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第2話「ジャガイモくんとの出会い、そして土作り革命」

 さて、意気込んでみたはいいものの、現実は厳しい。


 まずは生き延びなければ話にならない。食料はメイドさんがくれたサンドイッチが一切れ。水筒の水も、もう底が見えている。


『水……どこかに水はないものか……』


 俺はスキルを使い、辺りの植物たちに片っ端から話しかけて回った。


 彼らの声は断片的で、赤ん坊の言葉のように拙い。それでも、必死に耳を傾けていると、いくつかの共通した単語が聞こえてきた。


『じめじめ……あっち……くらい……』

『ひんやり……おくのほう……』


 じめじめ、ひんやり。それは水気を示唆している言葉じゃないか?


 俺は植物たちが指し示す、岩場の奥へと向かった。ごつごつした岩を乗り越え、狭い隙間を抜けると、そこには小さな洞窟が口を開けていた。


 洞窟の壁からは、ぽたり、ぽたりと水滴が染み出している。その下には、小さな水たまりができていた。


「あった……!水だ!」


 思わず歓声を上げる。


 俺は水たまりの水を両手ですくい、ごくごくと喉を鳴らして飲んだ。少し土臭いが、乾ききった体には何よりのご馳走だ。


 これで当面の飲み水は確保できた。寝床も、この洞窟を使えば夜露や風をしのげるだろう。


 生存の基盤を確保し、ほっと一息ついた俺は、次なる課題に取り掛かることにした。


 食料の確保だ。


 洞窟の周りを探索していると、一角に、他の場所とは少しだけ違う土壌の場所を見つけた。


 岩が少なく、わずかに黒っぽい土が顔を覗かせている。そこに、数本の見慣れない植物が、弱々しく生えていた。


 葉は枯れかかっているが、その形には見覚えがある。


『まさか……』


 俺は祈るような気持ちで、その植物の根元を掘り返してみた。


 硬い土を指でかき分けていくと、ごつりとした感触。掘り出したそれを見て、俺は思わずガッツポーズをした。


「ジャガイモだ!」


 正確には、ジャガイモに酷似した異世界の植物だ。大きさはまばらで、小さいものはビー玉くらいしかないが、間違いなく芋だ。デンプン質を蓄える地下茎。これなら食料になる。


 早速、そのジャガイモ(仮)に触れて、対話を試みる。


『うぅ……くるしい……からだが、おもい……』


 ジャガイモくんは、かなり苦しそうだ。


『どうしたんだ?何が苦しい?』


『つち……かたい……いきが、できない……ごはんも、すくない……』


 なるほど。土が硬くて根が張れず、栄養も足りていないのか。


 見たところ、この辺りの土は粘土質で、水はけも悪そうだ。これでは植物が育つはずがない。


「よし、わかった。俺がお前らを元気に育ててやる」


 俺はジャガイモくんたちに力強く宣言した。


 ここからが、俺の専門分野だ。前世で培った土壌改良の知識が火を噴くぜ!


 まず必要なのは、有機物だ。


 土壌の栄養となり、微生物の住処となり、土をふかふかにしてくれる、最高の土壌改良材。


 俺は辺りを歩き回り、枯れ草や枯れ葉をかき集めた。幸い、こんな荒れ地でも、探せばそれなりに見つかる。


 次に必要なのは、窒素源だ。


 植物の成長に不可欠な栄養素だが、この枯れ谷には見当たらない。


 どうしたものかと考えながら洞窟に戻った俺は、あるものを見つけてニヤリと笑った。


 洞窟の隅に積もった、コウモリか何かのフンだ。いわゆる「グアノ」というやつで、リン酸や窒素を豊富に含む、極上の天然肥料じゃないか!


『うへぇ、ちょっと臭うけど、背に腹はかえられん』


 俺は枯れ葉を袋代わりにし、グアノを慎重に集めた。


 そして、集めた枯れ葉、グアノ、そして掘り起こした土を、一定の割合で混ぜ合わせていく。スキルの力で発酵を促進できるとはいえ、前世の知識では、炭素と窒素の比率、いわゆるC/N比が重要だ。まあ、今は正確な計測なんてできないから、完全に勘だけどな!


 そう自分に言い聞かせながら、俺は作業を続けた。


「よし、これで特製コンポストの完成だ」


 いわゆる堆肥作りだ。


 これをしばらく寝かせて発酵させれば、極上の腐葉土になる。


 だが、そんな時間は待てない。俺の腹も、ジャガイモくんたちも、待ったなしの状態だ。


 そこで、俺はさらに一工夫加えることにした。


「緑肥」の活用だ。


 緑肥とは、育てた植物をそのまま畑にすき込んで肥料にしてしまう農法のこと。


 俺は辺りに生えている雑草たちに話しかけ、ある特定の種類の草を探した。


『君たちの中に、根っこにコブみたいなのを作れるやつはいないか?』


『こぶ?なあに、それ?』


『ああ、僕、作れるよ。たまにできる』


 一人の雑草くんが、弱々しく答えてくれた。


 ビンゴ!マメ科の植物だ!


 マメ科の植物は、根に「根粒菌」という微生物を共生させ、空気中の窒素を固定して栄養に変えることができる。まさに、天然の肥料製造工場だ。


 俺は根粒菌を持つ雑草くんを数本見つけ、その根ごと丁寧に掘り起こした。そして、さっき作ったコンポストに混ぜ込む。


 これで、発酵を促進させつつ、窒素分をさらに補給できるはずだ。


「さあ、実験開始だ」


 俺は洞窟の前に、小さな畑を作ることにした。


 石を取り除き、クワの代わりになりそうな平たい石で地面を耕す。


 そこに、即席で作った改良土を混ぜ込み、ふかふかのうねを作った。たったこれだけの作業で、汗が噴き出し、息が上がる。このアレン・クローバーの体は、本当にひ弱らしい。


 最後に、掘り出したジャガイモくんたちを、丁寧に植え付けていく。


 一つの芋を、いくつかの芽が付くように切り分け、切り口に草木を燃やした灰を付けて腐敗を防ぐ。これも前世のばあちゃんの知恵袋だ。


 植え付けたジャガイモくんに、そっと触れてみる。


『わあ……ふかふか……あったかい……』


 さっきまでの苦しそうな声とは違う、心地よさそうな声が聞こえてきて、俺は思わず頬を緩めた。


『そうだろ?ここがお前たちの新しい家だ。たくさん栄養を吸って、大きくなるんだぞ』


『うん!がんばる!』


 元気な返事に、俺は力強くうなずいた。


 作業を終える頃には、空は茜色に染まっていた。


 メイドさんがくれた最後のサンドイッチを頬張りながら、自分が作った小さな、しかし希望に満ちた畑を眺める。


 広大な枯れ谷の中の、ほんの砂粒のような一角。


 だが、ここが間違いなく、俺の領地経営の第一歩だった。


『待ってろよ、兄貴たち。いつかこの枯れ谷を、王国一の穀倉地帯にして、見返してやる』


 腹はぺこぺこだったが、心は不思議な満足感で満たされていた。


 植物の声を聞き、土に触れる。それは、ブラック企業の研究室では決して味わえなかった、生きている実感そのものだった。


 俺の異世界スローライフは、泥と汗にまみれた、最高のスタートを切ったのだった。

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