背中を追う覚悟
サントバールに戻った俺たちはギルド本部に向かった。
受付嬢はアウロラの悲惨な末路に涙を流し、解散の手続きをした。
その後、アウロラメンバー四人の加入手続きを済ませて、報酬を受け取るとギルドホームに戻った。
「みんな集まってくれ、新しいギルドメンバーを紹介したい」
声をかけると、メンバーが集まる。
「グロック、アスペン。それとミーナとニーナだ」
「グロックです、よろしくお願いします」
グロックが頭を下げると、カシムたちが駆け寄って来た。
「カシムです、よろしくお願いします」
「キャッシュだ! よろしくな」
「リアです」
「ハマンと言います、これからよろしく」
それぞれが自己紹介をはじめる。
得意な分野の話や、今までの依頼のことで盛り上がり、打ち解けていった。
俺はその姿を見ながら、胸の奥で何か重いものがのしかかるのを感じていた。
みんなの声が遠くに感じる。そんな俺の腕を、ミリアがそっと掴んだ。
「このギルドはアタシたちのギルドだからね」
その笑顔に少し救われた気がした。
「俺からもいいか?」
ザックが声をかけた。珍しいな……。
「新入りも含め、全員の力を知りたい」
なるほど、確かにこのままでは不安が残る。
「わかった、実地を兼ねて討伐依頼で訓練をする」
「はい!」
まだ思うところはあるようだが、それでもみんな前に進もうとしているのがわかる。
「マスター、班分けを提案します」
ルーナが前に出た。
「グロック、キャッシュ、リア。三名をアイザック班。ニーナとミーナ。カシム。そしてアスペン。この四名をルーナ班とするのはどうでしょうか?」
双子が視線を交わす。その顔にはまだ怯えが残っていた。
「それは構わないが、俺たちは?」
「マスターたちが混ざると訓練になりませんので」
……そこまで考えてのことか。
「わかった、俺たちは別の依頼をこなすよ」
「それでは、班に分かれて依頼を受けにいきましょう」
ルーナの号令で、それぞれが班に分かれギルド本部に向かった。
「俺たちも行くか」
そう言うとミリアが笑顔で頷いた。
今日は運良く、って言ったら怒られるか。
討伐依頼が多かった。
俺たちはウォルフ討伐の依頼を受けて、ギルド本部を後にした。
「ウォルフっていったらアレよね? 気を引き締めましょう」
確かに、サントバールに向かう途中しんどい思いをしたからな……。
完治はしたが、爪で抉られた肩の痛みを思い出しそうだ。
まあ、今日はヒナがいるから平気だろう。
そう思ってヒナを見ると、不思議そうな顔をして笑い返してきた。
薄暗く、静かな森の中を歩く。
風が吹くと木々が擦れる音だけが聞こえる。
私たちルーナ班は、ウォルフ討伐の依頼を受けた。
依頼書にはウォルフ七匹の群れとあった。訓練にはちょうどいい数だ。
マスターたちも、別の場所でウォルフ討伐の依頼を受けたと聞いた。
「そろそろ、依頼書にあった場所です」
慎重に歩くように視線を送ると、みんなそれに合わせた。
木々の向こうで茂みが不規則に音を立てる。
一、二……七匹、依頼書の通りだ。
「ルーナさん、七匹です」
「さすがです、アスペン」
全員が身構えると、前方の茂みが勢いよく動き、三匹のウォルフが飛び出して来た。
茶色の毛皮、素早い動き。
「ニーナ」
声をかけるとニーナが詠唱をはじめる。
「ウインドカッター」
迫ってくるウォルフの間を風の刃が通り抜ける。
全身に切り傷を負い、怯んだウォルフにカシムが間髪入れず剣を振り下ろす。
右側の茂みが音を立て、ニーナに向かってウォルフ二匹が飛びかかった。
跳びかかってきたウォルフの首を、私は裂いた。頬に散る血の温度が伝わる。
動かなくなったウォルフが地面に音を立てて落下する。
今度は左側の茂みが音を立てる。
まだ距離がある。
「ミーナ」
声をかけたが、ミーナの顔は青くなり震えている。
ウォルフの姿が見えるとミーナが後退りをした。
下がろうとするミーナの背中に手を当てる。
「いつでもミリアさんが見てると思いなさい」
ウォルフたちがどんどん近づいて来る。
ミーナは唇を噛み、杖を握り直した。
「ミリア様……」
ダメか……このままでは危ない。
諦めて下がらせようとした、次の瞬間。
炎が弾けた。
……小さい。
いいえ、ミリアさんが規格外なのです。
炎の玉を食らい、逃げようとするウォルフの脳天にアスペンの矢が刺さった。
ウォルフの尻尾を切り落とし、鞄に入れてからギルド本部へ向かった。
「お、終わったのか?」
「マスター」
マスターの笑顔には余裕があった。
……さすがですね。
「どうでしたか?」
「それが、ウォルフって聞いてたんだが……」
マスターが少し困った顔をした。
強敵の出現に苦労されたのかも知れない。
「行ってみたら狼しか出なかったのよ」
ミリアさんが物足りない顔をしている。
「一応、尻尾は切ってきたけどね」
マスターが鞄から一本取り出した。
嫌な予感が背筋を走る。
――まさか。
「それ……ウォルフの尻尾ですよ?」
「え?」
時が止まったように、空気が固まる。
「いや、ウォルフって言うと……」
「そうよ。サントバールに来る時に戦ったのは、何倍も大きかったわ」
「それに黒かったしな」
え……? 黒い? 大きい?
黒い!?
「マスター……それはヘルハウンドです……」
「ヘル……ハウンド?」
ベテランの冒険者パーティーでも
全滅を覚悟する強敵。
しかも群れ。
それを――二人で?
「マスター……」
「な、何かな?」
「いえ、さすがは我らのマスターというところです」
一生懸命口角を上げたつもりだったが、引き攣っていたのは二人の顔を見ればわかった。
「ヘルハウンド……」
アスペンが固まってしまった。
その気持ちわかります……。
「ルーナさん、私たちミリア様に追いつけますか?」
ミーナとニーナの顔に不安が浮かんでいる。
私は小さく息を整えてから、
「追いつけるかじゃないんです。必死でついて行きましょう」
そう言うと、みんな黙って頷いた。
さっきまで怯えていた双子の目は、もう揺れていなかった。




