守れるのか
「マックス、ちゃんと説明しなさいよ」
ミリアの質問に答えられない。答えれば、ミリアを苦しめてしまう。
「申し訳ございませんでした」
驚いて隣を見ると、俺を支えていたルーナが深々と頭を下げていた。
「ルーナ、どうしたんだ?」
「いえ、謝らせてください。私が矢の軌道を変えてしまったせいで、マスターに怪我を負わせてしまいました」
ルーナ……すまない。
間違ってはいない。
それでも、頭を下げさせているのは俺だ。
「謝るようなことじゃないだろ?」
「そうよ! ルーナが軌道を変えなければどうなっていたかわからないもの」
頭を下げるルーナに、慌てて顔を上げさせた。
「血がついてて悪いけど、これを着ていてくれ」
俺とザックはシャツを脱いで、裸のまま逃げて来た二人の女性に渡した。
尊厳を守る――もちろんその気持ちもあった。
それよりも、ひどく腫れた顔や痣や傷だらけの体を見るのが忍びなかった。
「馬車を取りに行ってくる」
そう言うと、ザックは馬で村へ向かった。
無事を喜ぶ村の女性たちとは対照的に、剣を握ったまま、膝から崩れ落ちるアウロラの冒険者。
傷だらけの女性たちがすすり泣く。
誰もその声を止められずにいた。
「アンタたち、泣いてても仕方ないわよ?」
ミリアの声が響いた。
いや、お前……この状況で。
間に入ろうとする俺を、ミリアの手が制した。
「このまま怖くなって逃げようとか思ってたんでしょ? あんなヤツらに負けていいの?」
ルーナもヒナもハラハラしているのがわかる。
俺だってハラハラしてる。
「いいから、もう一度立ち上がるのよ!」
ミリアがそう言い放つと、二人は悔しさと怒りを浮かべた顔を上げた。
「ほら、顔を上げられるじゃない」
二人の顔が固まる。
ミリアの声が震えている。
「ミリア?」
顔を覗き込むと、ミリアは大粒の涙を流していた。
「我慢、しなくていいから。今は思いっきり泣き叫んじゃいなさい」
そう言ってミリアが二人を抱きしめる。
二人は声を出して泣きはじめた。
「悔しかったわね……強くなりましょ」
泣きながら頷く二人。その光景を見ながら俺は悔しさに震えていた。
これはミリアの悔しさが流れ込んでいるのか、自分の感情なのか。
それはわからなかったけど、三人から目を離すことができなかった。
ザックが戻ってきたので、馬車に乗り込み攫われていた女性たちをそれぞれの村へ送り届けた。
泣き疲れた三人は眠ってしまい、道中誰も口を開かなかった。
「今日はゆっくり休んでくれ」
ログ・サントの宿屋でそれぞれ部屋を取って休むことにした。
「マックス! まだ寝てるの?」
ドアの向こうからミリアの声が響いてくる。
「なんだ? 早いな……」
「アウロラの三人が話したいって」
身支度をして、食堂に向かう。
朝食の匂いで空腹を思い出したが、待っていたアウロラの三人を見て腹の虫を抑える。
「話って、何だ?」
「いえ、まずはお礼を。昨日はありがとうございました」
頭を下げたまま、彼は続けた。
「私はアウロラ・プロドロモスのリーダー、グロックと言います」
アウロラ…プロドロモス? そんな名前だったのか。
「今回の戦いでギルドメンバーの大半を失い、ギルドは解散しようと考えています」
「やり直すって選択肢もあるのでは?」
グロックは軽いため息をついた。
「実は、冒険者をやめて里に帰ろうかと考えていました」
なるほど……まあ、あんなことがあったんだ。仕方ないかもしれない。
「でも、この二人がまだ負けたくないって」
「そうか……」
二人を見ると、治療を受けたおかげで怪我は大分良くなっていた。
しかし、この二人、こうして見ると……。
「二人は、そっくりだね」
「はい、私たちは双子なんです」
「私はミーナ、こちらは姉のニーナです」
おお、声まで似てるな。
「私たちはあなた方に命を助けられ、ミリア様に心を救われました」
ミリア……様?
「私たちは、ミリア様のようなメイジになりたいと思っています」
「二人ともメイジ適性があるのか?」
「はい、ミリア様のように属性問わずというわけではありませんが」
ミーナが炎、ニーナが風の適性を持っているらしい……。
というか、バアさんとミリアしか知らなかったから、属性別に適性があるって初めて知った。
「そこで……なんですが」
グロックが言いにくそうにしている。
「何だ? 気にせず言ってみろよ」
「私たちをリライアンスに入れてもらえないでしょうか?」
まあ、それしかないかもな……。
「えっと、二人はわかったけど、グロックは何で?」
「ニーナたちが頑張ろうとしている。俺はこの二人を支えていきたい」
その目には決意を感じた。
「じゃあ、三人加入ってことかな?」
「いえ、あと一人。そろそろ戻って来ます」
しばらくすると、食堂の入り口から大きな弓を担いだスカウトが入ってきた。
「アスペン、こっちだ」
グロックの声に、アスペンと呼ばれた男がこちらに向かってくる。
「こいつはスナイパーのアスペンです」
「スナイパー? スカウトの上級職じゃないか」
「ええ、腕は確かですよ」
しかし、洞穴にはいなかったな?
「私たちが助けられたときは、アスペンは足を切られて宿屋にいたんです」
「なるほど、しかし洞穴には五人分しか遺体が無かったが?」
「ええ、一人は洞穴に着く前に殺されてしまいました」
重い空気が流れる。
沈黙の後、アスペンが口を開いた。
「みんなは……いいのか?」
「アスペン……」
アスペンの顔を不安そうに見る三人。
「みんな殺されて、ニーナもミーナも酷い目に遭ったんだろ? また同じ目に遭うかもしれないだろ?」
グロックが拳を握っている。
しかし、双子の目はまっすぐアスペンを見ていた。
「そうか、もう決めてたんだな……」
アスペンが俺の方に振り向いた。
「ギルドに……入れてもらえるか?」
「ああ、そこは問題ないよ」
四人の顔が明るくなる。
また、背負うものが増える。
守り切ると決めたのはミリアだけなのに。
「五人の遺体、回収できなくて悪かった」
その言葉に双子が目を伏せる。
震える肩。
「いえ、そんなこと気になさらないでください」
俺は四人の顔を見回した。
もう一度上げたその目は、揺れていなかった。
この決意を、俺は守れるのだろうか。




