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傷を負うのは俺だけでいい――お前の我儘に付き合ってやるよ  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 戻れない道

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拠点

「それと……」


 台帳をめくる受付嬢の手が止まった。


「カスナッツ捕縛分の報酬をお支払いします」


 ああ、それね。正直、少しビビった……。


 受付嬢は奥に入ると、金貨の入った袋を持って戻ってきた。


「カスナッツ捕縛分、金貨百枚です」


「え……?」


 金貨百枚?村を救った報酬より多いの?


「驚かれるのも無理はありませんが、カスナッツの余罪を暴くと恐ろしいことがわかりました」


 受付嬢の声から怒りが伝わってきて、思わず唾を飲み込んだ。


「カスナッツは新人冒険者を見つけては、一味に誘い依頼に連れて行くフリをしていました」


「行くフリ?」


「はい、カスナッツは魔物が多い場所に行くとわざと新人を置き去りにしていたそうです」


 そんな、いったい何のため……。


「新人が殺されたところを見計らって、持っていた金品や装備を奪っていたようです」


「いや、うまく逃げられたらどうするの?」


「カスナッツは置き去りにした現場に戻ってきましたよね?」


 背筋が凍るようだった。戻ってきたカスナッツはまだ生きている新人冒険者を殺していたのだ。


「もう既に、二十人以上殺されたと見ています」


 二十人……カスナッツにとって新人冒険者は、生活のために狩る魔物と同じ存在だったということか。


「放っておけば、被害者は増えていたでしょう」


「ギルド本部は気づかなかったのか?」


「申し訳ございません」


 そうか、カスナッツは……。


「ヒナは、カスナッツ一味に正式な加入手続きをしていない。そういうことですか?」


「おっしゃる通りです。加入記録がなければ、死んでも『ギルドメンバーの死亡』としての記録は残りませんから」


 本当に汚いやつだ。


「それで、カスナッツは?」


「十日間の拷問を受けた後、死刑が決まっています」


 そうか、それで誰が浮かばれるって話ではないけど。少しホッとした。


 報酬を受け取ったのはいいが、宿屋に持ち帰るには大金すぎるな。


 だから、ギルドホームが必要なのか……。


「金貨山分けしないの?」


 ミリアがそう言うと、カシムたちは思わず顔を見合わせ、「ひいっ」と声を上げた。


「山分けはまずいですよ……貢献度に差がありすぎます」


 耳打ちしてきたカシムの声は、どこか怯えていた。


 じゃあどうやって分ければ……。


「まずはギルド資金としましょう」


 急に現れたルーナが間に入る。


「マスター、ギルドホームの候補を見つけました」


「本当か? 早いな」


「さっそく見に行かれますか?」


 資金を保管する場所としても申し分ないな。


「ああ、そうしよう」


 ルーナに案内された場所は、もともと要塞の食糧倉庫として使われていた場所だった。

 破格の賃料だというので、見に来たがなかなか悪くない場所だ。


「賃料は月に金貨五枚だそうです」


「安すぎないか?」


「まあ、今は誰も使ってないそうですので」


 門を開けると、暗闇に埃が舞い、差し込んだ光に照らされてきらめいた。


 一歩入ると、埃の臭いが鼻をついた。

 長い間、誰も使っていなかったのがすぐにわかる。


「まずは掃除からだな」


 苦笑いする俺を見て、ルーナも苦笑いで返した。


 手分けして掃除を始めると、次第に妙な点に気づき始めた。

 倉庫というには通路が広く取られ、棚が見当たらない。

 やけに排水溝が多く、壁には一定の間隔で金属の吊り金がかけてある。


「マックス!お風呂もあるわ」


 ミリアが嬉しそうに建物内を探索している。

奥には個室もあり、部屋を分けて住むこともできそうだ。


「きゃあ!」


 ある部屋に入ったヒナが悲鳴を上げた。


 飛んでいくと部屋には血痕が残っている。

 ヒナが真っ青な顔で立ち竦んでいた。


「ここは……」


「野戦病院ですね」


 ルーナの冷静な声が聞こえる。


「このままじゃ使えないな」


「改築を依頼しますか?」


 改築か。金がかかりそうだが……。

 チラッとヒナを見ると震えているのがわかる。

 はぁ……仕方ないな。


「見積もりを依頼してくれ、それと契約料を渡すよ」


「かしこまりました」


 契約料の金貨十枚をルーナに手渡すと、一度宿に引き返すことにした。


 その後、十日ほど宿屋に滞在することになった。


 ルーナが見つけてきた改築業者は仕事が早く、五日ほどで改築が終わると聞いて、正直ホッとした。

 見積書を見た時は、目が飛び出るかと思ったが……。

 背に腹は代えられないと思い、契約した。


 宿屋での滞在中も、ミリアの「このままじゃ引きこもりになるわよ」論が炸裂した。

 俺たちは手分けして、いろんな依頼をこなすことになる。

 大変だったが、おかげで改築費用の足しにはなった。


「マスター、会っていただきたい人物がいます」


 ある日ルーナに言われて、用意をして食堂に降りた。


 そこには上物の衣服を着た、線の細い男が立っていた。

 目は笑っているが、その表情からは気持ちが読みにくい。


「お初にお目にかかります、エギルと申します」


 見た目の若さからは想像できない落ち着いた佇まいだ。あれ、耳が……。


「君はエルフ……なのか?」


「はい」


 エギルは笑ったまま頷いた。


「実は、リライアンスの経理をお任せいただきたく」


「この御仁は信用できます、改築業者を紹介いただいたのもこの方です」


 ルーナがそう言うなら、問題は無いだろう。

 しかし……。


「ならエギル、一つ教えて欲しい」


「なんでしょう?」


「報酬の分けかたについて悩んでるんだ、何かいい解決策はないか」


 そう言うとエギルは顎に手を置き、「フム」と言ってから。


「報酬はマックス様、お一人のものにされるとよろしいかと」


「は?」


 一瞬、何を言っているのか理解できなかった。


 エギルは静かに笑っていた。

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