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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

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組織論

「報酬はマックス様、お一人のものにされるとよろしいかと」


「は?」


 いや、この人何言っちゃってんの?


「そんなことしたら、みんな困るだろ?」


「おや、みんなが怒るとは仰らないんですね」


 変なとこに食いついてくるな……。


「そりゃ、怒るだろうけどさ。でもやっぱり、困らせるようなことはしたくない」


 エギルはコクコクと頷いている。

 何だか満足そうだが……。


「それに……」


「それに?」


 何だこの人、俺に興味津々か?


「俺は正直、そんなに金をもらっても使い道がないぞ?」


 一瞬、エギルは言葉を失ったように目を見開き、それから堪えきれないというように、目を輝かせた。


「素晴らしい!」


「……はい?」


 理解が及ばない俺を置いていくようにエギルは続けた。


「あなたこそ、私が求めていた人です」


 え、話が見えない……。


「是非、リライアンスの経理をやらせていただきたい」


「いや、ちょっと待って。話が見えないんだけど」


「おお、大変失礼いたしました」


 エギルは軽く呼吸を整えると続けた。


「改築業者を紹介するにあたって、ギルドの方針をルーナさんに少し伺いました」


 ああ、まあ広さとかね。相談したのかな?


「そしてあなたのことも」


 信頼の代償(リライアンス)のことも話したのか?


「どんなことを?」


「いえ、あなたのお人柄とか覚悟の話です」


 なるほど……。


「情報を総合して考えた結果――その役目を任せられるのは、あなたしかいない。そう思いました」


「えっと……何が?」


「新しいギルド体制の構築です」


 何だか難しい話になったな……。


「新しいギルド体制の構築?」


「そうです、今の弱いギルドではこの国はいずれ壊滅するでしょう」


 急にスケールが大きくなったな……。


「か、壊滅?」


「いえ、その話はいずれでいいのです。今は新しいギルド体制についてですね」


 壊滅が気になって仕方ないんだが?


「小規模ギルドは、仲間の集まりですね?」


「ああ、まあそうだな」


「報酬は山分けするのが当然です」


 ん?何が言いたいんだ?


「中規模ギルドや大規模ギルドはどうなってるかご存知ですか?」


「いや、田舎者なんで疎いんだ」


 エギルは少し申し訳なさそうな顔をした。


「中規模や大規模ギルドも、クエストごとに山分けしているのです」


「じゃあ山分けでいい……」


 言いかけた言葉を途中で止めるように、エギルが続けた。


「ただし、報酬の一部を上層部に払うんです」


「え?」


「上層部は集めた報酬の一部を山分けします」


「クエスト受けてないのに?」


「受けてないのにです」


 しかし、それでは……。


「不公平ですが、メリットがあるのです」


「メリット?」


「まず、ギルドの名前で受けられるので依頼がきやすい」


 ああ、それはわかるな。


「ギルドの格によって報酬が高くなる」


 へえ、それは知らなかった。


「難しい依頼には、ギルド内で助っ人を頼める」


「だから大きなギルドに所属するのか、金を払ってでも」


 エギルはニッコリ笑った。


「しかし、この関係は利害関係でしかありません」


 まあ、そうだろう。


「例えばギルドの上層部が、すごく強い敵と戦うと考えてください」


 すごく強い敵?


「それは魔物とかでいいのか?」


「はい、自分が戦えば確実に殺される相手です」


 ふむ……。


「そんな時、上層部を助けに行きますか?」


「行くしかないだろう?」


 答えるとエギルは額を手で押さえて、残念そうな顔をした。


「質問を変えます。そのギルドのメンバーは、上層部を助けに行くと思いますか?」


「……行かないだろうな」


 今度は満足そうな顔で頷いた。


「ギルドは大きくなればなるほど、仲間とは程遠くなるのです」


「なら、報酬の一部をもらわなければいいんじゃないか?」


「あなたらしい答えですが、その関係には限界があります」


 限界?


「一緒にクエストを受けるパーティーごとに、リーダーが現れます。そして、ギルドマスターよりそのリーダーを慕う層が出てくるのです」


「それは、それでいいんじゃないか?」


「そうですね、普段なら」


 普段なら? どういうことだ?


「例えば、大規模な掃討作戦」


「あ、そういうことか」


 エギルが嬉しそうに頷く。


「折角の大規模ギルドが小規模ギルドの集まりになってしまう……」


「そうです、大規模になると統率する力が必要になります。だから上層部が存在するのです」


 ふむ、大規模ギルドの仕組みは理解できたが……。


 エギルは一拍置いてから、静かに言った。


「しかし、今の大規模ギルドは上層部が私腹を肥やしてるだけになってしまった」


「そう……なのか?」


「はい、大規模な戦闘では弱いでしょうね」


 いや、だったら俺が独り占めしたら、余計ダメなんじゃ?


「リライアンスは仲間を作るのではなく、配下を揃えるべきです」


「配下?」


「そうです、あなたのために戦える配下です」


「待て、俺は仲間を自分のために戦わせようなんて思わないぞ?」


 深く呼吸をしたエギルが、興奮気味だった口調を抑えて話しはじめる。


「仲間と思っていただいて結構です。あなたなら仲間を大切にするでしょう」


「言ってることが見えないな」


「気持ちの問題を話してるのではないのです。組織という仕組みを作る必要があると申し上げています」


 組織……どう違うんだ?


「それはどう違うんだ?」


「しっかりとした組織は、大規模作戦でも鉄の結束を見せます」


 しかし、肝心なことが。


「俺以外のメンバーはどうやって生きていくんだ? ご飯は俺が金を出すとしても、納得しないだろ?」


「給金を支払うのです」


 給金? ギルド職員みたいに?


「毎月一定額のお金を渡すのです。働きによって上げてもよし、その逆もありです」


「山分けの方がたくさんもらえるだろ?」


「そんなことありません。時間がかかる依頼を受けたら、お金が手に入るまで困ります。大勢で受けたら、一人当たりは少なくなります」


 まあ、そうだな。


「毎月一定額もらえるなら、喜ぶ人の方が多いはずです」


「給金に安心して、働かない奴は下げればいいのか……」


 エギルが頷く。


「そしてこの仕組みに必要なのが、あなたなんです。私腹を肥やしたりしないだろうと信頼されるマスター。こんな人材はなかなかいません」


 なるほど……。


「つまり、報酬は俺が受け取るわけではなく。

ギルドが受け取った報酬を分配したり――

ギルド資金として使用する権限を俺が持つって言うことか」


「素晴らしい、ご名答です」


 しかしな、そんな責任重大なこと……。


「ご安心を、お金の管理は私の仕事ですから」


「エギルにはどんなメリットがあるんだ? 給金が必要だという風には見えないんだが」


「給金はもちろんいただきますよ。しかしそれ以上にあなたに仕えてみたい。あなたが作る組織を見たいのです」


 また、過大評価されたものだ……。


「ルーナにもそんなこと言われたな」


「はい、彼女はとても賢い」


 嬉しそうなエギルの顔を見ながら、覚悟を決めるために息を吐いた。


「わかった、頼りにしている」


「ありがとうございます」


 そう、これもミリアを守るため。


 しかし、都合よく目をつけられたものだ。


 あの日、信頼の代償(リライアンス)というユニークスキルを持っていることがわかった時に感じた感覚。


 まるで、これは()()()()()()()()のような。


 そんな気分になった。


「では、さっそく……」


 エギルが何か言いかけたその時だった。


「私はマックスの配下じゃないわよ?」


 俺の後ろでミリアが不機嫌なオーラを出しはじめていた。

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