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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

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セージ

「ここなら、どんな魔法を撃っても平気です」


 里の奥に行くと、木の上から伸びる階段を降りた先に、演習場のような土地があった。


「里の者は皆、ここで魔法の練習をするのです」


 ニトがそう言って、少し離れたところに的を立てる。


「あちらに向かって、得意な魔法を放ってみせて」


 アストリッドの言葉にミリアが頷いた。


「待て待て、アヴェンジスケールは疲労感も肩代わりするのか?」


 俺が慌ててそう聞くと、アストリッドは目を閉じて首を振った。


「いいえ、アヴェンジスケールが肩代わりするのはダメージだけです……そうね、まずは指輪の封印を解きましょうか」


「封印? 指輪を外すんじゃないのか?」


 驚いて、俺とザックが視線を合わせる。


「まあ、ミュラーったらそれも伝えてなかったのね」


 アストリッドは大袈裟に溜め息をついてみせた。


「その指輪はミリア専用の杖ですよ」


「これが……私の杖?」


 驚いたミリアが指輪を撫でる。


「ええ、ミリアの魔力を抑えるために封印されてるだけです」


「じゃ……じゃあ! 指輪を外さなくていいのね?」


 ミリアが目を輝かせてアストリッドに尋ねた。


「ええ、外してはダメですよ」


 ミリアは嬉しそうに指輪を額に当てた。


「では、封印を解きましょうか」


 そう言って、アストリッドが指輪に魔力を込め始める。


「封印はアストリッド様の魔力で解けるようになっていました」


 ソフィアはそう言って、アストリッドの様子を見守っていた。


 大気が震え、アストリッドの顔色が変わっていく。


「ソフィア、魔法壁を!」


「はい!」


 ソフィアが魔法道具を取り出して、ミリアの周りに設置した。


 魔法道具から出た光がミリアの周りを囲む。


「なんて魔力なの……」


 アストリッドが目を細めて呟いた。


 地面が盛り上がり、視界が揺れる。


「アストリッド! ミリアは大丈夫なんだろうな!?」


 集中しているアストリッドの耳には、俺の言葉が聞こえていないようだ。


「アストリッド様……もちません」


 ソフィアが設置した魔法道具が激しく揺れて、亀裂が入った。


 周りの木々から鳥たちが一斉に飛び立った。


 何かが砕けるような音が響き、ミリアを囲んでいた光の壁が破られた。


 壁を破った光の柱は空に向かって伸びていく。

 すごい速さで空に達したそれは、雲を払い、晴天へと溶け込んでいった。


 そして、遠雷のような反響が轟いた。


「アストリッド……これは?」


 心配になった俺が聞くと、アストリッドは微笑んだ。


「心配ありません、抑えていたミリアの魔力が指輪の封印を解いたことで溢れ出したのです」


 ミリアを見ると、きょとんとした顔でこちらを見ていた。


 一瞬、ミリアに手が届かなかったことに俺は恐怖を感じていた。


「私……どこか変わった?」


「いや? 全然」


 ミリアの質問に正直に答えると、頬を膨らませて、俺の胸を軽く叩いてきた。


 その様子を穏やかな笑みで見ていたアストリッドは、エギルに「魔法を」と耳打ちされた。


 わざとらしい咳払いをして、アストリッドが話し始めた。


「で、では、得意な魔法をあの的に向かって放ってください」


 その言葉に頷いたミリアが、杖を構えようとする。


「ミリア、杖は使わず指輪に集中してみて」


 杖を置いたミリアが、指輪に意識を集中したその時、巨大な炎の玉が的に当たり大爆発を起こした。


 返ってきた熱風にせ返る。


 振り返ると、アストリッドやエルフたちは時間が止まったかのように固まっていた。


「ミリア……この魔法は?」


「ファイアーボールよ!」


 アストリッドの質問に自信満々に答えるミリア。

 アストリッドは頭を抱えて、何かを呟いている。


「アストリッド?」


 ミリアが声をかけるとアストリッドが顔を上げて言った。


「そんなファイアーボールはありません!」


 何だか前にも見たような光景だな。

 あれ……? そう言えば……。


「アストリッド、疲労感を感じないんだが?」


 俺の質問に、落ち着きを取り戻してきたアストリッドが答えた。


「それで当然です。ミリアほどの魔力があれば、ファイアーボールを何発撃っても疲労感なんて感じませんよ」


 俺の苦労は……まあいいか。


「しかし、ミリアはミュラーほど魔力に愛されているわけではないですね」


 その言葉にミリアが肩を落とす。


「いえ、愛されているものが魔力ではなく……自然そのもの……」


 自然そのもの? どういうことだ?


「先ほどのファイアーボールもそうです。例えば初級のチルストライクを撃っても、敵に風穴を開けるほどの硬さを持つでしょう」


 確かに、それは何度も見ている。


「普通のメイジが知識をつけ、訓練を重ね、少しずつ威力を高めていくものをミリアは最高レベルで元から持っているのでしょう」


 最高レベル? 世界中から狙われないか?


「天才ってこと?」


 ミリアが嬉しそうに尋ねると、アストリッドはニッコリ微笑んだ。


「そうかもしれませんね。ミリア、あなたのことをセージと呼びましょう」


「セージ……?」


「そうです。セージ・ミリア、あなたに見せたいものがあります」


 そう言ってアストリッドは歩きはじめた。


 俺たちはその後を追った。

 何が待っているのかも分からないまま。


 ただ、ミリアだけは嬉しそうに笑っていた。

 その笑顔が、やがて世界を震撼させるなんて……。


 その時の俺たちには、想像すらできなかった。

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