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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

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強すぎた力

「いっくわよー!」


 指輪に集中するミリアを見ながら、俺ははっきりと疲労感を覚えていた。


 さっきの中級魔法とは、明らかに違う。

 ……それにしても、楽しそうだな。


 ミリアの視線の先――

 的の手前に、小さな炎が灯った。

 次の瞬間。

 炎は渦を巻き、巨大な炎の竜巻へと膨れ上がる。


「ファイア……ストーム。それもこんな大きな」


 ニトが怯えるような声を上げた。


 確かに……。

 あれに巻き込まれたら、骨も残りそうにない。

 背筋が寒くなり、俺は思わず唾を飲み込んだ。


「どう? 驚いた?」


 ミリアが嬉しそうに振り向いた。


 なんてやつだ……。

 わずか十日で上級魔法だと?

 それとも……ミュラーの魔法書が規格外なのか?


「なんか感想ないの?」


 腕を組んで、口を尖らせている。


「ああ……すごかったよ」


「それだけ?」


「いやあ、十分驚いたよ? やっぱりセージの名は伊達じゃないな」


 納得のいかない顔をしていたミリアだったが、どうにか機嫌は直ったようで、


「まあいいわ。それに……」


「それに?」


「何だか調子がいいのよ、信頼の代償(リライアンス)のおかげなのかしら?」


 ミリアが目の前まで顔を近づけて、まじまじと見てくる。

 いや、近い……。


「これなら爆裂魔法もいけそうね」


「いえ、ミリアさんそれは!」


 ニトが慌てて止めに入る。


「大丈夫よ、少し試すだけじゃない」


「しかし、里長はまだ早いと……」


 ニッコリ笑ったミリアがニトの肩に手を置いて、


「大丈夫」


「はい……」


 ミリアに押し負けて、ニトは肩を落とした。


「待て待て、爆裂魔法ってのはどれくらいの範囲を吹き飛ばすんだ?」


「イメージ次第だけど、最小のイメージで、的の周りくらいに絞れるはずよ?」


「ならいいが、アストリッドに怒られるような真似はすんなよ?」


「わかってるわよ」


 ミリアが指輪に集中し始める。


 魔力が持っていかれるまでに、少し間があるんだな?

 ……いや、違う。

 体の力が抜けていく……。


 頭の奥で高い音が響いた気がして、目の前が真っ白になった。


「インフェルノ・ノード!」


 ミリアの声が遠くで聞こえて、視界が揺れて意識が遠のいていった。


「ミリア、ミリア!」


 ミリアを呼ぶ声に意識を引き戻された。

 柔らかい感触を頬の辺りに感じる。


 目を開けると顔の横にミリアの顔があった。

 温かい吐息が、かすかに頬を撫でた。


 どうやら、俺に覆い被さるように倒れたらしい。


「ん……」


 ミリアが目を覚まし、すぐ近くにある俺の顔に気づいて跳ね起きた。


「マックス、アンタ何してんのよ!」


「お前が上に乗ってるんだろ?」


 咳払いの後、威厳に満ちた声がミリアの後ろから聞こえてきた。


「あなたたち、これはどういうこと?」


 アストリッドの笑顔は今まで見たことないくらいに冷たかった。


 体を起こして、辺りを見ると俺とミリアは固まった。


 ――森が、ない。

 演習場の奥にあった森がなくなり、クレーターになっていた。


「お前……的の周りだけって言わなかったか?」


「し、知らないわよ。途中から覚えてないもの」


 俺たちの言い合いを止めるように、アストリッドが静かな声で話した。


「途中で魔力が尽き、制御ができなくなったのでしょう。マックスが気絶するほどの疲労感ですからね」


「被害は……?」


「幸いなことに、エルフは誰一人怪我をしませんでした。しかし……」


 アストリッドの視線の先には、恐怖で震え続けるニトがうずくまっていた。


「ニトがこれほど怯えるなんて……」


 一体どんな魔法が発動したんだろう……?

 ニトは声を震わせて何かを呟いている。


「ニト、ごめんなさい」


 ミリアがそう言ってニトを抱きしめると、次第にニトの震えが止まりはじめた。


「黒い光が……森の方へ進み。光が溢れた後、体が風に飛ばされました。そして、すごい音がして」


「そう……ごめんなさい」


「顔を上げると……森がなくなっていました」


 地形を変える――

 あの言葉は、誇張でも何でもなかったらしい。


 ニトが落ち着くのを待って、俺たちはアストリッドの部屋まで移動した。


 アストリッドが椅子に腰掛けると、部屋の空気が重くなった。


「さて……」


 指を組んで俺たちを見ている。

 ……逃げ場はないな。


「アストリッド! 教えてちょうだい」


 ミリアの予想外な一言に、アストリッドが驚く。


「な、何をですか?」


「爆裂魔法を扱う方法よ!」


 沈黙の間があって、俺とニトは顔を見合わせた。悪いね、こういうやつなんだ……。


「ミリア、あなたにはまだ……」


「早くないわ! 私には力が必要。アストリッドにもわかるでしょ?」


 アストリッドが困った顔で笑う。


「まずは魔力ね! おばあちゃんの魔法書に書いてあった訓練を毎日やるわ」


「そうですね、それは重要です。しかし……」


 ミリアは首を振ってアストリッドの言葉を制した。


「今度は私が守りたいの」


 ミリアのその言葉に、アストリッドは目を見開く。


「あと十日で魔法書の魔法は全部覚えてみせる。あと、爆裂魔法に耐えられるように訓練も続ける」


「そうですね、ミリア。大切な人を守ってください」


 アストリッドがそう言って笑うと、ミリアの顔が、少しだけ赤くなった気がした。


 ……ほんの一瞬だけ、アストリッドの視線が指輪に落ちた気がした。

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