天才の条件
エルフの美しい女性に抱きつかれて、迷惑そうなエギルを見て言葉を失う。
「マスター! 違います! これは違うんです!」
珍しく慌てるエギルが何かを否定しているが、この状況で否定されても……。
「マスター、私の話を聞いてください」
「あ、ああ……その前に、その」
俺の視線で察したのか、エギルはエルフの女性を引き離しながら言った。
「ソフィア、離れなさい」
「何で? いいじゃない、エギル」
ソフィアと呼ばれた女性が抵抗するが、エギルが隣に座らせた。
ソフィアを引き離したエギルは、咳払いをして場を整えようとした。
「マスター、紹介します。魔法道具師のソフィアです」
「違うでしょ? 天才魔法道具師のソフィア、私の妻です。でしょ?」
妻? エギルは結婚していたのか?
「天才はともかく、あなたは私の妻ではありません」
「冷たいこと言わなくてもいいじゃない、じゃあ結婚しよう?」
「あなたと結婚する気はありません!」
「あー、話が進まないから、結婚の話は今度してもらえますか?」
この人にミリアを任せて、本当に大丈夫か?
「申し訳ございません」
エギルが深々と頭を下げた。
ミリアを呼んで、ソフィアさんに会わせた。
「まぁ! メイガスによく似てるわ」
ソフィアさんは驚いて、ミリアの手を取った。
「あら? ミュラーの魔法道具ね。取ってほしいっていうのはこれかしら?」
さすがにすぐ気づいたな……。
俺が頷くと、ソフィアさんはしばらく指輪を見つめていた。
「いいでしょう、でも条件があるわ」
条件?
「条件というのは?」
聞き返すとソフィアさんはニッコリ笑って、
「成功したら、私もこのギルドに入れてください」
と言った。いや、どういうこと?
「それは、条件になるのかな?」
「魔法道具師って、仕事がある時と無い時の差が激しいんですよ。だから仕事はギルドとして受けて、給金をいただく方が助かるから」
なるほど……しかし、気になるのは。
「高名な魔法道具師なら、選ぶほど仕事はありそうだけどな?」
「ええ、仕事自体は多いんですが……私のように古参だと依頼料が高くなってしまって……」
金持ちしか受けられないから仕事量が減る……?
「じゃあ安くすれば?」
「それはプライドが許さないでしょ?」
わかりやすいな……。
「アナタ、なかなかいいわね。気に入ったわ!」
「まぁ! メイガスの血筋に褒められるなんて光栄です!」
ソフィアさんの目の輝きを見て、本気だとわかる。
「ソフィアさんも、バァ……ミュラーに会ったことがあるんですか?」
「もちろん! 私に魔法道具の作り方を教えてくれたのはメイガスですもの!」
あのバアさん……本当にすごいんだな……。
俺たちが感心している横で、エギルが固まっていた。
「ソフィア……あなたも、リライアンスに加わると?」
「あら? ダメなの? エギル」
エギルは少し考え、諦めるような溜息を漏らした。いつもごめんね。
「わかりました、成功したらリライアンスに加わればいいでしょう。アナタのような魔法道具師が所属することはリライアンスに良い風をもたらすでしょうし」
「まぁ! じゃあエギル、けっ……」
言いかけたソフィアさんの口を塞いで、エギルが力を込めて言った。
「それは別の話です」
ソフィアさんは口を塞がれたまま、残念そうな顔で「はい」と答えた。
まだ家具の揃っていない食堂に、ギルドメンバーが徐々に集まり話を聞いている。
「指輪はすぐに外せますか?」
「うーん、すぐには難しいわ」
日にちがかかるのか?
「何日か必要だということですか? それとも何か道具が必要とか?」
「どちらでもないの。ミュラーがかけた魔法は特別で、ある場所に行かないとダメなの」
もう魔法の解き方を解析しているのか……さすがだな。
「ある場所……とは?」
「エルフの里よ」
その言葉に、エギルの顔がわずかに引き攣った。
「それは本当ですか?」
エギルの質問に、ソフィアさんが頷く。
「エルフの里ってどこにあるんですか?」
「東のナイカリキン王国を抜けると、フォールン大森林が広がります。エルフの里はその森のどこかにあると伝えられています」
話を聞いていたルーナが口を挟むと、ソフィアさんはうんうんと頷いた。
「あなた、よく勉強されてるわね。フォールン大森林こそが、エルフの棲家よ」
「しかし遠いな、どれくらいの時間がかかる?」
「馬車を出して三月ほどでしょうか? 大森林には馬車で入れると思えませんので」
なるほど、かなり遠いし金がかかるな。
「メンバーは俺とミリア、ソフィアさん」
「フォールン大森林やナイカリキンでの戦いに備えて、アイザックさんと私。回復役のヒナさんですね」
ルーナの言葉に頷く。
「マスター、私も連れて行ってください。旅の資金を管理する必要が出るでしょうから」
「頼むぞ、エギル。資金はいくら必要になる?」
「金貨……百五十枚です」
「は?」
ミリアが思わず聞き返す。他のみんなも固まっている。
金貨百五十枚!?そんな大金……。
「そんなに必要なのか?」
「食事や宿泊。関税や通行料、馬車も用意しないといけませんし」
なるほど……。
「その間の給金も必要ですからね」
ゴブリン退治が金貨五枚、単純計算で三十回か。
「明日から手分けして依頼をこなしていこう」
俺の言葉に全員が頷いた。




