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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

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表と裏

 国境を超えて、俺たちは遂にナイカリキンに入った。


 ボーダーウェッジを抜けて、次の街を目指す。

 レグナートと比べ街道は狭く、道も悪かった。


「次の街に着くのは三日後ですね」


 ルーナが地図を開きながら、距離を測る。


「そんなに待てないわ、村とかないの?」


「小さな村はありますが……宿は取れないと思いますよ」


 村に宿があるかもしれないけどな?

 俺の表情を見て、ルーナが続けた。


「まあ……村に着いたらわかります」


 馬車で一日走って、最初の村に立ち寄った。

 辺りは真っ暗なのに、一軒も灯りがついていなかった。


 馬車を村の端に止めて、辺りを見回すと家の中から老人が出てきた。


「レグナートから来たのかい?」


「ああ、ここは真っ暗だな」


「灯りをつけるのも金がかかるからね」


 老人が言うには、税金が高いので仕事ができない夜はほとんど灯りをつけないらしい。


「最近、また税が上がってな」


 そんな状況の村に寄る旅人は少ないらしい。もちろん、宿もない……。


「あぁ……」


 ミリアがガックリと肩を落とした。


 翌朝、村を出て次の街を目指す。

 通過する村はどこも、夜は真っ暗だった。


 ようやく到着した街で、俺たちは目を見開いた。

 豪華な建物が並び、あちこちから湯気が上がっている。

 高額だったが、宿もかなり豪華だった。


「本当に同じ国かよ?」


「ああ……」


 俺とザックは久しぶりに酒場で飲んだ。


 帰り道を間違えて路地裏に入り、俺たちは驚いた。

 豪華なのは表だけで、裏は年季の入った建物が並んでいた。


 灯りのつかない窓。人影もない。


「何だこれは……」


「これがナイカリキンなのか?」


 豪華な建物の裏でゴソゴソと音がする。

 振り向くと子供たちが、ゴミを漁っていた。


 初めて触れるナイカリキンという国に、開いた口が塞がらないような気分で宿に戻った。




「ディーデリック様」


「ハンスか」


 豪華な椅子に腰掛け、ヴァインを片手に書物を読んでいるディーデリック。


 窓の暗闇から聞こえてくる声に、視線も動かさず応える。


「やつら、ナイカリキンに抜けたようです」


「ほう、何か掴んだんだろうな?」


 一瞬の間が、張り詰めた空気を重くする。


「馬車に乗っていたのは六名。メイジは確認されています。ただ――炎ではないと」


「なるほど……」


 ゆっくりと、ディーデリックが書物を閉じる。


「ナイカリキンに入られたなら、監視を続けるのは危険だな」


「はっ、既に撤退命令を出しました」


 ディーデリックはヴァインを口に運ぶ。


「本命はギルドに残っている炎のメイジか」


「踏み込みますか?」


 眉毛をピクリと動かして、ヴァインを飲み込む。


「いや、見張らせろ」


「はっ」


 窓の外の気配は消え、ただ暗闇が広がっていた。


「報告より、一人少ないのも気になる。準備は念入りに行わないと……」


 ディーデリックは窓を開けて、夜空に浮かぶ月に手を伸ばした。


「もうすぐだ……準備は整いつつある」


 雲が月を包み、空は完全な暗闇になった。




 ナイカリキン城がある王都グラン・ナイカには向かわず、真っ直ぐナイカリキンを抜ける道を選んだ。


 徐々に道は険しくなり、山道へと入る。


 坂道を後ろから押しながら上がったり、山の中で野宿しながらナイカリキンを抜けた。


「遠かったな……」


 サントバールを出て、ひと月。

 俺たちはようやく、フォールン大森林の入り口にたどり着いた。


 森から吹き抜けてくる風は、まるで入ってくる者を拒んでいるようだった。

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