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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

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騎士と魔女

「マックス、信頼の代償(リライアンス)って何なの? 何で私に隠すの?」


 ミリアが不安そうな顔で俺を見つめている。


信頼の代償(リライアンス)というのは……」


「アストリッド!」


 説明を始めたアストリッドを止める。

 アストリッドがこちらを見つめ、溜め息をついた。


「あなたがミリアを守りたい気持ちはわかります。しかし、あなたを失った後のミリアを思ったことがありますか?」


「いや、それは……」


 考えないようにしていたことだ。


 俺がミリアの代わりに死んだとして、その後ミリアがどうなるのかなんて……。


「きちんと話しておくべきです」


 振り返るとミリアが俺を睨んでいた。


「マックス、死ぬってどういうこと?」


「いや、それは……」


 ミリアが俺の襟首を掴んで引っ張った。

 布が軋み音を立てる。


「言え!」


 涙を浮かべたその目を見て、俺は腹を括った。


「わかった……話すよ」


 俺がそう言うと、ミリアがゆっくり手を離した。


「死んだりしないわよね?」


「そうだな、死ぬ気はない」


 こんな返事で安心できるわけないか……。


信頼の代償(リライアンス)というのは、俺のユニークスキルだ」


「ユニーク……スキル?」


 ミリアは確かめるように、俺の言葉をなぞる。


「一人を対象として発動させた時、対象者が受けるダメージや疲労を肩代わりする」


 ミリアが口を押さえて固まってしまう。


「激しい感情とかも流れ込むけど、全て把握してるわけじゃない」


 そう言うと、ミリアが口を開いた。


「み、みんな……知ってたの?」


 ルーナやヒナが無言で頷く。

 ザックは居心地悪そうに頭を掻いている。


「待ってよ……知らなかったのは私だけ?」


「ミリア、落ち着け」


「落ち着けないわよ! アンタ……あの時も」


 ミリアの手が震えている。

 続けようとしているが、声が出てこないのがわかる。


 ミリアの両目から、大粒の涙が零れ落ちる。

 ぽたり、と床に落ちる音がした気がした。


 震える肩が、小さく上下している。


「サントバールに……来る時も。と、盗賊を倒した時も……私のせいで大怪我したの?」


「それは違う」


「何が違うのよ! 魔法使っても疲れないのも……みんなアンタのおかげで、私だけそれを知らなくて」


「ミリア、違うんだ」


「違わないわ、何も違わない。私だけ何も知らずに、偉そうにして……バカみたい」


「ミリア……」


 ミリアは視線を逸らし、黙ってしまった。


「ミリア、そのまま聞きなさい」


 アストリッドが話はじめる。


信頼の代償(リライアンス)は、時代に選ばれた者が手にするスキルだと言われています」


「俺だけのユニークスキルじゃないのか?」


「いえ、今代の信頼の代償(リライアンス)はあなただけのものです」


 そう言ってアストリッドが微笑む。


「しかし、時代の表舞台に出てくることはありません」


「そうなのか?」


「ええ、誰がそんなスキルを使うと思いますか?」


 ……確かに。俺がおかしいのか?


「千年以上の時を生きる私ですら、信頼の代償(リライアンス)を使用した者は二人しか知りません。――マックス、あなたを入れて二人です」


「俺を入れて……二人?」


 静かに頷いたアストリッドが、ミリアに視線を向けた。


「前に使用したのは、ヘルフリート。ミリアの祖父です」


「わ、私の……おじいちゃん?」


 涙声のミリアが尋ねた。


「ええ、ヘルフリートはミュラーの盾でしたから」


「おじいちゃんの話……聞いたことなかった」


 アストリッドが微笑む。


「伝説のウォーロックの話を聞いたことは?」


「それなら……おばあちゃんから何度も」


 そう言ったミリアが目を見開く。


「そう、お話に出てくる騎士はヘルフリートのことです」


「おじいちゃんが、騎士様」


 一瞬だけ、ミリアの顔が明るくなったが、また暗くなる。


「騎士様は死んでしまうわ……」


「そうですね、ヘルフリートはミュラーを守りながら亡くなってしまいました」


 ミリアが俺の方をチラッと見て、すぐに目を逸らした。


「ヘルフリートが守ったのは、ミュラーだけではなかったんですよ?」


「え……?」


「お腹にいた、ミュラーとヘルフリートの子を守ったのです」


「私のお母さん……」


 優しい顔をしたアストリッドがミリアに近づく。


「あなたがここに来てくれて、本当に嬉しかったです。信頼の代償(リライアンス)があなたに会わせてくれた」


 そう言ってアストリッドはミリアを抱きしめた。


「あなたにも……騎士が現れたのですね」


 その言葉は、祝福のようで。

 祈りのようでもあった。


 アストリッドがそう言うと、ミリアは声を上げて泣いた。


 ミリアが少し落ち着いたところで、アストリッドは厳しい目で俺を見た。


「マックス、あなたの覚悟はもう伝わりました」


 そう言った後、アストリッドは大きく溜め息をついた。


「異常です。本当によく生きてここまで辿り着きましたね」


「仲間に恵まれましたからね」


「普通、信頼の代償(リライアンス)なんて使いません」


「いや、ミリアの祖父じいさんも使ってたんだろ?」


 アストリッドは両手を上に向けて首を振った。


「ヘルフリートが信頼の代償(リライアンス)を使っていたのは、ミュラーが作った特別な剣があったからです……」


「え? 特別な剣?」


 頷いたアストリッドが合図をすると、奥から綺麗に装飾された鞘に収まった剣が運ばれてきた。


「我々は代償の剣と呼んでいますが、ミュラーがつけた名前は確か……」


 アストリッドは頭を押さえて目を瞑る。


「アヴェンジスケール」


「アヴェンジスケール……?」


 頷いたアストリッドが続ける。


「魔力に愛されたメイガスにしか作れない剣です。信頼の代償(リライアンス)で肩代わりしたダメージを蓄積させ、敵に放出することのできる剣です」


「それは……」


 無敵じゃないのか?


「無敵ではありませんよ? 蓄積できるのは信頼の代償(リライアンス)で肩代わりしたダメージだけです」


「しかし、これは……」


 顔を上げると、アストリッドがすぐ近くで俺を見ていた。

 その笑顔が……怖い。


「普通、このくらいのアイテムがないと、信頼の代償(リライアンス)なんて発動させません。あなたは異常ですよ?」


「いや、俺はただ……」


「ただ、何ですか? ミリアが大切だから死んでもいいと思った。とでも言う気ですか?」


 ザックが口笛を吹いて冷やかす。


 ミリアを見ると、真っ赤な顔をしていた。


「マックス、それは献身ではありません」


 一拍置いて、アストリッドは続けた。


「あなたのエゴです。残される人のことも考えなさい」


「……はい」


 アストリッドに怒られてしまった。


「その剣はあなたが持つ以外に価値はありません。それでミリアを守ってください」


 アヴェンジスケールを受け取った。


「ミリア、これでいいですね?」


 ミリアを見ると静かに頷いて、俺の腕をギュッと握った。


「悪かったよ。もう隠し事はしない」


「……絶対よ?」


 その様子を見て、みんなの頬が緩むのがわかった。


「次はあなたね」


 アストリッドがそう言ってザックに手招きをした。


「なるほど、あなたが剣ですね」


 そう言われてザックが戸惑っている。

 剣……どういう意味だ?


 室内は静まり、アストリッドの次の言葉を待っていた。

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