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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第一章 ギルド結成と初陣

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届かない呻き

 次の村までの山道を、アイツの背中を追いかけて歩く。


「アンタ、もう少し早く歩けない?」


「ん? 遅かったか?」


「そうね、このままじゃ夜までに間に合わなくなるわ」


 次の村までの我慢だ。少しスピードを上げて歩こう。


 しかし道が悪い。

 石がゴロゴロ転がってるし、草も多くて歩きにくいな。体力を持っていかれる。


 そのせいか、さっきから上手く息を整えることができない。かなり体も重い。


「ミリアは大丈夫か? 道も悪いし」


「は? アンタ何言ってんのよ、これくらいの道……」


 そう言いかけたミリアが近づいてくる。


「やっぱり、限界なんじゃない?」


「大丈夫だ、まだ行けるさ」


「でも、顔色悪いわよ?」


 まあ、いつもとは違う気がするが。こんな所で立ち止まってもいられない。


「わかった、肩を貸してくれるか?」


「し、仕方ないわね。あんまり体重かけるんじゃないわよ?」


「ああ、悪いな」


 ミリアの肩に手を回して、また少しずつ足を進めていった。


 その細く柔らかい温かさが、痛みに苦しんでいた俺の意識を強引に引き戻す。

 ……っ。ちょっとは怪我人らしく大人しくしててくれよ。

 俺は生理的な高揚を抑えるべく、わざと深く呼吸を繰り返した。


「何だか、昔に戻ったみたい」


「昔? ああ……」


 昔からお転婆だったミリアに、疲れた時は肩を貸してもらったりしたな。


「アンタ、体だけはデカくなったから」


「ほっとけ」


 ふふっと笑って、こちらを見る。


「お前は、昔から……」


「何よ?」


 こいつは昔から、俺を引っ張ってくれた。凛とした表情で。


 そういう時のコイツは本当に……。


「マックス! 見て!」


「何だ?」


 顔を上げると、離れたところに村が見えた。


「また助けちゃったわね!」


「はは……引っ張ってきたのもお前だけどな」


「うるさいわね」


 二人で顔を見合わせて笑った。


 顔を上げるのは辛かったが、道の歩きやすさが村へ近づいていることを知らせていた。


「何よ、小さな村ね。休むところとか、あるのかしら?」


 まったく、失礼なやつだ。せめて俺のことを心配して言っているのだと信じたい。


「あ、門番がいるわ。休むところがあるのか聞いてみるわね」


「ああ、頼む」


 さっきからまた頭がボーッとして考えられなくなってきた。


「ちょっと! そこの門番。宿屋とか何でもいいわ、休めるところあるかしら?」


 門番さん、だろ。丁寧に聞けよ。教えてもらうんだから。


「何よ、何か答えてくれてもいいでしょ?」


 お前が失礼だから、答えたくないんじゃないのか?


「いや、嬢ちゃん……」


「何よ?」


「その男、早く医者に見せないとヤバくないか?」


 ああ、それでか……。


「何言ってんのよ? 少し怪我してるだけよ? 休むところ教えてほしいんだけど?」


「顔色も酷いし……」


「え? でもさっき狼と戦った時はあんなに元気だったし、怪我だって肩をちょっと掠めただけよ?」


 声から焦りを感じる、だが、信頼の代償(リライアンス)の事はまだ気付かれない方がいい。


「いや、ただの寝不足なんだ。心配いらないさ」


 俺は顔を上げると膝に力を入れ、無理矢理口角を上げてみせる。


 すがるような目でこちらを見ていたミリアが、胸を撫で下ろす。


「ほ、ほら!コイツは丈夫なのよ? 死ぬわけないじゃない!」


「そ、そうか?まあ休むところはこの道の突き当たりが宿屋だから」


「そうかい、ありがとよ」


 悪いな門番の旦那、こいつの前じゃ無敵の盾でいてやりたいんだ。


 宿屋に入るとミリアが部屋をとってくれた。


 室内を歩くと床が鳴り、ベッドは埃っぽかったが、腰を下ろすと少し落ち着いた。


「薬草買ってきたわよ」


「おお、悪いな……」


 薬草を受け取ろうと手を伸ばす。


「何よ? 早く脱ぎなさいよ」


「いいよ、一人でやる」


「はぁ? アンタ、背中に手が届かないでしょ?」


 水桶を持って近づいてくるミリアに手で止まるように合図した。


「いいから!」


 つい声が大きくなり、ミリアの体が小さく跳ねる。水桶の水が音を立てた。


「あー、悪い。お前だって疲れてるだろ?」


「……でも」


「お前の魔法がないと困るんだから、早く寝てくれよ」


「でも、本当に大丈夫なの?」


 真っ直ぐな瞳で俺を見るミリアに背中を向けて視線を遮る。


「わかったわよ……」


 背後で聞こえる衣擦れの音が寝息に変わるのを待って、俺は鎧を外した。


 溜まっていた赤黒い血がドロリと床に溢れる。


 肉はえぐれ、骨まで届きそうな傷になっていた。鉄錆の臭いが部屋に充満するようだ。

見せられるわけないだろ? こんなもん。


 本来この攻撃が、ミリアの体に傷をつけたと考えるとゾッとした。


「ぐっ……ふぅぅ……っ」


 口に布を噛み締め、俺は激痛を飲み込みながら手当をはじめた。


 眠っているミリアに、その呻き声が届かないことだけを願いながら。

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