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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

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無慈悲な未来

「よく来たな、ディーデリックよ」


 王座に座していたのは――

 レグナート五世。今代のレグナート王。


「はっ、参りました」


 ディーデリックは胸に手を当てて深く頭を下げた。


「して、炎のメイジは捕らえたのか?」


「捕らえはしたのですが……」


 ディーデリックは額から流れる汗を拭くように、ハンカチで押さえた。


「何か問題が?」


「ミーナというこのメイジ、炎の適性こそあったのですが……」


 レグナート王は眉間に皺を寄せ、ディーデリックを睨んだ。


「……期待はずれでして」


「そなたは嘘を申したのか?」


「いえ、そんな……」


 焦ったディーデリックは頭を深く下げた。


「自分たちの名前を上げたい小物ギルドが、盗賊に火を放ち、話をでっち上げたのでしょう」


「ふん、そんなことだろうと思ったわ」


 ディーデリックはおそるおそる顔を上げた。


「ギルドに脅威がないと分かったことが、今回の成果かと存じます……」


「言い訳はよい」


 ディーデリックは再度深く頭を下げた。


「捕らえたものはどのように?」


「殺せ。明日にでも死刑を執行せよ」


「ははっ」


 王座で肘をついたレグナート王が、小さく溜め息をついた。


 ディーデリックが一礼をして、その場を離れた。




 レオンとかいう、うるさい男がついてくることになった。

 ……まあ、使えそうではある。


 俺たちはサントバールを目指していた。


「ザック、もうすぐだろ?」


 ほろの中からマックスの声が聞こえた。


「ああ、もうすぐだ」


「そのまま、ギルドホームに向かってくれないか?」


 マックスの言葉に手を上げて無言で答えた。


 サントバールに入ると、街は異様な雰囲気だった。

 街のやつらが、俺たちの馬車を見て何か言っている。


 嫌な予感がしやがる……。

 ――胸騒ぎが、止まらねえ。


 ギルドホームに着くと、目を疑った。


 門の前は血だらけで、門扉は破壊されていた。

 慌てて馬車を止めて、建物の中に走った。


 入り口付近で、カシムとグロックが傷だらけで倒れていた。


「おい! お前ら、生きてるか?」


「アイザックさん……俺たちは大丈夫です」


「ミーナが連れていかれました……」


 涙を流しながら、助けを求めるように話す二人をヒナに預けて奥に進んだ。


 泣き叫ぶような声が聞こえて、声のする部屋を目指す。


 部屋に入って、俺たちはその場に立ちつくした。

 それは、まるで現実味がなかった。


「キャッシュ、起きてよ!」


 リアが泣きながらヒールをかけている。


 奥では泣き崩れたニーナをアスペンが支えていた。


 後から他のやつらが入ってくると、リアが叫んだ。


「ヒナさん! お願いします! キャッシュが動かないの」


 その泣き顔には、最後の希望にすがりたいという気持ちと、ヒナの口から出る答えを知っている諦めが混ざっていた。


「リアさん……」


 いや、ヒナの聖女セインテスなんてなくても。


 俺でも、見ればわかる。


「キャッシュさんは……」


 それでもすがりたい。

 俺だってそうだ。


「もう、亡くなっています」


 ヒナの声が震えている。


「イヤァァァ! 嘘、嘘よ!」


 リアが狂ったようにヒールをかけ続ける。

 誰もそれを止められない。


 そこに倒れているキャッシュは――

 右腕が切り落とされ、胸には剣で突かれた跡がはっきり残っていた。


 地面には大量の血液が流れ出していた。

 誰が見ても、キャッシュが死んでいることはすぐにわかった。


 体が震えて止まらない。


 目頭が熱くなって、今すぐ何とかしないと狂いそうだ。


 隣にいるミリアの肩も震えて、涙を止めようともしていない。


 同時に振り返った俺たちを、マックスが止めた。


「マックス! 止めんじゃねえ」


「そうよ! 絶対許さない」


 マックスの顔を見て、俺たちは凍りついた。


 その顔は真っ白で、表情がなかった。

 涙が目から溢れ、その目だけが見開かれていた。


 ……そりゃ、そうだ。

 お前が怒らないわけがない。


 この国は、絶対に怒らせてはいけない男を怒らせてしまった。




 キャッシュが死んだ。


 出て行こうとしたミリアとザックを止めたが、言葉が出てこない。


 一体、どうすればよかったというんだ?


 寄り道をしたから、守れなかった。

 他人のことなんて、放っておけばよかったのか?


 いや、そんなことできるはずかない。


 失ってしまった。


 リアは戻って来れるんだろうか?

 泣き叫んで、このまま壊れてしまうかもしれない。


 せめて……。


 振り返ると、エギルが立っていた。


「マスター、どちらに行かれるのです?」


「キャッシュを殺したやつを、許せない」


 エギルはキャッシュを見た後、目を閉じてしまった。


「エギル、悪いがどいてくれないか?」


「ディーデリック」


 ディーデリック?

 そいつがキャッシュを?


「カシムたちが、その名を聞いていました。レグナート王の側近です」


「王の側近が?」


 エギルはこくりと頷いた。


「以前、この国が壊滅すると言ったのを覚えてますか?」


「ああ、それがどうした?」


 エギルが少し息を吐いてから続ける。


「私のユニークスキルは未来視ビジョン。少し先の未来が見えるというものです」


「ならば、キャッシュの死も見えていたのか?」


 エギルは首を振った。


「見たい未来が見えるわけではありません」


 エギルはそう言った後、片手を額に置いて溜め息をついた。


「まさか、こんな形で国の壊滅が訪れるなんて思いもしませんでした」


 エギルのその言葉を聞いて、俺はエギルの肩を叩いた。


「キャッシュはもう戻って来ない。だからせめて、この国を滅ぼしに行こう」


 壊れた門扉から、風が建物を通り抜けていく。

 高い音が、静かに響いていた。

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