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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

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秘密な二人

「あっ……」


 床に落ちたタオルの音が、やけに大きく聞こえた。


 目を逸らすまでの一瞬、見えてしまったミリアの肌が頭から離れない。


 泡の実で洗った後の、いい匂いがするし……。

 落ち着け……落ち着くんだ。


 視界の端で、ミリアが急いでタオルを拾っているのがわかる。


「虫……」


「ん?」


 声が小さすぎて聞こえない。


「虫!」


 ああ、虫ね。

 俺は急いで虫を摘んで窓から逃した。


「……ていって」


「何だって? 聞こえないよ」


 俯いたミリアの肩が震えている。


「出て行け!」


「はいっ!」


 俺は急いで自分の部屋に戻った。


 夕飯まで少し眠ろうと思っていたが、悶々として眠れなかった。


 辺りが薄暗くなる頃、ノックの音が響いた。


「マックス、ご飯だって」


 ミリアの声に心臓が驚いて飛び跳ねた。


「あ、ああ」


 ドアを開けると、真っ赤な顔をしたミリアがうつむいて待っていた。


「……なさい」


「え?」


 また声が小さくて聞こえない。


 突然、ミリアが俺の襟首を掴んだ。


「忘れなさいって言ったのよ! 見たもの全部」


「無茶言うなよ!」


「無茶でも何でもいいわ、忘れるのよ! いい?」


 ミリアが、早口で捲し立てるように言ってくる。


「わかったよ。忘れる」


「嘘ね、ザックにでも殴ってもらう?」


 無茶苦茶だな……。


「何よ、その目……」


「無茶なことを言ってる自覚はあるよな?」


「……わかってるわよ。だって恥ずかしいじゃない」


 涙目になっているミリアを見て、思わず溜め息をつく。


「あれは事故だ、それに誰にも言わない」


「……絶対よ」


「ああ……約束する」


 急に後ろに振り返ったミリアは、三歩ほど歩いて、「ご飯よ、行きましょ」と言った。


 翌朝、俺たちは国境を越えるため検閲に並んだ。


 朝早くから結構な列ができていたが、一組あたりの検閲時間は短かったので、予想より早く自分たちの番が来た。


「次」


 馬車を進めると、検閲官に止められる。


「商人じゃないな? 身分を証明するものを見せろ」


 ギルド本部で発行してもらった身分証を取り出そうとした時、エギルが検閲官の前に歩み寄った。


「私が代表のエギルです。フォールン大森林へ戻るために、護衛を雇い旅をしています」


「ほお、そうか。何か身分を証明するものは?」


「こちらが里長から預かった外界活動許可証です」


「おお、これは……初めて見る」


 珍しそうに許可証を眺める検閲官に、エギルが微笑みながら尋ねる。


「そろそろ通らせていただけますか?」


「まあ待て、護衛の者達はギルドなんだろ? 馬車は二台、お前と御者のエルフで二人……じゃあ護衛は五人いるんじゃないか?」


 なぜ俺たちの人数を把握している?


「さて? それが何か?」


「いや何、怪しい七人組が通ったら知らせよと通知があったのだ」


 どういうことだ? 怪しい七人組?


「では、我々ではないでしょう」


「ふむ、念のため改めさせてもらう」


 そう言って検閲官が荷馬車を覗いた。


「こちらは荷馬車か、ではもう一方の馬車だな」


「五人乗ってればどうなります?」


「しばらく取り調べに応じてもらうしかないな」


 これは……何なんだ?


 この馬車には五人乗っている。

 取り調べ? いったい何を聞かれるというんだ?


「では失礼……」


 検閲官が馬車を覗き込んだ。


「一、二……御者を合わせて四人?」


「ええ、護衛は四人組ですよ」


 エギルが後ろから検閲官に告げると、


「そんな馬鹿な……」


 検閲官は馬車の中をぐるぐる見回した。


「もう、よろしいですか?」


「ま、待て。そこの女! お前メイジだな?」


「そうよ? 何か文句あるの?」


 検閲官の顔が一瞬、にやりとした。


「炎の魔法が使えるか?」


「当たり前でしょ?」


「よし、使って見せろ」


 検閲官に言われて、ミリアが馬車を出ようとした。


 俺はこのままではまずいと思い、ミリアに耳打ちする。


 ミリアは真っ赤になり、うつむいてしまった。


「おい、どうした? 早く炎の魔法を見せろ!」


「そんなの……できるわけないでしょ!」


「なに?」


 戸惑う検閲官に、エギルがこっそり話しかける。


「彼女はプライドが高すぎて虚勢を張るのです。炎の適性はありませんよ」


「なんだと? 紛らわしい。行ってしまえ!」


 国境を超えたところで、ルーナが隠者ハイディングを解いた。


「ミリアさん、マスターに何で言われたんですか?」


 ルーナが聞くと、ミリアは真っ赤になって、


「知らないわ! マックスのばか!」


 そう言って頬を膨らませた。

 こいつは……助けてやったのに。


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