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エピローグ「丘の上の約束」

 収穫祭から、さらに数年の時が流れた。


 俺たちの『恵みの谷』は、リーフランド王国で、いや、大陸でも有数の、豊かで平和な土地として、その名を知られるようになっていた。


『クローバー農法』は、王国中に定着し、リーフランド王国が、食糧危機に陥ることは、もう二度となかった。


 俺が育てた後継者たちは、見事にその役目を果たし、王国の農業を、さらに発展させ続けてくれている。


 そして、俺は今、谷を見下ろす、小高い丘の上に立っていた。


 ここは、俺がこの谷で、一番気に入っている場所だ。


 眼下には、どこまでも広がる、美しい田園風景。


 黄金色の小麦畑が、風に吹かれて、さざ波のように揺れている。


 整然と区画された畑では、色とりどりの野菜が、太陽の光を浴びて輝いている。


 村からは、人々の楽しそうな笑い声と、家畜ののどかな鳴き声が聞こえてくる。


 すべてが、俺が夢見た光景だった。


「ここで、何をしていたんだ?アレン」


 不意に、後ろから声をかけられた。


 振り返ると、そこには、リリアナ、ガルガン、そしてシルフィの姿があった。


 三人も、少しだけ、大人びた顔つきになった気がする。


「やあ、みんな。ただ、景色を眺めていただけだよ」


 俺がそう言うと、リリアナは、俺の隣に並んで、谷を見下ろした。


「本当に、信じられないわよね。ここが、ほんの数年前まで、『枯れ谷』って呼ばれてたなんて」


「うむ。すべては、アレン。お主が、この谷に来てくれたからだ」


 ガルガンが、しみじみとつぶやく。


「いいえ。アレンだけの力ではありません。ここにいる皆の力が、この谷を、ここまで豊かにしたのです」


 シルフィが、優しく微笑んだ。


 彼女の言う通りだ。


 俺一人では、何もできなかった。


 この仲間たちがいてくれたからこそ、今の『恵みの谷』がある。


 俺たちは、しばらくの間、言葉もなく、眼下に広がる美しい故郷を眺めていた。


 心地よい風が、俺たちの頬を撫でていく。


 それは、たくさんの植物たちの、幸せな囁き声のように聞こえた。


 やがて、リリアナが、何かを思い出したように、ポンと手を打った。


「そういえば、アレン。南の大陸の商人が、あなたの『空飛ぶカボチャ』の種を、金貨千枚で譲ってほしいって言ってたわよ。どうする?」


「金貨千枚か。すごいな。でも、断ってくれ。あれは、まだ改良の途中なんだ。もっと、美味しく、もっと遠くまで飛べるようにしてからじゃないと、世には出せない」


「がっはっは!相変わらずの、研究バカだな、お主は!」


「ガルガンさんだって、この前、夜通しで『自動草刈りカマ』の設計をしていたじゃないですか」


「アレンも、ガルガンも、少し働きすぎです。今夜は、私が作った薬膳スープで、ゆっくり体を休めてくださいね」


 いつもの、他愛のない会話。


 この、何でもない日常が、俺にとっては、何よりも愛おしい。


 俺は、空を見上げた。


 どこまでも青く、澄み渡った空。


 ブラック企業で、死んだように生きていた俺に、こんな未来が待っているなんて、誰が想像できただろうか。


 転生して、手に入れた、不思議な力。


 たくさんの、かけがえのない仲間たちとの出会い。


 そして、ゼロから作り上げた、この豊かな大地。


 俺の人生は、最高に、幸せだ。


「さあ、そろそろ戻ろうか。腹が減った。今日は、俺が特製のピザを焼いてやるよ」


 俺がそう言うと、三人は、待ってましたとばかりに、歓声を上げた。


 俺たちは、笑い合いながら、丘を下っていく。


 俺たちの家がある、温かい谷へと。


 これからも、俺たちの毎日は、続いていく。


 新しい作物の研究に、頭を悩ませる日もあるだろう。


 時には、仲間と、意見がぶつかることもあるかもしれない。


 でも、きっと、大丈夫だ。


 最後には、みんなで食卓を囲んで、笑い合っているはずだから。


 だって、俺たちは、家族なのだから。


 丘の上に、俺たちの笑い声が、いつまでも響いていた。


 風に乗って、遠く、遠くまで。


 この豊かな大地が、永遠に平和でありますようにと、願いを込めて。


 俺の異世界スローライフは、これからも、ずっと、続いていく。

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