」
休めそうな場所を探していると、ソフィアが慌てて追ってきた。
「どこでもいいわけないでしょ? あなたはこの国のマスターなのよ。自覚、ちゃんと持ちなさい。」
「いや、しかし」
「こっち来て」
俺とミリアはソフィアに引っ張られて、レグナート王の寝室に連れてこられた。
甘ったるい香の匂いがする。レグナートが好んだのだろうか?
ついさっきまで別の男がこの国を支配していた――
そんな気配が、まだ部屋に残っている気がした。
しかし、内装が悪趣味で全然落ち着かない……。
「休むならこの部屋を使うこと!」
そう言ってソフィアは部屋を出て行った。
「これは、もっと落ち着ける内装にしたいな」
「そうね、まあ少し休みましょう」
そう言ってミリアはベッドで眠ってしまった。
しばらく、ミリアの寝顔を眺めていた。
……さすがに、少し無理をしすぎたか。
気づくと俺も、
抗えない眠気に引きずり込まれていた。




