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職員室の四銃士  作者: 花曇り


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4/22

恐怖の研究授業と裏切りのプロジェクター

 その日の朝、職員室の四銃士のリーダー(自称)、国語科の空木の顔色は、給食の牛乳を三日間炎天下のプールサイドで放置し、さらにそれを発酵させてヨーグルトにしようとして失敗したような色をしていた。土気色、という言葉が生ぬるい。もはや「この世の終わり色」と名付けてもいいほどの絶望的な顔色だ。

「……終わった。俺の教師生命は今日で終わりだ……。戒名は何がいいかな……『ICT院いん機械音痴居士きかいおんちこじ』とかかな……」

 空木がデスクに突っ伏し、うわ言のようにお経を唱えている。時刻は午前八時。爽やかな朝の光が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえる平和な職員室で、彼の席だけがブラックホールのように光を吸収し、どす黒いオーラを放っていた。

「おはようございます、空木先生。朝から生体反応が消えかけてますが、大丈夫ですか?AED持ってきましょうか?それとも住職呼びます?」

 社会科の海田が、淹れたてのコーヒーの芳醇な香りを漂わせながら出勤してきた。今日も今日とて、無駄に爽やかで、無駄に顔が良い。彼の整った顔立ちは、見ているだけで視力が回復しそうな輝きを放っているが、口から出る言葉は常に鋭利な刃物だ。

「海田ぁ……。お前には分からんのだ……。今日なんだよ……。例の『県教育委員会指定・ICT活用研究授業』が……」

 その単語を聞いた瞬間、海田の顔からスッと表情が消えた。近くの席で、コンビニのメロンパンと焼きそばパンを交互に貪っていた数学科の川島と、鏡を見ながら入念にヘアワックスで髪をいじっていた国語科の羽上も、ピタリと動きを止める。

 研究授業。それは、教師にとっての「公開処刑」であり「生存をかけたデスゲーム」である。他の教師のみならず、教育委員会の偉い人たち、さらには近隣の学校の先生方までを教室に招き、自分の授業を見せるという一大イベント。しかも今回は『ICT活用』という冠がついている。つまり、タブレット、プロジェクター、電子黒板、Wi-Fi環境……そういったハイテク機器を駆使し、「令和の最先端授業」を展開しなければならないのだ。

「ああ、そういえば今日でしたね。……空木さん、香典の用意しておきましょうか?今ならPayPayで送金できますけど」  

羽上が鏡の中の自分にウインクしながらサラッと言った。

「縁起でもないことを言うな!俺はまだ生きている!心拍数は今のところ正常だ!」

「でも空木先生」

と海田が冷静に分析を始める。

「先生とICT機器の相性は、水と油……いや、火薬と種火ですよ。この前も電子黒板を使おうとして、なぜか校内放送の回線にジャックインしてしまい、先生の『あー、腹減った。今日の給食なんだっけ』という独り言を全校生徒に配信したばかりじゃないですか」

「あれは事故だ! 配線の罠だ! ……ああっ、どうしよう! しかも、今日の視察に来る指導主事、誰だか知ってるか!? あの、通称『鬼の権田原』なんだぞ!」

「ご、権田原……!?」  

川島がメロンパンを喉に詰まらせかけ、激しく咳き込んだ。

「げほっ、ごほっ!あ、あの、目があっただけで石になると噂のメドゥーサみたいなおじさんですか!?」

「そうだ!授業中に欠伸をした生徒がいればチョークをスナイパーのように正確に飛ばし、教師の説明が噛めば即座に『やり直し』の号令をかけるという、あの伝説の権田原だ!」

「終わりましたね」  

三人の声が見事にハモった。

        

 絶望に打ちひしがれる空木をよそに、時間は無情にも過ぎていく。しかし、彼ら「職員室の四銃士」の結束は固い(はずだ)。四人は始業前のわずかな時間を使って、緊急作戦会議兼リハーサルを開くことにした。

「いいですか空木先生。ICT活用の基本は『堂々とすること』です」  

海田が空木のタブレットを手に取り、説教を始める。

「機械トラブルはつきものです。Wi-Fiが切れる、画面がフリーズする、電源が入らない。そんな時、焦ってオロオロするのが一番の減点対象です。『これは演出です』『皆さんに考える時間を与えているのです』という顔をして乗り切るのです」

「演出でフリーズをごまかせるか!?画面が砂嵐になっても『これは芸術です』って言うのか!?」

「ボス、困ったら身体言語ボディランゲージっすよ!」  

川島がその巨体を揺らし、腕をブンブンと振り回す。

「画面が消えたら、先生自身がメロスになればいいんです。教室を走り回り、『ゼーッ、ハーッ』って息を切らしながら朗読すれば、臨場感MAXっすよ!」

「ただの不審者だろ!権田原に通報されて連行されるわ!」

「僕からのアドバイスは一つです」  

羽上がキメ顔で親指を立てた。

「笑顔です。トラブルが起きたら、とりあえずイケメンスマイルで権田原のハートを射抜くんです。ウインクの一つも飛ばせば、あのおじさんも『ポッ』となるかもしれませんよ」

「相手は還暦近い厳格なおっさんだぞ!あと俺はお前ほど顔面偏差値が高くないし、ウインクなんてしたら『目にゴミが入ったのか』って保健室に連れて行かれるのがオチだ!」

「まあまあ、とりあえずスライドの確認をしましょう」  

海田がプロジェクターを職員室の壁に向けて投影した。

バッ。映し出されたのは、空木が徹夜で作った渾身のパワーポイント資料だ。

『走れメロス 〜友情と信頼の絆〜』

 タイトルは普通だ。しかし、次のスライドに進んだ瞬間、全員が絶句した。

文字が、回転しながら飛び出してきたのだ。しかも、一文字ずつ。『走』グルグルグル……ドン! 『れ』グルグルグル……ドン!

「……空木先生」

「なんだ、かっこいいだろ? 『アニメーション』機能をフル活用してみたんだ」

「うっとうしいです。文字が出るだけで五秒かかってますよ。授業時間が足りなくなります」  

海田がバッサリ切り捨てる。

「それに、この配色はなんですか」

と羽上。

「背景が蛍光ピンクで、文字が蛍光グリーン……。目がチカチカして、見ているだけで三半規管がやられそうです」

「これは『補色』の関係を利用して、文字を目立たせようと……」

「目立ちすぎて網膜が焼けそうです。ポケモンショックの再来ですか」

「あとボス、この挿絵……」

川島が指差す。

「メロスの画像がないからって、なんで俺の去年の体育祭の写真を貼ってるんすか?しかも、パン食い競争で必死な顔してるやつ」

「いや、川島の必死な表情が、メロスの焦燥感とリンクすると思って」

「肖像権の侵害っすよ!生徒が笑って授業どころじゃなくなるっす!」

「ええい、もう修正している時間はない!」  

空木は開き直った。

「このサイケデリックなスライドと、川島のパン食い競争写真で勝負するしかないんだ!」

 チャイムが鳴った。  運命のゴングだ。

「行ってくる……。もし俺が帰ってこなかったら、机の中の引き出しの奥底に隠してある『モテる男の会話術』っていう本、誰にも見せずに焼却処分してくれ……」

「遺言が情けなさすぎますね」

 空木はタブレットとHDMIケーブル、そして予備のチョークを震える手で握りしめ、戦場となる2年B組へと向かった。その背中は、虎の穴に向かう戦士というよりは、ドナドナの仔牛のようだった。

        

 2年B組の教室は、異様な緊張感に包まれていた。普段は賑やかな生徒たちも、今日ばかりは借りてきた猫……いや、剥製になった猫のように静まり返っている。

 教室の後方には、ズラリと並んだスーツ姿の教員たち。校長、教頭、他校の先生、そして教育委員会の視察団。その中心に、腕を組み、仁王像のような形相で座る男がいた。『鬼の権田原』である。スキンヘッドに黒縁メガネ。その眼光は鋭く、空気中のホコリの動きすら監視しているような迫力がある。彼がペンを走らせるカリカリカリ……だけが、静寂な教室に不気味に響いていた。

(ひいいい!胃が痛い!口から心臓が出そうだ!いや、もう出てるかもしれない!)

 教壇に立った空木の足は、生まれたての子鹿のようにガクガクと震えていた。しかし、生徒たちは意外にも協力的だった。普段は授業中に寝てばかりの田中ですら、小声で「先生、頑張れ。俺たちも空気読むから」と囁いている。生徒たちの優しさが、逆にプレッシャーとなって空木にのしかかる。

「えー、で、では、授業を始めます。き、起立!礼!着席!」

 空木の声が裏返った。生徒たちが一斉に立ち上がり、そして座る。その動作の風圧だけで空木は吹き飛びそうだった。

「今日は、えー、タブレットを使って、『走れメロス』の心情を科学的に分析します」

 空木は震える手で、タブレットをプロジェクターのケーブルに接続した。頼む、動いてくれ。昨日の夜、三回もリハーサルしたんだ。大丈夫なはずだ。

「まずは、導入として……この画面を見てください」

 空木がスイッチを入れる。 プロジェクターのファンが唸りを上げ、スクリーンに光が投射された。

 バッ!

 映し出されたのは、教科書の本文…… ではなく。

『検索履歴:30代 独身 出会い 無料』

『検索履歴:彼女 作り方 最短 魔法』

『検索履歴:筋肉痛 治し方 即効』

『検索履歴:権田原 弱点 攻略法』

『検索履歴:薄毛 予防 ワカメ』

 大画面に高解像度で晒される、空木のプライベートな苦悩と欲望の数々。

「ぶふっ!」  

教室のどこからか、こらえきれない噴出音が聞こえた。生徒たちが肩を震わせている。後ろに控えていた海田が、手で顔を覆って天を仰いだ。川島は腹を抱えて笑いを噛み殺し、羽上はスマホを取り出してこっそり撮影しようとしている。

 そして、権田原の極太の眉毛がピクリと動いた。ペンの動きが止まる。

「あわわわわ!ち、違うんです!これは、その、メロスの孤独感を表現するための導入で……!メロスもきっと、こういう悩みを抱えていたに違いないという、現代的解釈でして!!」

 空木は必死に言い訳しながら、画面を切り替えた。脇汗が滝のように流れ、シャツの色が変わっていく。冷や汗でタブレットの画面が濡れ、タッチ操作がうまく反応しない。

「えー、き、気を取り直して!次に、メロスの走る速度を計算したスライドを表示します!」

 空木が指を滑らせる。 しかし、汗で滑った指は、目的の『スライド資料』アプリではなく、その隣にあった『ミュージック』アプリをタップしてしまった。

 よりにもよって、音量はMAX設定のままだ。

 ドゴォォォォォン!!

 教室の高品質スピーカーから、爆音が炸裂した。流れてきたのは、空木が通勤中にテンションを上げるためだけに聴いている、北欧産のゴリゴリのデスメタルバンド『地獄のケルベロス』の代表曲だ。

『デ〜ス! デ〜ス! 地獄へ落ちろ〜!全ての希望を捨てよ〜!イェエエエエ!ブラッディ・カーニバル!!』

 教室に響き渡るデスボイスと、高速のツーバスドラム。静寂な国語の授業が、一瞬にしてカオスなライブハウスと化した。

「ぎゃあああ! 止まれ! 止まってくれぇぇ!!」

 空木がパニックになってタブレットを叩くが、フリーズして操作を受け付けない。音楽は止まらない。  

『破壊せよ! 破壊せよ!』というシャウトが、権田原のスキンヘッドに直撃する。

 生徒たちは最初は驚いていたが、あまりの状況に爆笑し始め、何人かの男子生徒はリズムに合わせてヘドバンを始めた。田中がエアギターを披露し、教室のボルテージは最高潮に達した。

 権田原の顔が、赤鬼のように紅潮していく。手に持っていたボールペンが、メキッという音を立ててへし折れた。

「空木先生!!」

 権田原の怒号が、デスメタルの轟音すら切り裂いて響き渡った。空気が凍りつく。

「は、はいぃっ!!」  

空木は反射的に直立不動になった。その拍子に足がケーブルに引っかかり、タブレットが床に落下。その衝撃でようやく接続が切れ、音楽が止まった。

 シーン……。  耳鳴りがするほどの静寂。

 権田原がゆっくりと立ち上がり、空木の方へ歩み寄る。その一歩一歩が、処刑台へのカウントダウンのように聞こえる。

「……何ですか、これは。これが、貴方の言うICT活用ですか?授業中にデスメタルを流し、生徒を興奮させることが、教育だと?」

 低い、地を這うような声。 空木は脂汗まみれで直立したまま、死を覚悟した。ああ、さようなら教員生活。さようなら退職金。さようなら生徒たち。

「い、いえ、これは……その……」

 言い訳の言葉が見つからない。  もうダメだ。

 その時だ。

「先生!」

 一番前の席に座っていた田中が、ビシッと手を挙げた。空木が驚いて目を見開く。

「俺、今の曲で分かりました!」  

田中が大声で叫ぶ。

「は?」

と権田原が足を止める。

「メロスの『激怒』ってやつですよ!教科書には『メロスは激怒した』って一行しか書いてないけど、それってどれくらいの怒りなのか想像つかなかったんすよ。でも、今の曲みたいに、もう制御できないくらい爆発しそうで、頭の中がグチャグチャになるくらいの感情だったんですよね!だから、あんな無茶して、全裸で走ったりできたんだと思います!」

 田中の必死のフォローに、他の生徒たちも察したように頷き始めた。

「た、確かに!」

と委員長の女子。

「ただ怒ってるだけじゃなくて、魂の叫びって感じしました!」

「メロス、ロックだね!」 「先生、すごい演出!マジでビビったけど、メロスの気持ち、超わかった!」

 教室中から「そうだそうだ」という声が上がる。 空木は目を丸くした。 (こ、こいつら……! 俺を庇ってくれているのか……!?)

 視界が涙で滲む。 空木は生徒たちの優しさに震えながら、田中に向かって心の中で五体投地の感謝を捧げた。ありがとう田中。お前の補習は、今度手加減してやるからな。

「そ、そうです! まさにその通り!」

 空木は乗っかった。全力で乗っかった。

「言葉だけでは伝わりにくい『激怒』のエネルギーを、聴覚に訴えかけることで直感的に理解してもらおうと思ったのです!これぞ、マルチメディア時代の共感覚的アプローチ!」

 権田原はしばらく生徒たちの熱気と、汗だくの空木を交互に見ていた。その目は、値踏みをするように細められている。

 やがて、彼はフンと鼻を鳴らした。

「……まあ、いいでしょう。極めて型破りであり、心臓に悪い授業ですが……生徒の関心は惹きつけたようです。……続きをやりたまえ」

「あ、ありがとうございます!」

 首の皮一枚で繋がった。しかし、トラブルの神様はまだ空木を許さない。

 授業終盤。空木は最後のまとめとして、最新機能である『音声認識文字起こし』を使って、黒板にカッコよくテーマを表示させようとした。

「では最後に、この物語の核心となるテーマを、音声入力でスクリーンに表示します」

 空木はマイクに向かって、高らかに叫んだ。滑舌よく、ハッキリと。

信実しんじつとは、決して裏切らないこと!」

 ピロン。  認識音が鳴り、スクリーンに文字が表示される。

『真実とは、決して売らないこと』

「スーパーの安売りか!」  

生徒総ツッコミ。

「ち、違う!なんで商売の話になるんだ!もう一回!」  

空木は焦って叫び直す。

「友情は、美しい!」

 ピロン。

『表情は、うっとうしい』

「メロス、性格悪っ!」  

再び爆笑の渦。

「ああもう!なんで俺の滑舌を理解してくれないんだお前は!Siriか!?Siriの親戚か!?」  

空木がタブレットに向かって怒鳴る。

「もういい!最後はこれだ!『メロスは走った』!」

 ピロン。

『メロンは腐った』

「食材を無駄にするな!!」

 ドッという笑い声が教室を揺らす。 権田原も、口元をピクピクと痙攣させている。笑っているのか、怒っているのか判別不能だ。

「ええい、もうICTなんて知るか!最後はアナログだ!チョークを持ってこい!」

 空木はタブレットを放り投げ(海田がナイスキャッチした)、チョークを握りしめた。黒板に向かい、力強く文字を書く。

『信実』

 バキッ! 力が入りすぎてチョークが折れ、破片が空木の額に跳ね返った。それでも彼は書き続けた。粉まみれになりながら、汗だくになりながら。

 チャイムが鳴った。

 空木は肩で息をしながら、生徒たちに向き直った。髪はボサボサ、シャツは汗でスケスケ、額にはチョークの粉。ICT活用のスマートさのかけらもない、泥臭い姿。

 しかし。生徒たちからは、自然と拍手が起こった。最初はパラパラと。やがて、それは大きな波となって教室を満たした。それは、完璧な授業への称賛ではなく、トラブルに立ち向かい、必死に戦い抜いた道化師への、温かい労いと愛の拍手だった。

        

 放課後。生徒たちが帰り、静けさを取り戻した職員室。空木は、自分のデスクで真っ白な灰になっていた。

「……終わった……。もう権田原に何を言われるか……。クビかな……。明日から山に籠もってキノコでも育てようかな……」

「お疲れ様です、ボス」  

川島が缶コーヒーを差し出す。

「面白かったっすよ。特にあのヘヴィメタル。あれ、俺のオススメの曲ですよね?まさか授業で流してくれるとは、ボスも通っすねえ」

「お前のせいか!タブレット同期させたの誰だ!あとで体育館裏に来い、投げ飛ばしてやる!」

「でも空木先生」  

海田が珍しく優しい声色で言った。彼はパソコンで報告書を打ちながら、チラリと空木を見た。

「さっき、権田原先生が帰る時、玄関で僕にこう言ってましたよ」

「……なんて?『あの教師を今すぐ処分しろ』って?」  

空木が恐る恐る顔を上げる。

「いえ。『ICTの使い方は最低最悪、目も当てられない惨状だったが……生徒との信頼関係だけは、評価に値するな』って」

「……え?」

「『あんなに生徒が必死にフォローする教師は、そうそういない。……まあ、あんな変な教師が一人くらいいてもいいだろう。ただし、検索履歴は消去しておけと伝えてくれ』だそうです」

「……」

 空木の目から、じわりと涙が溢れた。 緊張の糸が切れ、安堵感が津波のように押し寄せる。

「よかった……。クビにならなくてよかった……。検索履歴は見られたけど……」

「検索履歴といえば」  

羽上がニヤリと笑いながらスマホを見せてきた。

「『権田原 弱点』っていう検索履歴、権田原先生には逆にウケてましたよ。『私も昔は、上司の弱点を検索したものだ。ちなみに私の弱点は、孫の笑顔だ』ってボソッと言ってました」

「権田原にも孫がいるのかよ!ていうか、人間だったのか!」

「ま、一件落着ですね」  

海田がまとめた。

「とりあえず、空木先生のICTスキルが絶望的だということは証明されましたので、来週の職員会議のプレゼンは僕がやりますよ」 「海田ぁ……!お前はやっぱりいい奴だ……!」

「ただし、報酬は焼肉で。特上の」

「足元見やがって!」

 騒動も一段落し、四人が笑い合っていると、羽上が再びスマホを見て声を上げた。

「あ、でも空木先生。一つ問題が発生しました」

「なんだ? まだ何かあるのか?」

「さっきの授業の様子、誰かが動画に撮ってSNSに上げたらしくて、今バズってます」

「は?」

「タイトル、『爆誕!ヘヴィメタル国語教師 〜メロスは激怒し、メロンは腐った〜』」

「なにぃいいいい!?」

「再生回数、既に三万回超えてますね。急上昇ランク入りしてます」  

羽上が楽しそうに画面をスクロールする。

「コメント欄見てください。『この先生の授業受けたい』『ロックすぎる』『動きが小動物みたいで可愛い』『最後のドヤ顔でチョーク折るところ最高』……大人気じゃないですか」

「削除だ! 今すぐ削除させろ!俺の威厳が!俺の教師としての品格が!」

「威厳なんて最初からありませんよ。品格も、パン食い競争の写真が出た時点でマイナスです」  

海田が冷たく言い放つ。

「あ、リミックス動画も作られてますよ!先生の『メロンは腐った』って声をサンプリングして、クラブミュージックになってます!」  川島がリズムに乗り出す。

「ズンチャ、ズンチャ、メロンは腐った♪ ズンチャ♪」

「やめろおおお! 俺をネットのおもちゃにするなぁぁぁ!!」

 夕暮れの職員室に、空木の絶叫が再び響き渡った。ハイテク機器には完敗したが、生徒と世間の注目(と笑い)を一身に浴びた空木先生。彼の受難の日々は、まだまだ続くのである。机の上では、放置されたタブレットが、勝手にSiriを起動させていた。 『スミマセン、ヨク聞キ取レマセンデシタ』 「もう喋るな!!」


(エピソード4・完)

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