ログ・サント
俺たちは金貨百五十枚という目玉が飛び出るほどの莫大な旅資金を貯めるため、手分けして依頼を受けることにした。
カシム達は薬草採集を中心に、依頼をこなしてくれている。本当にありがたい。
「マックス! 討伐依頼があったわよ!」
ミリアが持ってきたのは西の盗賊「砂ネズミ一味」の討伐依頼だった。
「盗賊か……」
嫌なことをミリアに思い出させるのが心配で、少し躊躇う俺に、ミリアはこう言った。
「誰かが苦しんでるのを放ってはおけないわ!」
そうか、お前がそう言うなら……。
「よし、やろう」
「報酬は金貨二十枚よ! 破格ね!」
破格な分、相応に危険度が高いんだが、わかってるのか?
俺の心配をよそに、ミリアは受付に依頼表を持っていった。
砂ネズミ一味はサントバールの西、ログ・サントという町の北に寝床を構えている。
ログ・サントを出入りする商人や付近の村を襲っているそうだ。
「馬車の旅になるな……野営の準備もしておこう」
「エルフの里への旅に備えて、馬車を購入しておきましょう」
ルーナの助言で、馬車を買うことにした。
「御者の経験がある者はいるか?」
「馬車なら私が引けます」
「俺も引けるぞ?」
ルーナとザックは馬車を引けるようだ。
「そうだな……」
俺たちはこの旅を利用して、ルーナとザックから馬車の扱い方を習うことにした。
エギルの知り合いからホロ付き馬車と馬二頭を格安で譲ってもらい、荷物を載せて出発した。
俺たちはルーナの隣で手綱を握り、馬車の扱い方を交代で習った。
「ログ・サントってどんな町?」
「林業が盛んで活気のある町ですよ」
ミリアの質問にヒナが答える。
「へぇー、活気あるんだって!」
ミリアも遠出が少し楽しいみたいだ。
「依頼で行くんだ、気を引き締めておけよ?」
「わかってるわ、抜かりは一切ないもの」
本当か? まあ、道中くらいは楽しんでもいいか。
馬車の軋む音と蹄の響きが、街道に心地よく続いていた。
辺りが暗くなってきたので、条件の良さそうな場所を見つけて野営をはじめた。
角肉の塩漬けと、小麦焼きをちぎって入れた簡素なスープを食べてから交代で見張ることにした。
「おう、交代だ。寝ろよ?」
「ああ、悪いな……」
ザックが交代に来たので、ホロの中で寝るために立ち上がる。
「マックス、ミリアから目を離すなよ」
「……わかってる」
ザックの言いたいことはわかっている。
今回の依頼が盗賊討伐ってところも、ミリアが暴走する危険を孕んでいる。
俺は寝息を立てるミリアの目の下を指でなぞった。
今回は、泣かなくていいようにと願いながら。
空が白みはじめる頃、馬車は街道を走っていた。
日が高くなる頃には、ログ・サントに着いた。
「なによ? 活気のある町じゃなかったの?」
ミリアの言葉どおり、町は不気味に静かで、行き交う人々の顔にも活気がなかった。
「盗賊討伐の依頼を受けたんだが?」
「ああ、あんたらもかい? 町長の家ならこの奥の道をまっすぐ行って、突き当たりにある屋敷だよ」
他にも受けに来た冒険者がいるのか……。
町長の家に着き、門番に用件を伝えると中に通された。
「ああ、君たちが新しい冒険者だね。私は町長のバルカスだ」
「リライアンスのマックスだ」
俺が挨拶をすると、バルカスは溜息をついた。
「いや、悪いね。実は君たちの前に来た、アウロラ……だったかな。そんな名前のギルドが帰ってこなくてね」
「やられたのか?」
「わからないが、絶望的だね」
バルカスは溜息をつくと、下を向いた。
「街道で商人は襲われ、近くの村は酷い目にあっている……」
「ああ、聞いている」
顔を上げたバルカスの目には苦労が滲んでいた。
「危険な相手だ、君たちに頼っていいんだろうか?」
「しっかり報酬を払ってくれれば問題ないさ」
俺がそう言うと、バルカスは盗賊の寝床を書き記した地図をくれた。
町を出て街道を北へ、馬車を走らせる。
しばらくすると、遠くに煙が上がっているのが見えた。
「マックス! あそこに村があるわよ」
俺の肩を掴むミリアの手に、強い力がこもる。
——嫌な予感を振り払うように、俺たちは村へと馬車を走らせた。




