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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

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背中を追う覚悟

 サントバールに戻った俺たちはギルド本部に向かった。


 受付嬢はアウロラの悲惨な末路に涙を流し、解散の手続きをした。


 その後、アウロラメンバー四人の加入手続きを済ませて、報酬を受け取るとギルドホームに戻った。


「みんな集まってくれ、新しいギルドメンバーを紹介したい」


 声をかけると、メンバーが集まる。


「グロック、アスペン。それとミーナとニーナだ」


「グロックです、よろしくお願いします」


 グロックが頭を下げると、カシムたちが駆け寄って来た。


「カシムです、よろしくお願いします」


「キャッシュだ! よろしくな」


「リアです」


「ハマンと言います、これからよろしく」


 それぞれが自己紹介をはじめる。

 得意な分野の話や、今までの依頼のことで盛り上がり、打ち解けていった。


 俺はその姿を見ながら、胸の奥で何か重いものがのしかかるのを感じていた。

 みんなの声が遠くに感じる。そんな俺の腕を、ミリアがそっと掴んだ。


「このギルドはアタシたちのギルドだからね」


 その笑顔に少し救われた気がした。


「俺からもいいか?」


 ザックが声をかけた。珍しいな……。


「新入りも含め、全員の力を知りたい」


 なるほど、確かにこのままでは不安が残る。


「わかった、実地を兼ねて討伐依頼で訓練をする」


「はい!」


 まだ思うところはあるようだが、それでもみんな前に進もうとしているのがわかる。


「マスター、班分けを提案します」


 ルーナが前に出た。


「グロック、キャッシュ、リア。三名をアイザック班。ニーナとミーナ。カシム。そしてアスペン。この四名をルーナ班とするのはどうでしょうか?」


 双子が視線を交わす。その顔にはまだ怯えが残っていた。


「それは構わないが、俺たちは?」


「マスターたちが混ざると訓練になりませんので」


 ……そこまで考えてのことか。


「わかった、俺たちは別の依頼をこなすよ」


「それでは、班に分かれて依頼を受けにいきましょう」


 ルーナの号令で、それぞれが班に分かれギルド本部に向かった。


「俺たちも行くか」


 そう言うとミリアが笑顔で頷いた。


 今日は運良く、って言ったら怒られるか。

 討伐依頼が多かった。


 俺たちはウォルフ討伐の依頼を受けて、ギルド本部を後にした。


「ウォルフっていったらアレよね? 気を引き締めましょう」


 確かに、サントバールに向かう途中しんどい思いをしたからな……。

 完治はしたが、爪で抉られた肩の痛みを思い出しそうだ。


 まあ、今日はヒナがいるから平気だろう。

 そう思ってヒナを見ると、不思議そうな顔をして笑い返してきた。




 薄暗く、静かな森の中を歩く。

 風が吹くと木々が擦れる音だけが聞こえる。


 私たちルーナ班は、ウォルフ討伐の依頼を受けた。


 依頼書にはウォルフ七匹の群れとあった。訓練にはちょうどいい数だ。

 マスターたちも、別の場所でウォルフ討伐の依頼を受けたと聞いた。


「そろそろ、依頼書にあった場所です」


 慎重に歩くように視線を送ると、みんなそれに合わせた。


 木々の向こうで茂みが不規則に音を立てる。

 一、二……七匹、依頼書の通りだ。


「ルーナさん、七匹です」


「さすがです、アスペン」


 全員が身構えると、前方の茂みが勢いよく動き、三匹のウォルフが飛び出して来た。


 茶色の毛皮、素早い動き。


「ニーナ」


 声をかけるとニーナが詠唱をはじめる。


「ウインドカッター」


 迫ってくるウォルフの間を風の刃が通り抜ける。

 全身に切り傷を負い、怯んだウォルフにカシムが間髪入れず剣を振り下ろす。


 右側の茂みが音を立て、ニーナに向かってウォルフ二匹が飛びかかった。

 跳びかかってきたウォルフの首を、私は裂いた。頬に散る血の温度が伝わる。

 動かなくなったウォルフが地面に音を立てて落下する。


 今度は左側の茂みが音を立てる。

 まだ距離がある。


「ミーナ」


 声をかけたが、ミーナの顔は青くなり震えている。

 ウォルフの姿が見えるとミーナが後退りをした。


 下がろうとするミーナの背中に手を当てる。


「いつでもミリアさんが見てると思いなさい」


 ウォルフたちがどんどん近づいて来る。


 ミーナは唇を噛み、杖を握り直した。


「ミリア様……」


 ダメか……このままでは危ない。


 諦めて下がらせようとした、次の瞬間。

 炎が弾けた。


 ……小さい。

 いいえ、ミリアさんが規格外なのです。


 炎の玉を食らい、逃げようとするウォルフの脳天にアスペンの矢が刺さった。


 ウォルフの尻尾を切り落とし、鞄に入れてからギルド本部へ向かった。


「お、終わったのか?」


「マスター」


 マスターの笑顔には余裕があった。

 ……さすがですね。


「どうでしたか?」


「それが、ウォルフって聞いてたんだが……」


 マスターが少し困った顔をした。

 強敵の出現に苦労されたのかも知れない。


「行ってみたら狼しか出なかったのよ」


 ミリアさんが物足りない顔をしている。


「一応、尻尾は切ってきたけどね」


 マスターが鞄から一本取り出した。

 嫌な予感が背筋を走る。

 ――まさか。


「それ……ウォルフの尻尾ですよ?」


「え?」


 時が止まったように、空気が固まる。


「いや、ウォルフって言うと……」


「そうよ。サントバールに来る時に戦ったのは、何倍も大きかったわ」


「それに黒かったしな」


 え……? 黒い? 大きい?

 黒い!?


「マスター……それはヘルハウンドです……」


「ヘル……ハウンド?」


 ベテランの冒険者パーティーでも

 全滅を覚悟する強敵。

 しかも群れ。


 それを――二人で?


「マスター……」


「な、何かな?」


「いえ、さすがは我らのマスターというところです」


 一生懸命口角を上げたつもりだったが、引き攣っていたのは二人の顔を見ればわかった。


「ヘルハウンド……」


 アスペンが固まってしまった。

 その気持ちわかります……。


「ルーナさん、私たちミリア様に追いつけますか?」


 ミーナとニーナの顔に不安が浮かんでいる。


 私は小さく息を整えてから、

「追いつけるかじゃないんです。必死でついて行きましょう」


 そう言うと、みんな黙って頷いた。

 さっきまで怯えていた双子の目は、もう揺れていなかった。

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