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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

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ミュラーの意思

 森に足を踏み入れると、外とは違う冷たい空気を感じた。


 遠くで不気味な鳥の鳴き声が聞こえる。


「さあ、こちらです」


 エギルの後を追って、俺たちは歩き始めた。


「大森林というのは名前だけじゃないな」


 思わず呟いた。

 見たこともないような立派な木々と、広大な森。

 奥に行くに従って、大木の影が日光を遮る。


「かなり距離がありますから」


 そう言ってエギルは笑った。

 その笑顔は、先程から感じていた視線など、最初から存在しないかのようだった。


 かなりの時間を歩いたと思う。

 薄暗い森の中で、時間の感覚が狂う。


 心を落ち着かせてくれていた木々の匂いが、今は不安を煽るようだ。


「ねえ、まだなの?」


 ミリアが尋ねると、エギルが振り返った。


「そろそろです、気をつけてください」


 みんな、肩で息をし始めていた。

 思わず木に手をついたその時。

 コンッという音が響いて、手をついたすぐ横に矢が刺さった。

 振動が指先に伝わる。


「止まれ、ここから先は人が立ち入って良い場所ではない」


 どこからか響く声に、息を呑んだ。


「待ちなさい」


 エギルが前に出た。


「その声は……」


 姿を見せない声の主が、動揺しているのがわかる。


「降りてきなさい」


 エギルがそう言うと、高い木の上から二人のエルフが飛び降りてきた。


「エギル様……」


「やあ、久しぶりですね」


 エギルを見て二人のエルフは目を輝かせる。


「本当にエギル様だ」


「お会いしとうございました」


「二人とも元気そうでなによりです」


「エギル、この二人は?」


 俺が尋ねると、エギルはニッコリ笑った。


「里の警備をしている、ニトとルッコラです」


 エギルが紹介すると、二人は頭を下げた。


「エギル様のお供とは知らず、申し訳ない」


 エルフの二人が値踏みするように俺たちを見た。


「いや、こちらこそ急に入ったから……」


 言いかけた俺をエギルが制した。


「この方々は供ではない、私がお連れしたのだ」


「では、この方々が里長の言った……」


 その言葉にエギルが頷く。


「失礼しました、ご案内致します」


 ニトはまだ弓を手放さないが、何とか信用されたみたいだ。


 二人の案内で、俺たちは森を進んだ。


 先程までは見えなかった道が開けたかのように、歩くのが楽になった。


 視界が開けて、太陽が見えた。


 階段を上がると吊り橋になっていて、木々のあちらこちらに生えるように小屋が立っていた。


 ニトの後に続いて吊り橋を歩いていくと、木の影に隠れていた大きな建物が見えた。


「すごいな……」


「素敵なところじゃない! エギル」


 ミリアの声にエギルは嬉しそうに微笑みながら、


「ミリアさんにそう言ってもらえると光栄です」


 と言って、頭を下げた。


 建物の前に先に行ったルッコラが待っていた。


「里長がお待ちです。中へ」


 ルッコラに言われて中に入ろうとすると、


「いえ、ミリア様とエギル様だけ……」


「ルッコラ」


「しかし、エギル様」


 エギルが首を振るとルッコラは驚いた。


「まさか、この方々全員?」


 その声にエギルが頷いて応える。


「私もいるわよ? ルッコラ」


「ソフィア様! 失礼しました」


 ソフィアの顔を見たルッコラが慌てて道を開けた。


 建物の奥に通されると、中央に少女が座っていた。

 驚くほど整った顔が、どこかエギルに似ている。


「母上、ただ今戻りました」


 エギルが頭を下げた。

 母上!? どう見ても俺よりずっと年下に見えるぞ?


「よく戻りました、エギル。それにソフィアも」


 声も少女のようだが、どこか威厳を感じる。


「まあ、なんと美しい! まるでミュラーが戻ったみたいね」


 落ち着いた声が急に跳ねる。

 里長はミリアを見て目を輝かせていた。


「ミュラーは私のおばあちゃんよ!」


 ミリアはどこに行ってもミリアだな……。


「こちらへ」


 里長がミリアを近くに呼ぶと、急に涙を流した。


「そう、ミュラーは亡くなったのね。人間とはなんて儚いものなんでしょう」


「わかるの?」


 里長が静かに頷く。


「失礼しました。私はこの里の長、アストリッド。あなた方を歓迎します」


 そう言ってアストリッドは微笑んだ。


「エギル、あなたが皆さんをここへ導いたのですか?」


「いえ、母上の言われたとおり、皆様がここに来ることを望まれました」


 何のことだ?


「やはり、ミュラーの意思かしら?」


「ミリアさん、指輪を母上に見せてください」


 ミリアが指先をアストリッドに見せた。


「まあ、本当にミュラーの意思だわ。あなたはミュラーに選ばれたのね」


「おばあちゃんに? 何も聞いてないわ」


 ミリアが答えるとアストリッドが頷いた。


「それでいいのよ、指輪を外しに来たんでしょう?」


「そうね、ウィザードになるのに必要だからって。マックスが言ったの」


 アストリッドがこちらを向いて、俺をじっと見つめた。


「そう……あなたが盾なのね」


「盾? ああ、そうかもしれないが……」


 俺も何も聞いてないぞ?

 しばしの静寂が流れた。

 突然、アストリッドの顔が青ざめた。


信頼の代償(リライアンス)が発動してるわね……」


 アストリッドは手で口を押さえて、まるで信じられないものを見ているような表情をした。


 なっ! 何を言い出す気だ?


 ミリアが俺の方を不思議そうに見つめた。


「マックス、信頼の代償(リライアンス)って何なの?」


 その質問に、俺の鼓動が早くなる。

 よせ、まだミリアにバレるわけにはいかない。

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