それならきっと、大丈夫だ
サントバールの街中に、かまどに火を入れる煙の臭いが漂っている。
仕事に向かう人々の声が聞こえ、街は徐々に明るく染まっていく。
リライアンスの面々が二台の馬車に荷物を載せていく。
建物の上から、その様子を無言で見下ろす影がある。
「行ってくる。身体には気をつけろよ」
馬車に乗り込む前に振り向いて、そう言った。
留守を任せたメンバーたちは、それぞれに考えることがあるんだろうな。
「カシム、頼むよ」
「はい、マスター」
カシムに後を預けて、俺は馬車に乗り込む。
ミリアが隣の席を手で叩いて、ここに座れと合図する。
「さあ、行こうか」
馬車を引くザックに声をかけると、馬が歩きはじめ、車輪が回る。
さあ、出発だ。
サントバールの東門を潜って、街道に出た。
正面から差し込む陽射しが、幌の中の温度を上げる。
ミリアめ、緊張して眠れなかったな?
妙に眠い。
「こっちはコマキ村の方よね?」
何だか嬉しそうだな。
コマキ村には、依頼で二度ほど行ったことがある。
子供たちが元気で、ミリアの話を嬉しそうに聞いていたな……。
「コマキ村に寄る時間はとれないぞ?」
「わかってるわよ、言われなくても」
わかってる割には、頬が膨らんで見えますけどね……。
しばらくは幌の中で、ミリアと他愛もない話をしていた。
魔法の話になって、ルーナが魔力消費の疲労感について尋ねた。
「ないわよ? そんなもの」
あっさりと答える。
ルーナが小さく眉を寄せた。
俺は何も言わなかった。
――まあ、俺が代わりに感じてるんだがな。
ルーナが俺を見て、微笑んだ。
コマキ村の手前で、ザックがこちらに向かって叫んだ。
「そろそろ変われよ」
「わかった、コマキ村で一度止めるか」
振り向くとミリアの目が輝いていた。
「ちょっと寄るだけだぞ?」
「わかってるわよ! 言われなくても」
今度は元気いっぱいに同じセリフを言った。
コマキ村に着いて馬車を止めた。
「少し休憩にしよう」
荷馬車を引いていたエギルに声をかけると、ソフィアが冷やした飲み物を持って出てきた。
「冷やしてありますよ、どうぞ」
飲み物を受け取ると、荷台に腰掛けて一息つく。
「ここのお茶おいしいのよ? 買っていきましょう」
ミリアがそう言ってエギルを連れて行く。
エギルからの視線に、好きにやらせてやれと言う気持ちを込めて頷いた。
「馬車の中は、揺れがすごいですね……」
ヒナが少し辛そうだ。
三ヶ月――長いな。
「いいものを作ってきましたよ」
ソフィアが嬉しそうに魔法道具を取り出してきた。
それを馬車の車輪に取り付けていく。
取り付け終わったタイミングで、お茶を買いに行ったミリアとエギルが戻ってきた。
「ここに魔力を流せば、揺れは軽減されますよ」
「本当か? すごいな」
ミリアが魔法道具に魔力を流していく。
「あっ! お姉ちゃんだ!」
子供が走ってきて、ミリアに飛びつく。
「あら、元気だった?」
「うん! 遊びに来たの?」
ミリアは子供の頭を撫でながら、
「ええっと、ナイカリキンっていう……遠い国に行くのよ」
そう言って笑って見せた。
「ええ! ナイカリ……ってどこ?」
「ここからずっと東にある王国よ」
「レグナートから出るの? すごい!」
ミリアは、はしゃぐ子供を相手に何だか自慢げになっている。
「よし、そろそろ行くか」
俺が声をかけると、それぞれ馬車に乗り始める。
「もう行っちゃうの?」
「また帰りに寄るわよ」
勝手な約束してるな……まあ、いいか。
ルーナが馬車の手綱を取り、旅が再開した。
「さあ、早く行きましょ!」
ルーナに声をかけるミリアを見て苦笑した。
子供に話しかける時と同じ話し方だ。
まあ……だから好かれるのかもな。
どこに行っても、こいつはこいつか。
それならきっと、大丈夫だ。




