象徴と脅威
「私はマックスの配下じゃないわよ?」
不機嫌そうな顔のミリアを見て、エギルが慌ててみせた。
「ミリアさんは配下ではありません。むしろ――」
ミリアの顔が落ち着きを取り戻すのがわかり、俺は少し安心した。
「ええ。あなたとアイザックさんは、このギルドの象徴になる存在ですから」
「象徴?」
さっきとは打って変わって、ミリアがワクワクしているのがわかる。うまいな。
「それにあなたは給金がほしいとも思ってないでしょ?」
「それは、そうね。マックスが管理するもの」
確かに、こいつは金を渡しても困った顔するもんな。
「欲しいものはマックスさん……いえ、マスターに買ってもらってください」
そう言ってニッコリ笑うエギルにミリアもつられて笑っている。
「象徴というのは?」
そう聞くと、エギルはわざとらしく咳払いをしてみせた。
「ミリアさんの火力は、すでにこの街で噂になるほどです」
まあ、派手にやってるからな……。
「リライアンスの兵器と言ってもいい」
その言葉に、胸の奥が一瞬だけざわついた。
――人を道具として見る、その響きに。
兵器という言葉に引っかかった俺の表情を読んだのか、慌てて訂正する。
「失礼しました。言葉が悪かったですね」
「ああ、気をつけてくれ」
エギルは深く頭を下げてから続けた。
「つまり、ミリアさん無しでもこのギルドは成り立たないのです」
「象徴がメイジじゃあ、格好つかねえな?」
ザックが口を挟んだ。
「アイザックさん、あなたの戦闘能力も同じことが言えます」
「へっ」
ザックが皮肉っぽく笑う。
「お二人には、このギルドの象徴としてマスターを支えていただきたい」
「言われなくてもわかってるわ」
ミリアの言葉に、エギルは満足そうに頷いた。
「しかし、その魔力で初歩魔法しか使えないというのはどういう……」
エギルが言いかけると、ザックがミリアの手を取ってエギルに見せる。
「お前、これが何かわかるな?」
「これは……」
ミリアの指輪を見たエギルの顔が輝く。
「ミリアさんはメイガスの血筋、ということでしょうか?」
「ミュラーはおばあちゃんよ」
ミリアの言葉に何かを納得した様子のエギルがミリアを見回す。
「どおりで、美しいわけだ……」
「は? な、何言ってんのよ!」
声が上擦ってるぞ……。
「いえ、失礼。ミュラーは美しい女性でしたから」
「アンタ、おばあちゃん知ってるの?」
「はい」
エギルは懐かしそうに、少し寂しそうな表情で微笑んだ。
「いや、バアさんのことはどうでもいいんだよ。今は指輪だ」
ザックが割って入る。
「何よ! どうでもいいって!」
「うるせぇ、ちょっと静かにしてろ」
ミリアは不満気だが、指輪のことが気になるのか静かになった。
「この指輪の意味わかるよな?」
「はい、ミュラーの制御魔法ですね」
やっぱりエギルにはわかるのか。
ミュラーは昔、俺とザックに指輪の意味を伝えた。
ミリアの魔力は人を狂わせる可能性がある、だから制御が必要なのだと。
「お前、この指輪外せるか?」
ザックの質問にエギルは少し考えてから、
「心当たりはあります」
そう答えて、遠い目をした。
「外す必要があるのか?」
そう言うとザックは溜息をついた。
「守りたい気持ちはわかるけどよ、その方法を見失っちゃいけねえ」
方法を見失う?
「このままの状態で、こいつの言う組織ってもんを作ったらどうなる?」
「ミリアが狙われるだろうな……」
火力が高いメイジなんて、さっさと殺すべきだと敵なら考えるだろう……。
「こいつには脅威と権威が足りてねぇ」
権威ね……ミリアには似合わないが。
「もう一段上に行くべきだ」
「なるほど。ウィザードになるべき、ということですね」
そう言ってエギルは静かに頷いた。
確かに、今はただの強いメイジだ。
だが、ウィザードなら話は別だ
「でも、上級魔法なんて使えないわよ?」
確かに、今のまま上級魔法なんて使われたら……俺は死ぬかもしれない。
「だから、制御を解くのか」
「それしかねぇな」
確かにウィザードとなれば、そうやすやすと手を出せる相手じゃなくなる。そういうことか。
俺は、少し心を整理するために深く呼吸をした。
「外せるのか?」
「はい、心当たりはあります……が」
が? 何か含みがあるな……。
「それをできる知人というのが」
エギルは珍しく言葉を止め、深く溜息をついた。
「その……あまり会いたくない相手でして」
このエギルが会いたくない?
どんなやつなんだ?




