崩れゆく信頼
「……は?」
「だから、俺を一緒に連れて行ってくれ!」
何だ……こいつは?
ルーナにナイフを突きつけられて、惚れたって……。
「マスター、私は反対です……身の危険を感じます」
「待ってくれ! 俺は真面目に言ってるんだ」
「余計に嫌です!」
そのやり取りを見て、俺とザックは肩をすくめるだけだった。
「アンタ! 待ちなさいよ」
「おお! さっきの美しい人!」
予想外の返しにミリアすら戸惑う。
「盗賊なんか連れて行くわけないでしょ!」
おお、そうだ。
大事なことを忘れていたな……。
「盗賊? 俺は盗賊なんかじゃありませんよ?」
「えっ! だって子供を囲んでたじゃない」
男の視線が部下に向く。俺やミリアたちも、その先を見る。
コマキ村の子供が、男の部下たちと遊んでいた。
キャッキャとはしゃいで。とても楽しそうに!
「じゃあ……アンタ誰よ?」
「俺は元ナイカリキン傭兵部隊隊長のレオンだ」
ナイカリキン傭兵部隊……?
ナイカリキンで聞いた、最前線部隊じゃないか?
……こいつ、軽いだけの男じゃないな。
「元ってことはやめたのか?」
「ああ。ナイカリキンのケチ、払いが悪くなったんでな」
ナイカリキンから逃げてきた盗賊。
そう誤解されたのか。
「しかし、付いてきたいって言ってもな」
首にナイフを突きつけられて惚れる男を信用できるか?
「子供を見つけたのなら、急ぎましょう」
エギルの一言で、俺たちは村に戻ることにした。
子供を送り届け、村人に礼を言われると、名残惜しそうにするミリアをなだめて出発した。
「この分だと、一日か二日の遅れで到着できます」
「そうか、できるだけ急ごう」
その時は、ただ一日の遅れだと思っていた。
それが、あんな事態につながるとは――。
「なあ、アイザックの兄貴たちは今日戻ってくるんだよな?」
そう聞くと、カシムはニヤリと笑った。
「キャッシュはアイザックさんに会いたくて仕方ないんだな。今日戻ってくる予定だけど……」
「戻ってくる予定だけど?」
オイラが聞き返すと、カシムは溜め息をついた。
「一日、二日は遅れるかもしれないぞ?」
「えー」
カシムの言葉にオイラは思わず反抗してしまう。
ちぇっ。でも、遠いんだもんな。
「じゃあ今日の訓練でもやるか」
オイラはそう言って、剣を握って表に出て行った。
表に出ると馬車の音が聞こえる。
「兄貴たちだ! やっと帰ってきた!」
そう言ってオイラが扉を開けると、そこには鎧を身につけた兵士がずらりと並んでいた。
「お、お前ら何なんだ?」
兵士たちは無言で、立っているだけだ。
馬車から身分の高そうな男がゆったりと姿を現した。
「炎のメイジを差し出しなさい、逆らえば皆殺しですよ」
「何だよそれ? オイラは知らないぞ!」
身分の高そうな男は鼻で笑った。
「中を調べろ!」
その男が号令を出すと、兵士たちが一気に中に雪崩れ込んだ。
目の前の兵士の腕にしがみつく。
だが、乱暴に振り払われ、地面に叩きつけられた。
その瞬間、右肩に焼けるような痛みが走る。
じわりと熱いものが流れ落ちた。
突然、乾いた音が鳴り響いた。
何の音か分からない。
目の前の兵士が、糸が切れたみたいに崩れ落ちた。
「逃げろ、キャッシュ!」
上の部屋から顔を出したアスペンが叫ぶ。
乾いた音が何度も鳴る。
兵士たちが、次々と倒れていく。
何が起きているのか、オイラには分からなかった。
建物の奥でリアの悲鳴が聞こえた。
何も考えず、足が勝手に動いた。
中ではカシムやグロックが応戦していた。
カシムの剣が弾かれ、地面に落ちる音が響く。
カシムに切りかかる兵士に蹴りを入れ、剣を拾う時間を作る。
グロックがオイラの前に入って叫んだ。
「奥の部屋を頼む!」
その言葉で、オイラは奥の部屋に走った。
悲鳴の聞こえた部屋に入ると、リアがミーナとニーナを庇うように兵士の前に立っていた。
剣が振り下ろされる。
間に合わない。
それでも、体が先に動いていた。
「ディーデリック様、炎のメイジを確保しました」
その言葉の意味を理解するより早く、誰かに蹴り飛ばされた。
「よし、撤退します」
その声を聞きながら、オイラの意識は遠くなっていった。
オイラはリアの名前を呼ぼうとした。
――だけど、声は出なかった。




