戦場で始まる、最狂の恋
残りの十日間、俺たちは体が鈍らないように狩りに出た。
食料にする猪や鹿、そして邪魔になる魔物を狩る。
ミリアはというと――
本を読んでは演習場へ向かう。
それを十日間、繰り返した。
そして、最後の日。
「とりあえず、書かれていた魔法は全部覚えたわ」
ミリアが胸を張って宣言した。
「本当か?」
「何よ? 疑ってるの?」
いや、結構な量があったはずだが。
……まあ、ミリアならやりかねないか。
「お前なら、覚えるかもな」
俺がそう言うと、ミリアは自信満々にVサインを決めた。
「世話になったな」
「いえ。あなた方の行く道がどうなるのか――エギルからの知らせを、心待ちにしていますね」
アストリッドに挨拶を済ませ、俺たちはエルフの里を後にした。
一度通った道だ。予定通り帰れるだろう。
ナイカリキンに入ると、山道を苦労しながら進む。
ようやく街に着いた俺たちは、馬車の修理を依頼した。
結構な金額になったが、少しでも早く帰るなら仕方ない。
街を出る前に、携帯食とモルトも買い足した。
そこから先は、整っていない暗い街道が続いた。
旅に慣れてきたのか、行きのようにイライラすることはない。
「早くお風呂に入りたいわ! お風呂よ!」
……まあ、ミリアのこれは、いつも通りだな。
ボーダーウェッジに入った。
行きに検閲官にしつこく色々聞かれたことを思い出し、身構えたが――今回はあっさりと通された。
「何だったんだ?」
「何かが解決したか……あるいは、狙いが変わったのか」
エギルと話し合ってみたが、答えは出なかった。
それから十日ほど、宿場町の少ない街道を進んだ。
ミリアはその間も、魔力を操る修行とやらを続けている。
コマキ村に着くと、ミリアは嬉しそうに馬車を降りた。
村の真ん中で、きょろきょろと辺りを見回している。
……まあ、あの子供を探しているんだろうが。
下手をすれば、不審者に見えかねないな。
しばらくすると、村人の一人がミリアに声をかけた。
次の瞬間、ミリアが慌てて駆け戻ってくる。
「マックス、大変よ!」
「どうしたんだよ?」
「あの子――昨日の夜から帰ってないそうなの」
不安そうな顔で、ミリアが俺を見る。
俺はエギルの方へ視線を向けた。
「ここで時間を使えば、到着が遅れますが……」
「そうも言ってられないだろう?」
俺がそう言うと、エギルは小さく溜め息をついた。
村人に話を聞くと、どうやら母親の捻挫に効く薬草を採りに森へ入ったのではないか、という話だった。
ただ、最近この辺りの森にはナイカリキンから逃げてきた盗賊が出入りしていて危険だという。
「放っておけないわ! 早く行きましょう」
ミリアのその一言で、俺たちは森へ向かった。
フォールン大森林と比べれば歩きやすく、どんどん奥へ入れる。
「これを見てください」
ルーナが見つけたのは、あの子の履き物だった。
さらに奥へ進むと――
鎧を着た男たちが、子供を囲んでいる。
「あなたたち! そこまでよ」
ミリアの言葉に、その中の男が一人、こちらへ向かってきた。
「お姉さん、なんて美しいんだ!」
「待て、そこまでだ……」
ミリアを庇うように前に出た俺だったが……
あれ? 今こいつ、なんて言った?
「おいおい、俺の恋路の邪魔をしようって言うなら許さねえぞ?」
ブロンドの髪をかき上げ、鋭い眼光を俺にぶつけてくる。
鼻で笑ったザックが地面を蹴り、拳を叩き込んだ。
「危ねえ……なんて重い拳だ?」
「こいつ……」
ザックの拳を受け止めただと?
こいつ……強いな。
「お頭、こいつを!」
仲間が投げた槍を、男は見ずに空中で受け取った。
槍を一閃。
刃先が空気を裂き、甲高い音が森に響いた。
「へっ! 面白え」
ザックが構えた。
一瞬の静寂が、戦闘前の緊迫感を張り詰めさせる。
二人の足が地面を蹴りかけた――その時。
「おしまいです。動かないでください」
ルーナのナイフが、男の首元に当てられていた。
「はっ!」
ザックが不完全燃焼を訴えるように両手を広げる。
ナイフを突きつけられたその男は、
「……惚れた」
一言、そう言った。
え? 今、なんて言った?
「あんたがボスかい?」
男が俺に尋ねてくる。
「頼む、俺を一緒に連れてってくれ!」
はあ?
何言ってんだこいつ……。
「お頭ー!」
部下たちの悲痛な叫びが、森にこだました。




