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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

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メイガスの意思

 俺たちはアストリッドに続いて、広く作られた小屋に入った。


 並ぶ書棚。古びた魔法書の数々。

 その中央に置かれていた一冊を、アストリッドは静かに手に取る。


「ミリア、これを」


 渡されたのは、表紙が擦り切れた本。


「これは、ミュラーが書いた魔法書。あなた方の求めるものが、そして――世界がまだ知らないものが、ここにあります」


 その一言で、空気が変わった。


「おばあちゃんの字……」


 ページを開いたミリアの目に、涙が滲む。


「上級魔法一覧……?」


 その先に書かれていたものを見て、ミリアが小さく息を呑んだ。


 ――これは、ただの魔法書ではない。


「すごい数の魔法……」


 ミリアのページを開く速度が上がっていく。


「これは……」


 あるページでミリアの手が止まった。

 そこには爆裂魔法と書かれている。


「爆裂魔法なんて聞いたことないわ」


「その魔法は、魔力に愛されたミュラーでも使えなかった魔法です」


 アストリッドがミリアの肩に手を置く。


「ミュラー曰く、地形を変えるほどの破壊力を持つと……」


 アストリッドは、一瞬言葉を飲み込んだ。


「セージであるあなたなら、もしや」


 その言葉にミリアは静かに頷いた。


「アストリッド、私ここにある魔法を全部覚えたいわ」


「しかし、その書物はエルフの財産。差し上げることはできませんよ?」


 ミリアが俺の方を振り向く。


「マックス、時間をちょうだい!」


「しかし、そんなに長くは時間を取れないぞ?」


「二十日! 二十日ちょうだい」


 真っ直ぐ俺を見つめるミリアに、何とかしてやりたくなってしまった。


「二十日なら問題ありませんよ。予定通り帰れるでしょう」


 エギルのその言葉に、ミリアは飛び跳ねるようにして喜んだ。


 その笑顔を見て、俺は何も言えなくなった。


 地形を変える魔法。

 その代償を払うのが誰になるのか――

 俺は考えないことにした。


 ミリアが本を読んでいる間、俺たちは武器の性能を試すことにした。


 まず、ザックが山穿やぜんを岩に向かって振り下ろす。

 岩は粉々に砕け、地面にヒビが入った。


「マスター、私に信頼の代償(リライアンス)を」


 ルーナに言われて、信頼の代償(リライアンス)をかける。


「アイザックさん、私に斬りかかってください」


「おい、ルーナ」


 何を言いだすんだ? もしアヴェンジスケールの効果が発動しなかったら……。


「安心してください、全てアヴェンジスケールが引き受けてくれます」


 アストリッドの言葉で、俺は腹を括った。

 ザックが山穿やぜんを振り上げる。


「大丈夫とわかっていても恐ろしいですね」


 ルーナの足が震えている。

 山穿やぜんが振り下ろされた瞬間、衝撃が空気を裂いた。


 刃が触れる直前、赤く燃え上がったアヴェンジスケールが光を弾いた。

 次の瞬間、俺の胸を内側から何かが叩きつけた。


 息が止まる。


「これは……すごいな」


 ダメージが襲ってこない感覚に思わず言葉が漏れた。


「アヴェンジスケールの本領はここからですよ」


 アストリッドがそう言って微笑んだ。


 近くの岩に向けて、俺はアヴェンジスケールを振り下ろす。

 轟音が響いて、まるで山穿やぜんの打撃を再現するように岩が粉々に砕けた。


「すごい……」


 ルーナの呟きとは違う、もっと重い感情が俺の中で渦巻いていた。

 アヴェンジスケールに出会わなければ、いつかあの岩と同じように砕けていた。


 それでも俺は、ミリアの隣にいただろう。

 複雑な気分で岩を見つめる俺の背中を、ザックが叩いた。


「命拾いしたな」


 言葉とは裏腹に、その視線には安堵の色があった。


 十日目の朝早く、滞在用に借りた俺の部屋の扉が強くノックされた。


「マックス、起きなさい! 全部読んだわ」


 ミリアの元気な声が聞こえてくる。

 もう少し寝かせてくれよ……。


 眠い目を擦りながらドアを開けると、ミリアに腕を引っ張られた。

 言われるままに、演習場までついていく。


「さあ! はじめるわよ」


 ミリアの勢いに押されるように、俺は信頼の代償(リライアンス)を発動させた。

 演習場にはニトが既に的を立てて待っていた。


「悪いね……付き合わせてしまって」


「いえ、とんでもない。ミリアさんの魔法を見れるんですから」


 彼女の目が光っている。

 ……エルフって、やっぱり変わってる。


 ミリアが指輪に集中する。

 久しぶりに、わずかな疲労感が背中を撫でた。

 思わず体が揺れた。


 的に向かって、巨大な氷の矢が一直線に突っ込んでいく。

 的が粉砕されるのを見て、ニトが跪き、祈るように目を輝かせた。


「アイススピアですね! さすがです」


 アイススピア? 中級の魔法じゃないか……。

 もう会得したのか?

 それに……。


「ミリア、詠唱は?」


「びっくりしたでしょ? この指輪、詠唱いらないのよ」


「次は上級魔法いくわよ!」


 身構える暇もなく、ミリアが指輪に集中し始める。


 今度は、はっきりと疲労感を感じた。

 さっきとは、明らかに違う……。

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