死なない覚悟
カシムに聞いたんだけど、アイザックの兄貴たちはエルフの里に行くための大金を貯めているらしい。
兄貴の役に立てるなら、オイラは頑張りたいと思う。
「キャッシュ、用意できたか?」
「いつでも行けるよ」
カシムが呼んでいる。行かなきゃ。
オイラたちカシム班は、採集任務を中心に依頼を受けている。
メンバーはカシム、リア、ハマン。それとオイラ。
「今日は勝手に魔物に攻撃しちゃダメよ? いつも勝手に突っ込むんだから……」
「うぅ……わかってるよ」
リアはうるさく言うけど、オイラは早くアイザックの兄貴みたいに強くなりたいんだ。
今日は薬草採集で、廃村近くの森に行く。
前にマスター達がゴブリン討伐をした廃村だから、ゴブリンに気をつけろって言われた。
「ゴブリンなんか、オイラがぶっ飛ばしてやるよ」
剣を握る手に力を入れて、歩きはじめた。
「キャッシュ、頼むよ」
カシムはオイラのことよくわかっている。
森に着くと、ハマンが採集をはじめた。
ハマンは本当にすごい奴だ。
植物の生えかたから薬草のある場所を見抜いて、どんどん進んでいく。
「こっちですよ」
ハマンの声でみんなが進み始める。
——その時は、まだ気づいていなかったんだ。
薬草を見つけると、ハマンがオイラのカバンに詰めていく。
どんどん見つかるので、なんだか楽しくなった。
カバンがいっぱいになる頃、日が落ちかけて辺りが少し暗くなっていた。
「そろそろ戻ろう」
カシムの言葉にみんなが頷いて引き返しはじめると、急にハマンが足を止めた。
「すみません、囲まれてしまいました」
「魔物か?」
カシムが聞くとハマンが頷いた。
オイラは剣を鞘から抜いた。手に力が入る。
「ゴブリンのようです」
ゴブリンはずる賢いやつらだから、静かに近づくことがあるって兄貴が言ってたな……。
茂みが音を立てる。
耳を澄ませて、居場所を探す。
「ギギッ……」
近くの茂みからゴブリンの声が聞こえた、切りつけてやろうと思ったけど、リアの言葉を思い出した。
「そうだ、キャッシュ少し待つんだ」
カシムが盾を構えて少し前に出る。
一歩、二歩。三歩踏み出した時、茂みからゴブリンが飛び出してくる。
カシムが盾でゴブリンを押さえ、切りつけた。
その時、隠れていたゴブリンがカシムの腕を掴もうとする。
「うぉぉぉ!」
オイラは雄叫びを上げながらゴブリンを切りつけた。
「ありがとう、キャッシュ。助かったよ」
安心して深く息を吐いたその時、前から三匹のゴブリンが突っ込んできた。
頭が真っ白になって、剣を振り回すけどうまく切りつけられない。
オイラを囲みはじめたゴブリンの一匹を、カシムが切りつけた。
怯んだもう一匹をオイラが切りつける。最後の一匹に振り向くと、石の斧を高く振り上げてオイラを殴ろうとしていた。
もうダメだと思ったその時――ハマンの弓がゴブリンの肩を射抜いていた。
衝撃で後ろに下がったゴブリンを、力一杯切りつけた。
そのまま、地面に崩れていく。
「ハハ……やったな!」
カシムがオイラを讃えてくれた。
勝ったと思って振り返ると、ハマンとリアが真っ青な顔をしていた。
嫌な予感がして振り向くと、そこにはさっきのゴブリンより倍近く大きな、別物みたいなゴブリンが立っていた。
振り上げたゴブリンの拳を、カシムが盾で受け止めるが盾ごと吹き飛ばされた。
続いて振り下ろされた拳を避けようとしたけど間に合わず、肩にあたり吹き飛ばされる。
弓を構えるハマンに向かってゴブリンが突っ込んでいく。
「やめろ!」
カシムの声が響く。
突然、ゴブリンの体が宙に浮いたように見えた。
倒れ込むゴブリンの顔が潰れて、死んでいるのがわかる。
「はっ! ホブゴブリンじゃねえか。こいつは苦戦するかもな」
聞き慣れた声に、涙が出そうになる。
「兄貴!」
「おう、お前ももっと訓練してやらないとだな?」
ハマンの隣で、アイザックの兄貴が笑っていた。
リアに回復してもらっている途中、リアは泣きながらオイラに言った。
「無理しちゃダメよ? もう誰も死んでほしくない」
オイラは、何も言えなかった。
だからせめて、もっと強くならないと……そう思った。




